内定者研修に給料は必要?違法になるケースと適法な実施方法を解説

最終更新日:2025年7月11日

新年度を迎える準備として、多くの企業が内定者研修の実施を検討しています。しかし、人事担当者の中には「内定者研修は違法になるのではないか」「給料を支払う必要があるのか」といった法的な不安を抱えている方も少なくありません。実際に、内定者研修の実施方法を間違えると労働基準法違反となり、労使トラブルに発展する可能性があります。

内定者はまだ正式な従業員ではないため、研修の実施には特別な配慮が必要です。参加の強制や業務に関する指示を行えば、それは労働とみなされ、賃金の支払い義務が発生します。一方で、適切に実施すれば内定者の不安解消や早期戦力化に大きく貢献する有効な施策となります。

本記事では、内定者研修の法的な判断基準から具体的な実施方法まで、人事担当者が知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。

目次

内定者研修とは何か?基本的な概要

内定者研修の目的

内定者研修の定義と目的

内定者研修とは、企業が正式な入社前の内定者に対して実施する教育プログラムのことです。一般的に「内定者教育」や「入社前研修」とも呼ばれ、内定通知から入社までの期間に行われます。この研修は、内定者がまだ正式な従業員ではない状態で実施されるため、通常の社員研修とは異なる法的な配慮が必要となります。

企業が内定者研修を実施する主な目的は大きく分けて三つあります。

第一に、内定者の不安や悩みの解消です。内定者の多くは、新しい職場環境への適応や業務内容への不安を抱えています。研修を通じて企業文化や職場の雰囲気を事前に理解してもらうことで、これらの不安を軽減できます。

第二の目的は、即戦力として活躍してもらうためのスキルアップです。基本的なビジネスマナーや業界知識、企業固有のルールなどを事前に習得してもらうことで、入社後のスムーズな業務開始を支援します。ただし、重要なのは「業務に直結しない範囲での教育」という点です。

第三の目的は、内定辞退の防止です。研修を通じて企業への帰属意識を高め、同期との絆を深めることで、内定辞退のリスクを軽減する効果が期待されます。

内定者研修の一般的な実施時期と形式

内定者研修の実施時期は企業によって様々ですが、最も一般的なのは3月から4月にかけての時期です。特に新卒採用の場合、大学の卒業式後から入社式前までの期間に集中的に実施されることが多くなっています。

実施形式については、対面形式、オンライン形式、合宿形式の三つが主流となっています。対面形式は従来から最も多く採用されている方法で、直接的なコミュニケーションが可能で、企業文化を肌で感じてもらいやすいというメリットがあります。オンライン形式は、地理的な制約がなく、遠方の内定者も参加しやすいという利点があります。合宿形式は、内定者同士の結束を深める効果が高い一方で、参加の強制性が高まりやすく、法的なリスクも相応に高くなる傾向があります。

内定者研修は違法なのか?法的な判断基準

内定者研修自体は違法ではない

まず結論から述べると、内定者研修を実施すること自体は違法ではありません。労働基準法やその他の労働関連法規において、企業が内定者に対して教育や研修を提供することを禁止する規定は存在しません。

しかし、重要なのは「適切に実施される」という条件です。内定者研修が違法となるかどうかは、その実施方法、内容、参加の強制性などの実態によって判断されます。表面的には「研修」という名目であっても、実質的に労働を強制していると判断されれば、労働基準法違反となる可能性があります。

違法となるケースの判断基準

内定者研修が違法となるかどうかの判断基準は、主に労働基準法の解釈に基づいて行われます。特に重要なのは、昭和26年1月20日付け基収第2875号および平成11年3月31日基発第168号の行政解釈です。これらの解釈によると、「労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない」とされています。

この解釈を内定者研修に適用すると、研修が「自由参加」であり、参加しないことによる「不利益取扱い」がない場合は、労働時間とはみなされないということになります。重要なのは、この判断が「建前」ではなく「実態」に基づいて行われることです。

