
令和の第二創業期・二代目社長のための「パーパス経営」完全ガイド

なぜ「パーパス経営」がいま求められるのか
社会・市場の変化と「企業の存在意義」への関心
世の中は、想像を超えるスピードで変化を続けています。テクノロジーの進化はもちろん、消費者の価値観もまた大きく変わりました。特にここ10年で急速に広まったSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)投資の概念は、「企業は利益だけでなく社会・環境にどんな貢献ができるか」を問う大きな潮流を生み出しています。
こうした時代に、「自社はなぜ存在しているのか?」「世の中にどんな価値を提供しているのか?」という問いに向き合わないままでは、消費者や投資家、取引先からも選ばれにくくなるでしょう。企業ブランディングや採用面でも、パーパス(存在意義)が明確かどうかは非常に重要な評価基準となり始めています。
令和の第二創業期・二代目社長を取り巻くリアルな課題
特に、事業承継を迎えた企業や二代目社長の方々においては、「これまでのやり方では限界が来ている」「先代の功績をどう超えるのか」「新しい価値を生み出さないとこの先が不安」といった切実な声をしばしば耳にします。
先代の成功体験が強固であるほど、それが逆にイノベーションの阻害要因になるジレンマもあります。そこで注目されるのがパーパス経営です。単に“稼ぎ方”を変えるのではなく、“何のために稼ぐのか”を明確にすることで、新旧の価値観や伝統を融合しつつ組織を変革する可能性が生まれます。
記事の目的と読み方
本記事では、第二創業期・二代目社長が感じるリアルな悩みに寄り添いながら、パーパス経営の基本的な考え方と実務の進め方を詳しく解説します。また、筆者が直接支援した事例や現場の声を交え、具体的に「何から始めればいいのか」「どんな課題が起こり、どう乗り越えたか」を紹介します。
【このシリーズを読んでほしい人!】
- パーパス経営を考える二代目社長
- 中小企業の経営者、後継者問題を抱える経営者
- 中小企業の経営幹部、次世代の経営を担う人材
【このシリーズを読むことで得られるメリット】
- パーパス経営の概念や重要性、導入方法などを体系的に理解できる
- 家業を継いだ二代目社長が、事業を再構築し、成長させるためのヒントを得られる
- パーパス経営を導入した企業の成功事例を知り、自社に合った方法を見つけることができる
目次
- なぜ「パーパス経営」がいま求められるのか
- “先代の背中”と向き合った筆者の体験談:パーパスの力を実感した瞬間
- パーパス経営とは何か:定義と従来型経営との違い
- 第二創業期・二代目社長が本当に悩んでいること
- パーパス経営がもたらす具体的効果:お悩み別アプローチ
- 実践プロセス:パーパスをどう見つけ、言語化すればいいのか
- パーパスを“絵に描いた餅”にしないための7ステップ
- 現場視点で考える「人事・組織課題」とパーパスの接点
- リアルな壁と乗り越え方:よくあるお悩みQ&A
- 事例紹介:パーパスで変革を実現した企業たち
- 実践へ踏み出すための5つのアクションプラン
- まとめ:パーパス経営は“迷い”を力に変える起点になる
- あとがき:パーパスとは企業を“生き物”として育むこと
“先代の背中”と向き合った筆者の体験談:パーパスの力を実感した瞬間
成功体験が逆に足かせになる? 二代目社長の苦悩
私がはじめて「パーパス経営」のプロジェクトに携わったのは、創業60年ほどの家族経営企業でした。先代は営業畑一筋で、創業期に莫大な売上を築き上げ「カリスマ的存在」として社内外で有名。しかし、時代の変化に合わせた事業の多角化に踏み切れず、会社はある程度の規模を保ちながらも停滞し始めていました。
二代目社長は30代の若さで就任。ところが、先代のカリスマ性があまりにも大きかったため、「うちの社長は先代ほど動かない」「新しいことを言っても社員がついてこない」と孤立感を深めていたのです。本人は「会社をもっと変えていきたい」と強く思っているのに、社員や役員からは「先代のやり方が定着しているから」と反発を受けることが日常茶飯事でした。
