 
                給与テーブルの作り方完全ガイド!メリット・デメリットから人事評価との連携まで徹底解説
給与テーブルは、単なる賃金の一覧表ではありません。それは、企業の理念や人材戦略を映し出す「指針」であり、従業員のモチベーションや組織全体の生産性を左右する、人事制度の根幹をなす重要な仕組みです。しかし、その設計や運用は複雑で、「何から手をつければ良いかわからない」「自社に適したモデルはどれか」といった悩みを抱える人事担当者や経営者の方も少なくないでしょう。
本記事では、給与テーブルの基本的な概念から、具体的な作り方、導入のメリット・デメリット、そして成功に導くための運用のポイントまで、網羅的に解説します。人事・経営者の皆様が、自社の持続的な成長を実現するための、戦略的な賃金制度を構築する一助となれば幸いです。
目次
- 給与テーブルとは?
- 【4つのタイプを比較】給与テーブルの主な種類と特徴
- 給与テーブルを導入する3つのメリット
- 導入前に知るべきデメリットと3つの注意点
- 【6ステップで徹底解説】実践的な給与テーブルの作り方
- 給与テーブルを成功に導く運用のポイント
- まとめ
給与テーブルとは?

給与テーブル(賃金テーブルとも呼ばれます)は、従業員の賃金を決定する際の基準となる表です。一般的には、従業員の能力や役割を示す「等級」と、勤続年数や評価結果を反映する「号俸」や「ランク」を軸に構成され、誰がどのくらいの給与を受け取るのかを体系的に整理したものを指します。
給与テーブル(賃金テーブル)の基本的な定義
給与テーブルの最も基本的な役割は、賃金決定のプロセスに客観性と透明性をもたらすことです。新人から経営幹部に至るまでの給与水準が一覧化されることで、場当たり的・属人的な給与決定から脱却し、明確なロジックに基づいた公正な処遇を実現します。このテーブルは、基本給だけでなく、役職手当やその他の手当と連動して設計されることもあります。
なぜ今、給与テーブルが重要なのか?その目的と役割
現代のビジネス環境において、給与テーブルの重要性はますます高まっています。その主な目的と役割は、以下の通りです。
1.透明性と公平性の確保
明確な基準を設けることで、従業員は自身の給与がどのように決定されているかを理解し、公平性を感じることができます。これは、エンゲージメントや組織への信頼感を高める上で不可欠です。
2.人件費の管理と予測
全従業員の賃金を一覧化することで、人件費の現状把握はもちろん、昇給や昇格に伴う将来の人件費の変動を高い精度でシミュレーションできます。これにより、経営計画に基づいた戦略的な人件費管理が可能となります。
3.モチベーションの向上とキャリアパスの提示
等級や評価と給与が連動していることを示すことで、「何を達成すれば、どのように評価され、処遇が向上するのか」というキャリアパスを具体的に提示できます。これにより、従業員は自身の成長目標を明確に設定し、モチベーションを高めることができます。
4.採用競争力の強化
整備された給与テーブルは、求職者に対して公正な処遇を約束する魅力的なアピールポイントとなります。特に、優秀な人材の獲得競争が激化する中で、透明性の高い人事制度は大きな強みとなり得ます。
給与テーブルは単なる管理ツールではなく、企業の価値観を従業員に伝えるメッセージでもあります。どのような人材を評価し、どのような成長を期待するのかという企業の思想が、その設計に色濃く反映されるのです。
【4つのタイプを比較】給与テーブルの主な種類と特徴

給与テーブルには、いくつかの種類が存在し、それぞれに特徴があります。どのタイプを選択するかは、企業の文化や人事戦略に大きく影響されます。ここでは、代表的な4つの給与テーブルについて、その仕組みとメリット・デメリットを解説します。
従来型の「単純号俸表」:年功序列的な安定感
単純号俸表は、等級(横軸)と号俸(縦軸)で構成される最も伝統的な給与テーブルです。特別な評価がない限り、勤続年数に応じて毎年1号俸ずつ昇給していくのが特徴です。この1号俸あたりの昇給額を「ピッチ」と呼びます。
