【2026年度版】今日から変わる労働ルール。人事担当者が知っておくべき3つのポイント
2026年度は、日本の労働環境において歴史的な転換点となる年です。長らく議論されてきた労働基準法の改正をはじめ、ハラスメント対策の義務化、女性活躍推進法の対象拡大、そして社会保険の適用拡大など、企業の人事労務管理に直結する重要な法改正が一斉に施行されます。
特に、深刻化する人手不足や多様な働き方の進展を背景に、企業には「従業員を守り、選ばれる職場環境を構築する」という積極的な姿勢が求められています。本記事では、人事担当者や経営者が2026年度に向けて必ず押さえておくべき3つの重要な労働ルール変更点について、具体的な実務対応を交えて解説します。
目次
- ポイント1:ハラスメント対策の完全義務化(2026年10月施行)
- ポイント2:女性活躍推進法の情報公表義務拡大(2026年4月施行)
- ポイント3:社会保険の適用拡大と「年収の壁」の消滅(2026年10月施行)
- 2026年度の法改正 全体スケジュール一覧
- まとめ
ポイント1:ハラスメント対策の完全義務化(2026年10月施行)
2026年10月1日より、改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号、2025年6月11日公布)が施行され、これまで企業の「努力義務」とされていたカスタマーハラスメント(カスハラ)および就職活動中の学生等に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)の防止措置が、すべての事業主に対して「法的義務」となります 。
この改正は、業種・規模を問わずすべての企業に適用されます。これまでパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの防止措置は義務化されていましたが、今回の改正によってハラスメント対策の網が大幅に広がることになります。
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは何か
カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先、施設の利用者などからの著しい迷惑行為や悪質なクレームにより、従業員の就業環境が害されることを指します。改正法では、カスハラを以下のように定義しています。
「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境が害されるもの」——改正労働施策総合推進法第33条
具体的には、長時間にわたる拘束・説教、土下座の強要、過剰な謝罪要求、SNSでの誹謗中傷の示唆、暴言・脅迫行為などが該当します。近年、サービス業や小売業、医療・介護現場を中心にカスハラによる従業員の精神的負担や離職が社会問題化しており、国を挙げての対策強化に踏み切ることとなりました。
企業が講じなければならない具体的な措置
今回の法改正により、企業規模や業種を問わず、すべての企業が以下の措置を講じることが義務付けられます。
| 企業に求められる主な義務内容 | 具体的な対応例 |
| 事業主の方針の明確化と周知・啓発 | カスハラに対する基本方針(毅然とした対応をとる旨など)を策定し、社内報・ポスター・ウェブサイト等で従業員および外部に周知する。 |
| 相談・苦情に応じる体制の整備 | 従業員からの相談や苦情に適切に対応できる窓口を設置し、担当者が迅速に対応できるマニュアルを整備する。 |
| 事後の迅速かつ適切な対応 | 被害を受けた従業員のメンタルケアや、必要に応じた配置転換、悪質な顧客への法的措置を含めた対応フローを確立する。 |
| 就業規則等への規定 | カスハラに関する相談を行ったことを理由として、従業員に対して解雇等の不利益な取扱いを行わない旨を就業規則に明記する。 |
就活セクハラ対策も同時に義務化
カスハラと同時に、就職活動中の学生やインターンシップ参加者に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)の防止措置も義務化されます。採用担当者や面接官が候補者に対して不適切な言動をとることは、これまでも社会的に問題視されていましたが、今回の改正により法的な義務として明確化されます。
採用担当者向けの研修の実施や、面接時のガイドライン整備、相談窓口の設置などが求められます。特に、採用活動に関わる全社員が「候補者も保護の対象である」という認識を持てるよう、教育体制を整えることが重要です。
人事担当者が進めるべき実務ステップ
施行日である2026年10月1日までに、社内体制の構築を完了させる必要があります。対応の優先順位と時系列を整理すると、以下のような流れになります。
まず、現状把握として自社の業務特性においてどのようなカスハラが発生し得るかを洗い出し、現場の従業員からヒアリングを行います。業種によってカスハラの態様は大きく異なるため、業界特有のリスクを把握することが重要です。
次に、社内規程の整備として、就業規則へのカスハラ防止に関する条項の追加や、対応マニュアルの作成を進めます。厚生労働省が公表している業種別マニュアル(宅配業編、飲食業編など)を参考にすることも有効です。