厚生労働省が公表している「労働時間の考え方」においても、研修・教育訓練の取扱いについて詳細な指針が示されています。これらの指針では、研修の目的、内容、参加の任意性、時間や場所の拘束性などが総合的に考慮されることが明記されています。企業は、これらの基準を十分に理解し、適法な研修設計を行う必要があります。

また、内定者は法的にはまだ労働者ではありません。新卒採用の場合は学生であり、中途採用の場合は前職に在職中である可能性もあります。このような立場の人々に対して、企業が一方的に義務を課したり、参加を強制したりすることは、労働関係法規の趣旨に反する行為となります。

具体的に違法となる状況

内定者研修が違法となる具体的な状況として、以下のケースが挙げられます。

研修への参加を強制する場合
「参加しないと内定が取り消されるかもしれない」「配属先に影響する」「今後の評価に関わる」といった間接的な圧力をかけることも問題となります。

業務範囲内の内容を指示・命令する場合
内定者研修で実施する内容は、基本的に業務範囲外のものである必要があります。具体的な業務手順の説明、実際の顧客対応、営業活動への参加などは、明らかに業務の範囲内です。

以下のような状況も違法性を高める要因となります

・すべての内定者が参加している状況
・事前課題がある場合
・場所や時間が厳格に定められている場合
・重要度の高い業務内容の詳細が伝えられる場合
・実際に業務を経験させる場合

内定者研修で給料を支払う必要があるケース

賃金支払いが必要となる条件

内定者研修において賃金の支払いが必要となるかどうかは、その研修が「労働時間」に該当するかどうかによって判断されます。賃金支払いが必要となる主な条件は以下の通りです。

・会社側から受講が義務付けられている場合

・一定時間、一定の場所に拘束される場合

・受講しないことで入社後に不利益がある場合

これらの条件のいずれか一つでも該当する場合は、賃金の支払い義務が発生します。

労働時間と判断される具体例

労働時間と判断される具体的な状況として、以下が挙げられます。

すべての内定者が参加している状況は、最も典型的な問題例の一つです。企業が「任意参加」と説明していても、結果として内定者全員が参加している場合は、何らかの強制力が働いていると推定されます。

事前課題がある場合も問題となります。研修に先立って課題の提出を求めることは、内定者の時間を拘束し、実質的な労働を強制することになります。課題作成に要する時間も、労働時間として計算される可能性があります。

最低賃金と労働時間の考え方

内定者研修が労働時間と判断された場合、企業は最低賃金法に基づいて適切な賃金を支払う必要があります。最低賃金は地域別に設定されており、企業は研修を実施する地域の最低賃金以上を支払わなければなりません。

労働時間の計算においては、研修の実施時間だけでなく、事前準備や事後の振り返りに要する時間も含まれる可能性があります。また、研修時間が1日8時間を超える場合や、週40時間を超える場合は、超過分について割増賃金を支払う必要があります。

内定者研修の適切な内容とは

推奨される研修内容

適法な内定者研修を実施するためには、研修内容の選択が極めて重要です。基本的な原則として、研修内容は業務範囲外のものであり、内定者の自己啓発やスキルアップに資するものである必要があります。

推奨される具体的な研修内容として、以下が挙げられます。

企業文化や理念の理解に関する内容
最も適切な研修テーマの一つです。企業の歴史、創業者の思い、経営理念、行動指針などを学ぶことは、内定者が企業への理解を深め、帰属意識を醸成する上で有効です。これらの内容は直接的な業務指示ではなく、教育的な性格が強いため、法的な問題が生じるリスクは低いとされています。

一般的なビジネスマナー研修
挨拶の仕方、名刺交換の方法、電話応対の基本、メールの書き方など、社会人として必要な基本的なマナーを学ぶことは、特定の業務に限定されない汎用的なスキルです。ただし、自社特有の業務手順や顧客対応方法を詳細に教える場合は、業務指示とみなされる可能性があるため注意が必要です。