「伝統を守る vs. 新たな価値を創造する」の間で揺れる組織
その企業は地元での知名度も高く、伝統を守る意識も強かった。しかし、業界全体がデジタル化や国際競争の影響を受け、既存ビジネスだけではじわじわと利益率が下がっていました。
二代目社長は焦りを抱えながらも、「この会社には長年のファンがいる。何とかしなければ」という使命感で新規事業の立ち上げを提案。しかし、古参社員からは「先代が築いた稼ぎ頭を捨てるなんて無理だ」「そんな未知数の新規事業に賭けられるか」と反対の声が上がります。「伝統を守るのが正義」と「変革して生き延びるのが正義」がぶつかり合い、組織は迷走状態に。
パーパスが生み出した変化:老舗企業の実例
そこで私たちが最初に取り組んだのは、「そもそもこの会社は、なぜここまで長く存続してこられたのか?」を探るワークショップでした。先代や創業当初をよく知る社員の声を拾い、「創業時に大切にしていた信念」を再発掘。なんと「地域と共に生きる」「お客さまの生活を彩る商品を届ける」という原点が浮かび上がったのです。
その“原点”を現代版にアップデートしつつ、二代目社長の想いを加える形でパーパスを策定した結果、社員たちは「新規事業をやるにしても、結局は“地域と共にある”ための行動なんだ」という納得感を得ました。戦略そのものは一夜にして変わりませんが、「何のために取り組むのか」を全員で共有できたことで、組織内の意見対立は徐々に和らいでいきました。
このとき感じたのは、やはりパーパスは“伝統を壊す”ためではなく“伝統を新たな形に活かす”ための重要なツールであるということ。二代目社長自身も、「先代の背中をただ追うのではなく、先代が果たせなかった志を継ぐ」という手応えを得た様子でした。
パーパス経営とは何か:定義と従来型経営との違い
パーパス=「自社はなぜ存在するのか」という根源的問いへの答え

パーパス(Purpose)とは、自社が社会や顧客、社員に対して「どんな存在意義を果たすのか」を明確化したものです。ミッションやビジョンとの違いを簡単にまとめると、以下のようになります:
- パーパス:企業が「そもそもなぜ存在しているのか?」という究極的な理由
- ミッション:パーパスを踏まえて「具体的に何を成し遂げたいのか?」
- ビジョン:パーパスやミッションの結果として「将来どんな世界を実現したいのか?」
- バリュー:パーパス・ミッション・ビジョンを基に「組織全体で大切にすべき価値観は何か?」
パーパスは企業の根幹であり、経営判断や戦略策定の軸となります。とりわけ、第二創業期や二代目社長のタイミングでは、先代の遺産とこれからの方向性を融合するための“羅針盤”として機能しやすいのです。
数値目標ドリブン経営との対比
多くの企業が従来型の「売上目標を達成する」「利益率を上げる」など、数値目標を軸にした経営を行ってきました。それ自体はもちろん重要なことですが、それだけでは社員のモチベーションや社会への訴求力は限界があります。
一方で、パーパス経営では「利益はパーパス実現のための手段であり、成果のひとつ」という考え方です。経営判断も「この意思決定はパーパスに合っているのか?」というフィルターを通すため、企業がブレにくくなるのが大きな特徴と言えるでしょう。
ESG・SDGs時代との親和性:パーパスがもたらす信頼と期待
投資家や金融機関も、「短期的に利益を上げているかどうか」より、「長期的かつ持続可能な経営を行っているか」を重視する傾向が顕著です。世界的にも、多くの企業がサステナビリティや社会課題解決を経営戦略に組み込み、“企業の存在意義”を積極的に発信しています。
パーパスを明確にしておくと、こうしたステークホルダーからの評価が高まりやすくなるだけでなく、採用面でも「自分が共感できる会社で働きたい」という人材を惹きつける効果があります。
