
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進:データが示す組織の活性化
2010年以降、「D&I」(ダイバーシティ&インクルージョン)という用語を見聞きするようになりました。D&Iは、単なる企業の社会貢献ではありません。企業がD&Iへの取り組みを積極的に行うことで、社会からの信頼を得られます。企業の収益アップや発展を実現しやすくなることも、見逃せないメリットです。
これからの経営や事業運営には、D&Iを踏まえた進め方が不可欠です。この記事ではD&Iの意味と重要性、業績アップや企業の発展との関係性、進め方や事例を解説します。D&Iについて知りたい方は、ぜひお読みください。
【このシリーズを読んでほしい人!】
・D&Iの意味をよく理解していない人
・D&Iが経営や企業の発展にどうつながるか、疑問を持つ人
・D&Iの進め方を知りたい人
【このシリーズを読むことでのベネフィット】
・D&Iとはなにか、またD&Iの重要性を理解できる
・D&Iを実現するプロセスを理解できる
・人事コンサルティングの活用に興味を持つ
そもそも「D&I」(ダイバーシティ&インクルージョン)とはなにか

D&Iは、令和の時代に注目されている「ダイバーシティ」と「インクルージョン」の2つを組み合わせた用語です。経済産業省が2025年に公表した「企業の競争力強化のためのダイバーシティ経営(ダイバーシティレポート)」では、以下のように定義されています。
用語 | 特徴 |
ダイバーシティ | 性別、年齢、国籍、人種、価値観、キャリア、働き方の意向等を限定せず、企業の経営戦略実現の上で必要な知・経験を持つ多様な人材のポートフォリオを整えること。 |
インクルージョン | 企業の経営戦略実現の上で必要な知・経験を持つ多様な人材が、本人ならではの強みを発揮しつつ、組織に帰属感を持ち、その能力を十分に発揮して職場や企業の成果に貢献できていると実感できる状態をつくること。 |
D&Iは、単に多様性を認め合うだけではありません。個性や属性を組織で活かし、より良い事業運営や変革、収益の拡大につなげる取り組みを指します。
D&Iを実現する取り組みの例
企業が行う取り組みのうち、D&Iの実現につながるものは多数あります。一例を確認していきましょう。
・左利き用の道具や機器を用意する(はさみなど)
・育児や介護と仕事を両立できる制度を整備する(育児休暇、介護休暇、短時間勤務制度など)
・健康状態や障がいの状態に応じて、快適に働ける仕組みをつくる(エフ休暇など)
・宗教や地域の行事に配慮し、スケジュールを組む
・他の地域の出身者、外国人による観点を参考にして、観光客向けのサービスを見直す
・能力のある高齢者を積極的に採用し、知見を活かした業務を進める
D&Iに取り組むきっかけやヒントは、日常業務のなかでも多数あります。「自社でも取り組めそうな項目がある」と思った方も、多いのではないでしょうか。
なぜ今、D&Iが企業における最も重要な課題なのか
D&Iが企業に求められる理由は、CSR(企業の社会的責任)や法令遵守にとどまりません。いまや増収・増益や事業拡大といった、経営戦略として位置付けられる最も重要な課題の一つです。D&Iが重視される理由を、2つの観点から確認していきましょう。
D&Iは単なるCSRではなく、経営戦略の一つ
D&Iは人権の尊重などが含まれるため、CSRの側面が強い取り組みのように見えます。一方でイノベーションや企業のイメージ向上、増収増益など、経営戦略の一つであることも見逃せません。
異なるバックグラウンドを持つ人の参画は、事業に新しい視点をもたらします。新しい製品やサービスの開発、これまでと異なる方法での仕事の進め方といったイノベーションは代表的な例です。新しい市場の開拓や効率的な業務遂行により、企業に利益をもたらすでしょう。
また令和の時代、D&Iはそれ自体が企業のイメージ向上に役立ちます。「人を大切にする企業」というイメージを、社会に与えるためです。貴社のD&Iに共感しロイヤリティを抱く方が増えれば、固定客の増加による増収も見込めるでしょう。優秀な従業員の採用もしやすくなります。
表面的な理解に留まらず、データに基づいたD&I推進の重要性
D&Iの効果は、定量的に測定できます。他の経営指標と同様に、数値を用いた評価を行うことが重要です。