同期との交流やコミュニケーション促進
グループワーク、ディスカッション、チームビルディング活動などを通じて、内定者同士の関係構築を支援することができます。これらの活動は業務とは直接関係がなく、参加者の自主性を重視した運営が可能です。

業界全般に関する知識の習得
業界の歴史、現状、将来展望、主要な企業や競合他社の情報などを学ぶことは、内定者の視野を広げ、業界理解を深める効果があります。ただし、自社の具体的な戦略や機密情報、競合対策などを詳細に説明する場合は、業務に関する情報提供とみなされる可能性があります。

自己啓発やキャリア開発
目標設定の方法、時間管理のスキル、プレゼンテーション能力の向上、論理的思考力の養成などは、内定者の個人的な成長に寄与し、将来のキャリア形成に役立ちます。これらの内容は特定の企業や業務に限定されない汎用的なスキルであるため、適法性の観点からも問題が少ないとされています。

避けるべき研修内容

一方で、内定者研修において避けるべき内容も明確に理解しておく必要があります。これらの内容を含む研修は、労働時間とみなされるリスクが高く、法的な問題を引き起こす可能性があります。

実際の業務に直結する具体的な内容
顧客対応の実践、営業手法の詳細、製品・サービスの販売方法、具体的な業務フローの習得などは、明らかに業務の範囲内であり、これらを研修として実施する場合は賃金の支払いが必要となります。特に、研修で学んだ内容を入社後すぐに実践することが前提となっている場合は、業務指示としての性格が強くなります。

機密情報や企業秘密に関する内容
顧客情報、技術情報、経営戦略、財務情報などの機密事項を研修で扱うことは、内定者に対する実質的な業務指示とみなされる可能性があります。また、これらの情報を知ることで、内定者が競合他社への転職を制限されるような状況が生じる場合は、参加の強制性が高まることになります。

具体的な売上目標や業績指標の設定
入社後の売上目標、個人目標、チーム目標などを研修で設定することは、業務指示の性格を持ちます。また、これらの目標達成が人事評価に直結する場合は、研修への真剣な参加が事実上義務化されることになります。

実際の顧客との接触
顧客訪問、営業同行、顧客対応の実践などは、明らかに業務の一部であり、内定者研修の範囲を超えています。たとえ「見学」や「体験」という名目であっても、顧客に対して何らかの対応を行う場合は、労働の提供に該当します。

強制的な参加を前提とした内容設計
研修の内容が高度で専門的であり、参加しないと入社後の業務に支障をきたすような設計は、実質的な参加強制を生み出します。また、研修の成果が人事評価や配属決定に直接影響する内容も、参加の任意性を損なう要因となります。

労災リスクと対策

内定者の労災適用について

内定者研修において見落とされがちな重要な問題の一つが、労災事故発生時の対応です。内定者はまだ正式な従業員ではないため、労災保険の適用については特別な検討が必要となります。

労災適用の判断においては、以下の三つの観点が重要です。

・最低賃金以上の賃金を支払っていること

・研修内容が本来の業務と関係性が高いこと

・使用者の指揮命令下に置かれていること

企業が取るべきリスク管理

内定者研修における労災リスクを適切に管理するためには、企業は多面的な対策を講じる必要があります。最も基本的で効果的な対策は、座学中心の研修設計です。実習や体験活動を含む研修は、事故発生のリスクが高くなるため、可能な限り座学形式での実施を検討すべきです。

研修会場の安全確保、参加者の健康状態の把握、緊急時の対応体制の整備なども重要な要素です。また、内定者研修専用の保険加入を検討することも有効な対策の一つです。

適法な内定者研修を実施するためのポイント

研修設計時の注意点

適法な内定者研修を実施するためには、研修の設計段階から法的な配慮を組み込むことが不可欠です。最も重要なのは、任意参加の原則を徹底することです。研修への参加は完全に内定者の自由意思に委ねられるべきであり、参加しないことによる不利益が一切ないことを明確にする必要があります。