そして、研修・教育として、管理職を含む全従業員に対して研修を実施します。特に、現場の管理職が「お客様第一」の意識から従業員を守る行動を躊躇しないよう、経営トップからの強いメッセージ発信が不可欠です。
ポイント2:女性活躍推進法の情報公表義務拡大(2026年4月施行)
2026年4月1日より、改正女性活躍推進法が施行され、企業に対する情報公表の義務が大幅に拡大されます 。この改正は、「労働施策の総合的な推進等に関する法律等を改正する法律」(令和7年法律第63号)によるもので、日本における男女間の賃金格差の是正と、女性の管理職登用をさらに推進することを目的としています。
改正の背景:国際水準と比較した日本の課題
日本における男女間の賃金格差は、長期的に見ると縮小傾向にあるものの、他の先進国と比較すると依然として大きい状況にあります。OECDの統計によれば、日本の男女間賃金格差は先進国の中でも上位に位置しており、政府としても早急な是正が求められています。また、女性管理職比率についても国際水準と比較して低い状況が続いており、「女性が活躍できる社会」の実現には、より多くの企業が積極的に取り組む必要があります。
従業員101人以上の企業に新たな公表義務
これまで、「男女間賃金差異」の公表義務は常時雇用する労働者が301人以上の大企業に限定されていました。しかし、今回の改正により、その対象が「101人以上」の企業へと大幅に拡大されます。さらに、新たに「女性管理職比率」の公表も義務化される点が大きなポイントです。
企業規模ごとの新たな義務内容は以下の通りです。
| 企業規模(常用労働者数) | 男女間賃金差異 | 女性管理職比率 | その他の情報公表 |
| 301人以上 | 義務(既存) | 義務(新規) | 表(1)から1項目以上 |
| 101人〜300人 | 義務(新規) | 義務(新規) | 表(1)(2)から各1項目以上 |
| 100人以下 | 努力義務 | 努力義務 | 努力義務 |
なお、公表のタイミングは事業年度末(3月末の場合)から6月30日までに行う必要があります。情報は厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」等に掲載されます。
「男女間賃金差異」の正確な算出方法
男女間賃金差異の算出においては、以下の3つの区分ごとにデータを集計する必要があります。
全労働者、正規雇用労働者(期間の定めなしのフルタイム労働者・短時間正社員)、非正規雇用労働者(パート・有期雇用労働者)の3区分です。
計算式は「女性の平均年間賃金 ÷ 男性の平均年間賃金 × 100(%)」で算出します。ここで注意が必要なのは、「賃金」には基本給だけでなく、各種手当や賞与も含まれる点です。また、派遣労働者は算出対象から除外されます。
人事担当者は、自社の人事システムから正確なデータを抽出し、定義に基づいた計算を行う準備を早急に進めなければなりません。特に、101人〜300人規模の中小企業では、これまでこのような集計を行っていなかったケースも多く、データ整備から着手する必要があります。
情報公表を「採用力強化」の武器にする
これらの数値は厚生労働省のデータベース等を通じて求職者にも公開されます。数値が低いからといって公表を避けることはできず、むしろ「現状の課題を認識し、どのように改善していくか」というストーリーを併せて発信することが重要です。
帝国データバンクが発表した「2026年の景気見通しに対する企業の意識調査」によると、2026年の懸念材料として「人手不足」をあげた企業は44.5%にのぼります 。このような状況下では、透明性の高い情報開示は求職者からの信頼獲得や採用力の強化につながります。
女性管理職比率が低い企業であっても、「現在の数値と、今後の目標・施策」をセットで公表することで、むしろ積極的に変革に取り組む姿勢をアピールすることができます。情報公表を受動的な義務として捉えるのではなく、人的資本経営の観点から自社の魅力を発信する機会として活用することが、今後の企業競争力に直結します。
プラチナえるぼし認定の要件追加
今回の改正では、女性活躍推進の優良認定である「プラチナえるぼし認定」の要件にも変更が加えられます。新たに「求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止に係る措置内容を公表していること」が追加要件となります。既にプラチナえるぼし認定を取得している企業や、取得を目指している企業は、この要件への対応も確認が必要です。
ポイント3:社会保険の適用拡大と「年収の壁」の消滅(2026年10月施行)
パートタイム・アルバイト従業員の働き方に多大な影響を与えるのが、2026年10月に予定されている社会保険の適用拡大です 。この改正により、いわゆる「106万円の壁」が実質的に消滅し、企業の労務管理や人件費に直結する大きな変化をもたらします。
「106万円の壁」が消える理由
これまで、短時間労働者が社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入するための要件の一つに「所定内賃金が月額8.8万円以上(年収約106万円)」という基準がありました。しかし、2026年10月を目途にこの賃金要件が撤廃されます。