メリット
運用がシンプルで、従業員は将来の給与を予測しやすいため、生活設計が立てやすく、長期的な定着につながりやすいという利点があります。
デメリット
個人の成果や能力が給与に反映されにくいため、優秀な若手社員や成果を上げた社員のモチベーションを維持しにくい側面があります。年功序列的な色彩が強く、現代の成果主義を重視する風潮とは馴染みにくい場合があります。
評価を反映する「段階号俸表」:成果の積み上げを可視化
段階号俸表は、単純号俸表に人事評価の結果を反映させたモデルです。評価ランク(S・A・B・C・Dなど)に応じて、昇給する号俸数が変動します。例えば、高評価を得た社員は3号俸昇給し、標準評価の社員は1号俸昇給するといった具合です。
メリット
従業員のパフォーマンスが昇給に直接結びつくため、努力が報われる実感を得やすく、モチベーション向上に繋がりやすいです。過去の評価が積み上げ式で給与に反映されるため、継続的な貢献を促す効果が期待できます。
デメリット
一度の低い評価が後々の給与にまで影響を与える可能性があります。また、ハイパフォーマーが早期に等級の上限に達してしまい、昇給が頭打ちになる「昇給停止」問題が発生するリスクがあるため、上限額の設計には注意が必要です。
昇格意欲を促す「ゾーン型給与表」:等級内での成長をデザイン
ゾーン型給与表は、段階号俸表をさらに進化させたもので、同じ等級内を複数のゾーン(例えば、下位ゾーン・中位ゾーン・上位ゾーン)に分割します。そして、上位のゾーンに滞在するほど、評価に対する昇給率が緩やかになるように設計されています。
メリット
同一等級に長く留まることによる人件費の過度な上昇を抑制できます。また、昇給率が逓減していく仕組みにより、従業員に対して上位の等級への昇格を促すインセンティブが働きます。
デメリット
制度がやや複雑になるため、従業員への丁寧な説明が不可欠です。また、昇格できずに同じ等級に滞留している従業員のモチベーション管理が課題となる場合があります。
毎年の評価を重視する「複数賃率表」:高い柔軟性と実力主義
複数賃率表は、一つの号俸に対して、評価ランクに応じた複数の賃率(給与額)を設定するモデルです。毎年、勤続年数に応じて号俸は1つ上がりますが、その年の給与額は、その年の評価結果によって決定されます。過去の評価が翌年以降の給与に影響しない「洗い替え方式」である点が最大の特徴です。
メリット
毎年の成果がダイレクトに給与に反映されるため、実力主義を徹底したい企業に適しています。業績の変動に応じて人件費をコントロールしやすいという経営上の利点もあります。
デメリット
給与が下がる可能性があるため、従業員にとっては安定性に欠けると感じられる場合があります。短期的な成果を追求するあまり、長期的な視点での人材育成やチームワークが阻害されるリスクも考慮する必要があります。
【比較表】自社に合うのはどれ?各給与テーブルのメリット・デメリット
| 種類 | メリット | デメリット | こんな企業におすすめ | 
| 単純号俸表 | ・運用がシンプル ・従業員の生活安定に寄与 ・長期的な人材定着 | ・成果が反映されにくい ・優秀な人材の意欲低下 ・人件費の硬直化 | ・年功的な安定性を重視する企業 ・経験年数がスキルに直結する職種 | 
| 段階号俸表 | ・成果が昇給に直結 ・モチベーション向上 ・継続的な貢献を促進 | ・過去の低評価が影響 ・昇給の頭打ちリスク ・人件費の積み上がり | ・成果とプロセスの両方を評価したい企業 ・着実な成長を促したい企業 | 
| ゾーン型給与表 | ・昇格意欲を促進 ・人件費のコントロール ・等級ごとの役割を明確化 | ・制度が複雑 ・滞留者の意欲低下リスク ・厳格な昇格運用が必要 | ・役割等級制度を導入している企業 ・組織の新陳代謝を活性化させたい企業 | 