研修の目的を明確に定義し、その目的が内定者の利益に資するものであることを確認することも重要です。企業の一方的な利益追求ではなく、内定者のスキルアップ、不安解消、企業理解の促進など、参加者にとって有益な目的を設定する必要があります。

参加者への説明と同意

内定者研修の適法性を確保するためには、参加者への適切な説明と同意の取得が極めて重要です。研修の実施前に、研修の目的、内容、実施方法、参加の任意性などについて詳細に説明し、内定者の理解と同意を得る必要があります。

説明においては、研修への参加が完全に任意であることを明確に伝える必要があります。参加しないことによる不利益が一切ないこと、参加の有無が人事評価や配属決定に影響しないことを具体的に説明し、内定者が安心して判断できる環境を整える必要があります。

実施時の運営方法

研修の実施段階においても、適法性を確保するための運営上の配慮が必要です。最も重要なのは、強制感を与えない運営を徹底することです。研修の進行において、参加者に対して命令的な口調を使ったり、業務指示のような表現を用いたりすることは避ける必要があります。

参加者の自主性を尊重した運営
グループワークやディスカッションにおいては、参加者の自由な発言を促し、強制的な発表や意見表明を求めることは避けるべきです。また、研修の途中で退席したい参加者がいる場合は、自由に退席できる環境を整える必要があります。

研修の記録
参加者の発言内容や行動を詳細に記録することは、監視や評価の印象を与える可能性があるため、必要最小限の記録に留めるべきです。また、記録の目的や使用方法について事前に参加者に説明し、同意を得ることが重要です。

研修の成果や評価
研修での発表内容や参加態度を評価し、それを人事記録に残すことは、実質的な業務評価となる可能性があります。研修はあくまで教育的な目的で実施されるものであり、評価や査定の場ではないことを明確にする必要があります。

適切な休憩時間
長時間の研修を実施する場合は、労働基準法に準じた休憩時間を設けることが望ましいとされています。また、参加者の体調や集中力に配慮し、適宜休憩を取ることができる柔軟な運営を心がける必要があります。

研修終了後のフォローアップ
研修の感想や意見を求める場合は、任意での提出とし、提出しないことによる不利益がないことを明確にする必要があります。また、研修内容に関する追加の課題や宿題を課すことは、研修の延長とみなされる可能性があるため避けるべきです。

研修会場の環境整備
参加者が快適に学習できる環境を提供することで、研修の教育的効果を高めることができます。適切な温度管理、照明、座席配置などに配慮し、参加者がリラックスして参加できる雰囲気作りを心がけることが大切です。

まとめ

内定者研修は、適切に実施すれば企業と内定者の双方にとって有益な取り組みとなります。しかし、実施方法を誤ると労働基準法違反となり、深刻な労使トラブルに発展する可能性があります。

企業が最も注意すべきは、「任意参加」の原則を徹底することです。表面的に任意参加と説明していても、実態として強制参加となっている場合は法的な問題が生じます。参加しないことによる不利益が一切ないことを明確にし、内定者が安心して判断できる環境を整えることが不可欠です。

研修内容については、業務範囲外の教育的な内容に限定することが原則です。一般的なビジネスマナーや企業文化の理解、自己啓発に関する内容は適切ですが、実際の業務手順や顧客対応方法などの具体的な業務内容は避ける必要があります。

適法な内定者研修を実施するためには、設計段階から実施段階まで、一貫して法的な配慮を組み込むことが必要です。企業の人事担当者は、これらの法的要件を十分に理解し、内定者研修を労使トラブルの火種とするのではなく、内定者との良好な関係構築の機会として活用することが重要です。

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