JobRainbowは毎年「D&I AWARD」を開催し、D&Iに取り組む企業に対する評価を行っています。「ダイバーシティスコア」「インクルージョンスコア」それぞれの達成度は、数値を用いて可視化できます。複数の年にわたる推移も、簡単に比較できるでしょう。
以下の項目も、D&Iに関する指標として扱われます。
・管理職における女性の割合
・女性や外国人の割合、および採用人数の推移
・D&Iに対応する前後の業績
上記の指標は、D&Iの効果を知るうえで重要です。積極的に収集し、D&Iの評価にお役立てください。
データが示す!D&Iの推進によるビジネスへのメリット
D&Iの推進は、ビジネスにさまざまなメリットをもたらします。この記事では「業績」「従業員のエンゲージメントやパフォーマンス」「採用ブランディングや人材獲得力」の3項目について、詳しく解説します。
D&Iと企業業績の相関関係
D&Iと企業の業績には、正の相関関係が示されています。D&Iを進めることで業績も上向くというわけです。
例えば経済産業省により公表されている「企業の競争力強化のためのダイバーシティ経営(ダイバーシティレポート)」では、経営層の多様性とイノベーションへの影響を取り上げています。経営層の多様性スコアが平均以上の企業は、イノベーションによる売上高の割合が高く、変化に強い企業体質となっていることがうかがえます。
経営層の多様性スコア | イノベーションによる売上高の割合 |
平均未満の企業 | 26% |
平均以上の企業 | 45% |
また内部監査人協会ではマッキンゼー・アンド・カンパニーが2018年に実施した調査「ダイバーシティによる成果」を取り上げ、以下のように示しています。
・経営陣の性別のダイバーシティが上位4分の1の企業は、(下位4分の1の企業に比べて)収益性が上回る可能性は21%高く、優れた価値を創造する可能性は27%高かった。
・ 経営陣の民族や文化のダイバーシティが上位4分の1の企業は、(下位4分の1の企業に比べて)業界トップの収益性を達成する可能性が33%高かった。
・経営陣の性別と民族や文化のダイバーシティの両方が下位4分の1にある企業は、マッキンゼー・アンド・カンパニーがデータを持つ他の全企業よりも平均を超える収益性を達成する可能性が29%低かった
出典:内部監査人協会「ダイバーシティとインクルージョンが組織体に与える影響の把握」 p35
D&Iの取り組みが進んでいる企業はより多くの収益を生みやすく、優れた価値や変化への対応も進めやすいことがわかります。
従業員エンゲージメントやパフォーマンス向上への寄与
D&Iは、従業員エンゲージメントの向上にも寄与しています。NTTデータ経営研究所は「Diversity, Equity and Inclusion (DE&I)に関する実態調査」」において、ワークエンゲージメントが高くなるケースを以下のとおり公表しています。
・ダイバーシティの認知度が高い
・インクルージョンの認知度が高い
・身体障がい者や精神障がい者との接触頻度が多い
加えて障がい者との接触頻度が高くなると、組織文化やリーダーへの満足度が高くなる傾向もみられました。一方で女性や外国人との接触が多いこととワークエンゲージメントに、直接の相関はみられませんでした。
D&Iは、従業員のパフォーマンス向上にも寄与する施策です。「Diversity, Equity and Inclusion (DE&I)に関する実態調査」」では、パフォーマンスの一部である「プレゼンティーズム」に関する結果も公表しています。プレゼンティーズムとは心身の問題が原因で、業務の生産性が下がる状態を指します。組織文化やリーダーへの満足度が高いほど、心身ともに健やかな従業員が多くなりました。
採用ブランディングと人材獲得力
D&Iは、企業の採用活動や人材の獲得にも影響をおよぼします。求職者は、D&Iに積極的な企業を選ぶ傾向があるためです。
学情は2024年8月16日に、2026年3月卒業予定の大学生・大学院生に対するアンケートの結果を公表しました。「就職活動において、企業の「D&I」に関する考え方を知ると志望度が上がりますか?」という質問に対して、以下の回答を得ました。
・全体の約4分の1(24.3%)の学生は、「志望度が上がる」と回答