| 複数賃率表 | ・実力主義を徹底 ・業績連動で柔軟な人件費管理 ・毎年のリフレッシュ効果 | ・給与の安定性に欠ける ・短期的な成果主義に陥るリスク ・評価の納得感が極めて重要 | ・成果が明確に数値化できる職種 ・変化の激しい業界の企業 | 
給与テーブルを導入する3つのメリット

給与テーブルの導入は、単に賃金管理を効率化するだけでなく、経営、従業員、そして採用活動という三つの側面から企業に大きなメリットをもたらします。戦略的に設計された給与テーブルは、組織の競争力を高める強力な武器となり得るのです。
【経営視点】人件費の最適化と予測可能性の向上
経営における最大のメリットは、人件費の管理が格段に容易になることです。給与テーブルによって全従業員の賃金が体系化されるため、現状の人件費総額を正確に把握できるだけでなく、将来の昇給や昇格、人員計画に基づいた人件費のシミュレーションを高精度で行うことが可能になります。
会社経費の中でも大きなウエイトを占める人件費の管理がしやすくなることは、経営上、大きなメリットといえるでしょう。
これにより、場当たり的な人件費の増減を防ぎ、中長期的な経営計画に基づいた戦略的な予算配分が実現します。また、中途採用を行う際にも、候補者のスキルや経験を自社の等級に当てはめることで、客観的な根拠に基づいた適正な給与額を提示でき、無用な人件費の高騰を防ぐことができます。
【従業員視点】公平性の担保とキャリアパスの明確化によるモチベーション向上
従業員にとっての最大のメリットは、処遇に対する公平性と納得感が得られることです。給与テーブルを開示することで、どのような基準で自身の給与が決定されているかが明確になり、「なぜあの人の方が給与が高いのか」といった不透明さからくる不満や疑念を解消できます。
さらに、等級制度と連動した給与テーブルは、従業員にとっての具体的なキャリアパスを示します。上位の等級に上がるためにはどのようなスキルや経験が必要で、それによってどの程度の昇給が見込めるのかが可視化されるため、従業員は自身の成長目標を具体的に描くことができます。この「見通しの良さ」は、学習意欲や業務へのエンゲージメントを高め、結果として組織全体の生産性向上に貢献します。
【採用視点】魅力的な制度による競争力強化とミスマッチ防止
採用活動においても、整備された給与テーブルは大きな武器となります。給与体系が明確であることは、求職者に対して公正で透明性の高い企業文化をアピールすることに繋がります。特に、キャリアアップを重視する優秀な人材にとって、自身の成長と処遇がどのように連動していくのかが明確に示されている企業は、非常に魅力的に映ります。
給与レンジを公開することで、応募段階でのミスマッチを減らす効果も期待できます。企業が求める人材レベルと、それに対して支払われる給与水準を事前に示すことで、双方の期待値のズレをなくし、より効率的で質の高い採用活動を実現できるのです。
導入前に知るべきデメリットと3つの注意点

給与テーブルは多くのメリットをもたらす一方で、その導入や運用には慎重な配慮が求められます。設計を誤ると、かえって従業員のモチベーションを下げたり、組織の活力を削いだりする原因にもなりかねません。ここでは、導入前に必ず理解しておくべきデメリットと、その対策となる注意点を解説します。
注意点1:従業員のモチベーション低下リスクとその対策
給与テーブルの公開は透明性を高める一方で、従業員のモチベーションに負の影響を与えるリスクもはらんでいます。特に、向上心の強い従業員が自身の給与の上限を知ってしまうと、「この会社にいても、これ以上は稼げない」と将来的な限界を感じ、離職を考えるきっかけになる可能性があります。
また、勤続年数を重視する年功序列型の給与テーブルは、能力の高い若手社員の抜擢を困難にし、「頑張っても正当に評価されない」という不満を生む原因となり得ます。
【対策】