撤廃の背景には、最低賃金の継続的な引き上げがあります。全都道府県で最低賃金が時給1,016円を超えた場合、週20時間以上働くと計算上自動的に月額8.8万円を超えます(時給1,016円×週20時間×4.3週≒8.7万円強)。つまり、賃金要件を設けていても実質的に機能しなくなっているため、法律上の要件も撤廃されることとなりました。
今後は「週20時間以上の労働契約=社会保険加入」というシンプルな図式に移行します。
2026年10月以降の加入要件
2026年10月以降、短時間労働者が社会保険に加入するための要件は以下の通りとなります。
| 要件 | 2026年10月以降の内容 |
| 労働時間 | 週所定労働時間20時間以上 |
| 雇用期間 | 2ヶ月超の雇用見込み |
| 学生 | 学生でないこと |
| 賃金 | 要件撤廃(月額8.8万円以上の基準は不要) |
企業規模要件の段階的撤廃スケジュール
さらに、社会保険の強制適用となる「企業規模要件」も段階的に引き下げられ、最終的には完全撤廃される予定です。現在は従業員51人以上の企業が対象ですが、2035年には全規模の企業が対象となります。
| 施行時期 | 対象となる企業規模(厚生年金被保険者数) |
| 現在 | 51人以上 |
| 2027年10月〜 | 36人以上 |
| 2029年10月〜 | 21人以上 |
| 2032年10月〜 | 11人以上 |
| 2035年10月〜 | 10人以下(全規模へ拡大) |
人事担当者が直面する課題と対策
この改正により、これまで扶養の範囲内で働いていた多くのパート・アルバイト従業員が社会保険の加入対象となります。従業員にとっては手取り額が減少する可能性があるため、労働時間を週20時間未満に抑えようとする「就業調整」が発生し、企業側は深刻な人手不足に陥るリスクがあります。
人事担当者は、対象となる従業員に対して制度変更の趣旨やメリット(将来の年金額増加や傷病手当金・出産手当金の受給権発生など)を丁寧に説明する場を設ける必要があります。特に、短時間労働者の多い小売業・飲食業・介護業などでは、対象者が一気に増加する可能性があるため、早急な試算と対応策の検討が求められます。
また、国の「年収の壁・支援強化パッケージ」等の助成金制度を活用し、手取り減少分を補填する手当の支給や、基本給の引き上げ、あるいは正社員登用への切り替えなど、多様な選択肢を提示して人材の定着を図ることが求められます。
さらに、ギリギリの人数で運営している中小企業は特に注意が必要です。「現在は51人未満だから対象外」と安心していても、採用によって被保険者数が基準を超えた瞬間から、パート社員も含めた加入義務が発生する可能性があります。毎月の被保険者数チェックをルーティン化し、将来の人員計画と照らし合わせた準備を進めることが重要です。
2026年度の法改正 全体スケジュール一覧
2026年度に施行される主な法改正を時系列で整理すると、以下の通りです。
| 施行時期 | 法律・制度 | 主な変更内容 | 対象企業 |
| 2026年4月 | 改正女性活躍推進法 | 男女間賃金差異・女性管理職比率の公表義務拡大 | 常用101人以上 |
| 2026年4月 | 改正労働安全衛生法 | 高年齢労働者(60歳以上)の労災防止対策が努力義務化 | 全企業 |
| 2026年7月 | 改正障害者雇用促進法 | 法定雇用率2.5%→2.7%に引き上げ(対象:37.5人以上) | 常用37.5人以上 |
| 2026年10月 | 改正労働施策総合推進法 | カスハラ・就活セクハラ防止措置の義務化 | 全企業 |
| 2026年10月 | 社会保険適用拡大 | 賃金要件(月額8.8万円以上)の撤廃 | 常用51人以上 |
まとめ
2026年度に施行される労働ルールの変更は、単なる法令遵守(コンプライアンス)の枠を超え、企業の経営戦略そのものに直結するテーマばかりです。
ハラスメント対策の義務化により、従業員が安心して働ける環境を保障することは、優秀な人材の採用・定着に直結します。女性活躍推進法の情報公表により、多様な人材が活躍できる透明性の高い組織をアピールすることは、人手不足時代における採用競争力の源泉となります。そして社会保険の適用拡大により、非正規雇用者の待遇改善と長期的な人材確保を図ることは、持続可能な事業運営の基盤となります。
これら3つのポイントに共通するのは、「従業員をコストではなく資本と捉え、その価値を最大限に引き出す」という人的資本経営の考え方です。人事担当者や経営者は、これらの法改正を「負担」と捉えるのではなく、自社の組織風土をアップデートし、持続的な成長を実現するための「契機」として前向きに取り組むことが期待されています。
法改正への対応は、早期に着手するほど余裕を持った体制構築が可能です。「まだ先の話」と先送りにせず、今すぐ自社の現状を確認し、必要な準備を始めることが、2026年度を乗り越える最大の鍵となります。

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