・全体の62.3%の学生は、「志望度が上がる」「どちらかと言えば志望度が上がる」と回答
・「志望度は上がらない」「どちらかと言えば志望度は上がらない」学生は、全体の9.0%
出典:学情「「ダイバーシティ&インクルージョン」への考え方を知ると、「志望度が上がる」とした学生が 6 割超。」
D&Iに注目する方は多いです。前向きに取り組むことで、優秀な求職者から注目されやすくなり、良い人材の採用につながるでしょう。
データで見る、日本企業におけるD&Iの現状と課題
ここまで解説したとおり、D&Iは業績のアップにつながるとともに、働きやすさや従業員エンゲージメントの向上にもつながる施策です。良いことずくめのように見えますが、日本企業での導入は十分に進んでいるといえません。現状とD&Iが進まない理由はなぜか、確認していきましょう。
日本の女性管理職比率、外国人材比率などの現状
女性の比率や外国人材の比率を向上させることは、D&Iの代表的な施策です。日本におけるそれぞれの現状を紹介します。
管理職における女性の比率はまだ少ない
管理職における女性の割合は緩やかに増加し続けていますが、まだ多いとはいえません。厚生労働省は企業規模10人以上における2023年度(令和5年度)の数値を、「役職別女性管理職等割合」と「役職別女性管理職等を有する企業割合」に分けて公表しています。
役職 | 女性管理職等の割合 | 女性管理職等を有する企業割合 |
係長相当職 | 19.5% | 23.9% |
課長相当職 | 12.0% | 21.5% |
部長相当職 | 7.9% | 12.1% |
役員 | 20.9% | 33.6% |
係長でも、女性の割合は2割に届いていません。女性管理職の割合は、係長から課長、課長から部長と、役職が上がるにつれてさらに少なくなっています。この傾向は、2010年代から変わっていません。

また女性管理職等を有する企業の割合は、2010年以降はほぼ横ばいとなっています。女性管理職を積極的に登用する取り組みは、広がっているとはいえません。

外国人材では「期間の定めのある雇用」が多い
D&Iが十分に進んでいない実情は、外国人の雇用状況にも現れています。厚生労働省は「令和5年外国人雇用実態調査の概要」において、以下の結果を公表しています。
・期間の定めの無い条件で働く外国人労働者は43.0%
・期間の定めがある条件で働く外国人労働者は56.5%
読者のなかには、「多くの外国人労働者は在留資格の更新が必要なのだから、期間の定めはあって当然」と思う方もいるかもしれません。この考えは、必ずしも正しいとはいえません。
「令和5年外国人雇用実態調査の概要」では永住者や定住者など、職種や時間に制限なく働ける外国人についても調査結果を公表しています。一例として、期限なく日本に住み続けられる「永住者」の結果を示します。
・期間の定めの無い条件で働く永住者は59.9%
・期間の定めがある条件で働く永住者は39.6%
在留条件に関わらず、外国人というだけで不利になっている実情がうかがえます。
日本人も含めた2023年1月1日時点の常用労働者数は、期間の定めの無い労働者が3,909万人、期間の定めがある労働者は1,276万人です。外国人は日本人と比べて、長く働き続けにくい環境に置かれているといえるでしょう。
D&I推進における阻害要因のデータ分析
日本でD&Iがなかなか広がらない背景には、日本社会に横たわるいくつかの要因があります。川﨑昌と伊藤利佳は「ダイバーシティ推進の阻害要因に関するテキスト分析」において、D&I推進における阻害要因を以下のとおり提示しています。
阻害要因 | 阻害要因として指摘した年齢層 |
偏見 | 男女ともすべての年代 |
画一的な教育 | 男女ともすべての年代 |
多様性を尊重する教育の不足 | 20代男性、30代~40代女性 |
同調圧力 | 20代男性、30代男女、40代男性 |
男らしさ・女らしさの縛り | 20代・50代女性 |
多様性推進への抵抗感 | 20代~30代男性 |
社会における余裕の無さ | 30代女性、40代男性、60代男性 |
マスコミによる偏った報道 | 30代女性、40代男性 |
昔からの価値観や慣習 | 50代~60代女性 |
オフィスの中や身近な人間関係で起こり得る項目から社会全体にわたる項目まで、日本はD&Iを阻む要因であふれていることがわかります。