このリスクを回避するためには、給与制度に柔軟性を持たせることが重要です。例えば、基本給のテーブルとは別に、個人の卓越した成果に対してインセンティブ(特別賞与など)を支給する仕組みを設けたり、特定のスキルや資格を持つ従業員に対して手当を厚くしたりするなど、画一的でない報酬体系を組み合わせることが有効です。また、給与額そのものだけでなく、等級ごとの役割や責任、求められる貢献といった「非金銭的な報酬」を明確に伝え、キャリアの多様性を示すことも重要になります。
注意点2:業績変動への対応の難しさと柔軟性確保のポイント
給与テーブルは、一度定めると容易に変更できないという硬直性を持ち合わせています。特に、毎年一定の昇給を約束するモデルの場合、会社の業績が低迷した際にも人件費の削減が難しく、経営を圧迫する要因となり得ます。
給与テーブルの大きなデメリットは、景気や業績への対応が難しいことです。
逆に、好業績であっても、その利益を従業員に還元するための明確なルールがなければ、従業員の貢献意欲を高める機会を逃すことにもなりかねません。
【対策】
この課題に対応するためには、給与全体に占める変動部分の割合を適切に設計することが鍵となります。例えば、月々の基本給は安定性を重視した給与テーブルで決定し、会社の業績に連動する賞与の比重を高めることで、経営状況に応じた柔軟な人件費コントロールが可能になります。また、前述の「複数賃率表」のように、毎年の評価で給与額が見直される仕組みを取り入れることも、業績変動リスクに対応する一つの方法です。
注意点3:制度の硬直化・形骸化を防ぐための運用設計
給与テーブルという「仕組み」を導入することで、かえって運用が硬直化し、個々の従業員の状況や市場の変化に対応できなくなるリスクがあります。制度に当てはめること自体が目的化してしまい、本来評価されるべき特別な貢献や、新たに出現した重要なスキルなどを見過ごしてしまう可能性があります。
また、評価基準が曖昧なまま給与テーブルだけを導入すると、結局は評価者の主観で等級が決まり、制度が形骸化してしまう恐れもあります。これでは、何のために制度を導入したのか分からなくなってしまいます。
【対策】
制度の硬直化・形骸化を防ぐためには、定期的な見直しを前提とした制度設計が不可欠です。少なくとも3〜5年に一度は、社会の賃金水準や業界動向、自社の経営戦略の変化などを踏まえて、給与テーブルが現状に適しているかを見直すプロセスを組み込みましょう。さらに、評価制度そのものの客観性・納得性を高める努力も欠かせません。評価者研修を実施して評価の目線を揃えたり、評価結果について本人へフィードバックする面談を義務付けたりするなど、制度を「正しく運用する」ための仕組みをセットで構築することが成功の鍵となります。
【6ステップで徹底解説】実践的な給与テーブルの作り方

給与テーブルの作成は、単に数字を当てはめる作業ではありません。企業の理念を反映し、従業員の成長を促すための戦略的な人事制度設計そのものです。ここでは、実践的な6つのステップに沿って、自社に最適化された給与テーブルの作り方を具体的に解説します。
ステップ1:自社の経営方針と人事戦略の明確化
最初に、「何のために給与テーブルを導入するのか」という目的を明確に定義します。これは、今後の全ての設計プロセスの土台となります。自社の経営理念やビジョン、中期経営計画などを再確認し、「どのような人材に活躍してほしいのか」「どのような行動を奨励したいのか」といった人事戦略の方向性を言語化しましょう。
例えば、「チームワークを重視し、顧客への貢献を最大化する」という方針を掲げる企業が、個人の成果のみを評価する給与テーブルを導入しては、メッセージに矛盾が生じ、従業員は混乱してしまいます。まずは、自社の価値観と給与制度が向かうべき方向性を一致させることが、第一歩となります。
ステップ2:等級制度の設計と役割・責任の定義
次に、従業員を区分する「等級」の骨格を設計します。等級とは、従業員の能力、役割、職務の難易度などを示すランクのことです。等級数を何段階にするか、各等級にどのような役割と責任を期待するのかを具体的に定義していきます。
等級数の決定
等級数が多すぎると昇格の機会は増えますが、一回あたりの昇給幅は小さくなります。逆に少なすぎると、昇格のハードルが上がる分、昇格時の給与の上がり幅は大きくなります。企業の規模やキャリアパスの多様性を考慮して、適切な数を設定します(一般的には5〜10段階程度)。
役割・責任の定義
各等級に求められるスキル、知識、経験、職務遂行能力、リーダーシップなどを「等級定義書」として明文化します。これが、後の評価基準や給与額設定の根拠となります。
ステップ3:報酬体系(基本給・手当・賞与)の全体像を決定
給与テーブルで直接的に定めるのは主に基本給ですが、従業員が受け取る報酬の全体像(報酬体系)を設計することが重要です。月々の給与が何で構成されるのかを明確に定義しましょう。
基本給
年齢や勤続、能力、役割など、何を基準に決定するのかを定義します。
各種手当
役職手当、資格手当、住宅手当、家族手当など、基本給とは別に支給する手当の種類と金額の基準を定めます。
賞与(ボーナス)
支給の有無、支給回数、そして何を原資とし(例:会社業績、部門業績)、何を基準に個人へ配分するのか(例:個人評価、基本給連動)を決定します。
ステップ4:世間相場(給与水準)の調査と自社水準の設定
次に、客観的なデータに基づいて、自社の給与水準が市場においてどの程度の競争力を持つべきかを決定します。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」や、民間の調査会社が提供する同業他社・同職種の給与データを参考に、世間相場を把握します。
その上で、自社の経営状況や採用戦略に基づき、「市場平均と同水準を目指す」「市場の上位25%の水準を目指す」といった方針を決定します。この方針が、各等級の給与レンジ(上限額と下限額)を設定する際の重要な判断材料となります。
ステップ5:給与テーブルの作成と人件費シミュレーション
いよいよ、具体的な給与テーブルを作成します。ステップ2で定めた等級と、ステップ4で定めた給与水準に基づき、各等級の給与レンジ(下限〜上限)を決定し、その中に号俸や評価ランクに応じた金額をプロットしていきます。
この際、必ず人件費のシミュレーションを行ってください。現従業員を新しい給与テーブルに格付けした場合、人件費総額がどの程度変動するのかを試算します。また、標準的な評価を得た場合の数年後の昇給モデルケースを作成し、人件費の増加ペースが自社の支払い能力を超えていないかを確認します。このシミュレーションを怠ると、「作ったはいいが、払えない」という運用破綻のリスクを招きます。
ステップ6:社員への公開と丁寧な説明による納得感の醸成
完成した給与テーブルは、従業員へ丁寧に説明し、理解と納得を得るプロセスが不可欠です。制度の導入目的、仕組み、そして自分たちの評価や処遇がどのように変わるのかを説明する場(説明会など)を設けましょう。
制度としてきちんと整備することで、社員の納得感・人件費の見通し・組織運営の安定が一気に改善されます。
特に、新しい制度への移行に伴い、給与が下がってしまう従業員がいる場合には、その理由と経過措置について、個別にきめ細やかなコミュニケーションをとることが、制度への信頼を確保する上で極めて重要です。一方的な通知で終わらせるのではなく、質疑応答の時間を十分に設け、従業員の不安や疑問を解消する努力が、制度を組織に根付かせるための最後の鍵となります。
給与テーブルを成功に導く運用のポイント

給与テーブルは、一度作って終わりではありません。むしろ、導入後の「運用」こそが、その成否を分ける最も重要なフェーズです。ここでは、給与テーブルを形骸化させず、生きた制度として機能させるための3つの重要な運用のポイントを解説します。
人事評価制度との一貫性をいかにして保つか
給与テーブルの運用における最大の要諦は、人事評価制度との一貫性を保つことです。給与テーブルが「処遇を決定するルール」であるならば、人事評価は「処遇の根拠となる事実を収集・判断するプロセス」です。この両者が緊密に連携していなければ、従業員の納得感は得られません。
評価基準の明確化と客観性