データに基づいたD&I推進の具体的なアプローチ
ここまで、D&Iがもたらす効果と重要性を解説しました。「自社でD&Iを推進したい」と思った方も、多いでしょう。一方でどのように進めればよいか、お悩みの方もいるかもしれません。
D&Iの推進は、3つのステップを踏んで進めることをおすすめします。何を行えばよいか、順に確認していきましょう。
現状把握:D&Iに関するスコアを「見える化」する
D&Iを推進する一丁目一番地は、現状の把握です。D&Iは「ダイバーシティスコア」「インクルージョンスコア」を用いて、数値で定量的に可視化できます。このような評価制度を積極的に活用し、D&Iに関するスコアを「見える化」しましょう。
目標設定と進捗管理:KPIでD&Iを推進する
D&Iの現状をもとに、貴社の目標と達成時期を定めましょう。目標はKPI(重要業績評価指標)として、定量的に評価できる項目を用意することがおすすめです。KPIの一例を、以下に示します。
・女性管理職の割合
・採用者における女性の割合
・外国人の割合
・育児休業の取得率(男性・女性とも)
・障がい者の雇用率
・高齢者の雇用率
社会の要求も踏まえつつ、貴社に合うKPIを選び、目標として定めましょう。定期的に進捗を管理し、達成率をチェックすることも重要です。
施策の効果測定:データで検証するD&I施策
KPIの数値を追うことで、施策の評価を客観的かつ明確に行えます。施策がD&Iの前進に役立ったのかどうかという効果測定は、データなど客観的な数値をもとに検証するとよいでしょう。
成功事例に学ぶD&Iデータ活用のヒント
ここからはデータを活用してD&Iの成功につなげた事例と、成功へのヒントを確認していきましょう。
先進企業のD&Iデータ活用事例の紹介
D&Iデータを経営に活かし、成功につなげた企業はいくつかあります。大手製造業A社は、役員層の多様性を高める取り組みを行っています。2030年度までに役員層のうち女性と外国人の割合をそれぞれ30%とすることを、2021年に公表しました。2024年6月の時点で、役員層のうち女性の割合は11.8%、外国人の割合は25%となっています。
小売業B社は女性や障がい者、高齢者など、さまざまな人が活躍できる職場づくりに取り組んできました。男性の育児休業率は2019年3月期以降、5年連続で100%を達成(2023年12月14日時点)。障がい者の雇用率は法定の「2.5%」を上回る、3.07%を達成しています(2024年6月1日時点)。また最長70歳まで契約を更新できる「再雇用支援制度」も設けています。
D&I推進における経営層のコミットメントとデータ連携
D&Iは企業経営に直結し、業績にも大きな影響を与える施策です。推進にあたっては、経営層のコミットメントと後押しが求められます。D&Iを推進する部署やプロジェクトは、経営層が直接指揮する組織体制にすることで、進めやすくなります。
あわせて目標を明確にして、達成度を評価しやすくするためにも、データ連携の活用も求められます。
D&Iの推進は「すごい人事®コンサルティング」の活用を
D&Iの推進には、「すごい人事コンサルティング」が役立ちます。人事コンサルタントが貴社の現状をていねいに聞き取ったうえで、豊富な知識と経験を活用して最良の方法をアドバイスいたします。
D&Iは、しばしば全社規模の大がかりな取り組みとなります。成功させるためには、早期の段階から相談することがおすすめです。D&Iの必要性を感じたら、まずは「すごい人事コンサルティング」にご相談ください。
まとめ
D&Iは、いまや企業の負担となる取り組みではありません。企業の業績アップと発展・成長につながる、有効な取り組みです。新しい商品やサービス、事業の展開、そして顧客からの評価が上がることは、D&Iによって得られる代表的な成果です。令和の時代、D&Iを避け続けることは、競争に不利な要因となりかねません。積極的に取り組むことがおすすめです。
もっともD&Iに関する豊富なノウハウを持つ企業は、多くないでしょう。早期の段階から専門家のアドバイスを受けることで、D&Iを効果的・効率的に進めることが可能です。この機会に、ぜひ「すごい人事コンサルティング」をご活用ください。

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