「何をすれば評価されるのか」という評価項目や基準が、具体的で客観的であることが大前提です。評価者の主観に左右されるような曖昧な基準では、どんなに精緻な給与テーブルを作っても、不公平感の温床となります。
評価プロセスの透明性
評価がどのように行われ、それがどのように昇給や昇格に結びつくのか、そのプロセスを従業員に開示することが重要です。評価結果のフィードバック面談を制度化し、上司と部下が対話し、次の成長課題について共通認識を持つ機会を設けることが、制度への信頼を高めます。
給与テーブルと評価制度は、いわば車の両輪です。どちらか一方だけが精巧でも、うまく前には進めません。両者の一貫性を常に意識し、制度全体として矛盾のない運用を心がける必要があります。
定期的な見直しとメンテナンスの重要性
一度導入した給与テーブルも、時間と共に陳腐化していきます。市場の賃金水準は変動し、事業内容の変化に伴い、社内で求められるスキルも変わっていきます。そのため、定期的なメンテナンスを怠ると、制度が実態と乖離し、機能不全に陥ってしまいます。
市場調査の継続
外部の賃金データを定期的に参照し、自社の給与水準が市場に対して適切なポジションを維持できているかを確認します。
制度の検証
昇格・昇給の運用実績を分析し、「特定の等級に人材が滞留していないか」「優秀な人材が早期に上限に達していないか」といった問題点を洗い出します。
経営戦略との連動
会社の事業戦略や方針が変わった場合には、それに合わせて給与制度が向かうべき方向性も再検討する必要があります。
制度導入時に、あらかじめ「3年ごとに見直しを行う」といったルールを定めておくことが、形骸化を防ぐ上で有効です。
社員への開示範囲はどこまでが適切か?戦略的な情報公開
「給与テーブルをどこまで従業員に開示するか」は、多くの企業が悩むポイントです。結論から言えば、全公開が必ずしも正解とは限りません。企業の文化や従業員の成熟度に応じて、開示範囲を戦略的に決定する必要があります。
開示のメリット
透明性が高まり、キャリアパスが明確になることで、従業員の納得感やモチベーション向上が期待できます。
開示のデメリット
他者との給与比較が容易になることで、かえって不公平感や嫉妬心を生むリスクがあります。また、給与額が「ゴール」と見なされ、それ以上の成長意欲を削いでしまう可能性も指摘されています。
多くの企業では、給与額そのものを直接的に開示するのではなく、その「考え方」や「仕組み」を重点的に説明するというアプローチを取っています。例えば、各等級の定義や役割、評価と昇給・昇格のルールなどを丁寧に説明することで、従業員は給与の多寡に一喜一憂するのではなく、自身の成長に目を向けることができます。自社の組織風土に合わせて、どのレベルの情報開示が最もポジティブな効果を生むか、慎重に検討することが求められます。
まとめ
本記事では、給与テーブルの基本的な概念から、その種類、メリット・デメリット、具体的な作り方、そして運用のポイントに至るまで、網羅的に解説してきました。
給与テーブルは、単なる賃金管理のツールではありません。それは、企業の理念を体現し、従業員の成長を促し、組織全体の持続的な成長を支えるための戦略的な人事制度の根幹です。その設計と思想は、従業員のエンゲージメント、人材の定着と獲得、そして最終的には企業の競争力そのものに直結します。
重要なのは、他社の成功事例をそのまま模倣するのではなく、自社の経営戦略や企業文化、従業員の特性を深く理解した上で、自社にとって最適なオリジナルの給与テーブルを設計・運用していくことです。そのプロセスは、経営者と従業員が、会社の目指す方向性と人材への期待を共有する絶好の機会ともなるでしょう。
透明性と公平性に裏打ちされた給与制度は、従業員との信頼関係を深め、一人ひとりが安心してその能力を最大限に発揮できる土壌を育みます。本記事が、貴社のより良い人事制度構築の一助となれば幸いです。
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