第二創業期・二代目社長が本当に悩んでいること
ここでは、二代目社長や第二創業期に携わる方が「実際にどんな悩みを抱えているのか?」を掘り下げてみます。筆者自身、さまざまな企業を支援してきた現場で、多くの経営者から伺った生の声を整理しました。
「先代のやり方を否定できない」苦しさ
先代が築き上げたビジネスモデルや営業スタイル、製品ラインナップを「時代遅れ」とは言い切れない。なぜならそれらは、過去に大きな成功をもたらしてきたからです。社員や取引先にも強い愛着がある。一方で、現状にしがみつきすぎると新しいチャレンジができず、いずれ衰退してしまう可能性も。
「先代の功績をリスペクトしつつ、新しい道を拓くにはどうすればいいのか?」という問いが、多くの二代目社長の胸に重くのしかかっています。
「社員のモチベーションをどう高めるか」への手詰まり感
売上や利益目標を掲げても、社員が「またノルマか…」という反応で終わってしまう。特に若い社員は、以前にも増して「この会社の社会的意義は何だろう?」と疑問を抱きやすい世代。結果として、採用に苦戦したり、離職率が上がってしまったりするケースも多いようです。
何か新しい刺激を与えたくても、現場には「本当にそれで大丈夫なの?」という不安があり、なかなか全体が一丸となれない。この状況を打破する“鍵”を探している経営者は非常に多いです。
「新規事業に舵を切る怖さ」と事業承継リスク
二代目社長がやる気を出して「新しい領域に進む!」と意気込んでも、社内外からは「失敗したらどう責任を取るんだ」「今まで積み上げてきた事業基盤を壊すのか」といった反対意見が出ることがほとんどです。
また、事業承継においては、株式や経営権の問題だけでなく、先代や家族との微妙なパワーバランスがあり、スムーズに決断できない苦しさがあります。先代が顧問として残る場合などは、事実上のダブルリーダー体制になることも珍しくありません。
家族経営特有の人間関係・しがらみ
親族が役員や株主として残っている企業では、「本音で物を言いにくい」「親族以外の社員が疎外感を持っている」という問題がしばしば起こります。さらに、地元の有力者や取引先との長年の付き合いが、改革を阻む足かせになるケースも。
このように、経営改革を進めたい二代目社長が感じる“やりづらさ”は多岐にわたります。パーパス経営は、こうした複雑な関係をまったくのゼロにする魔法の杖ではありませんが、「なぜ変わる必要があるのか」を説得しやすくする“共通言語”として機能することが多いのです。
パーパス経営がもたらす具体的効果:お悩み別アプローチ
ここでは、上記で挙げた悩みに対して、パーパス経営がどのように機能し得るのかを解説します。
組織の迷走を防ぐ“拠り所”としてのパーパス
「先代のやり方を継続すべきか、新規事業を始めるべきか」といった二項対立になっている状態では、組織が迷走しがちです。パーパスは「わが社は何のために存在しているか」という原点を再確認させる役割を担うため、意思決定の際の“拠り所”となります。
たとえば「地域と共生する」というパーパスが明確なら、新規事業の立ち上げであっても、「どうやって地域社会とWin-Winを作れるのか?」という視点がブレません。結果的に、保守派と改革派を結びつける共通項が見つかるケースが多いのです。
社員の離職率低下&エンゲージメント向上
「パーパスに共感しているから、この会社で働いている」という人材が増えれば、離職率の低下や生産性向上に直結します。実際、パーパスを明確に打ち出している企業の多くで、働きがいやロイヤルティが高まったというデータがあります。
特に若い世代ほど「お金のためだけに働くのではなく、意義を感じたい」という意識が強いとされます。パーパス経営を掲げる企業は「社員が心から価値を感じる仕事」を提供しやすい土壌ができるため、求人広告や説明会でも有利に働きます。
採用力強化:価値観に共感する人材が集まる
前述のとおり、近年の採用市場は「企業の価値観」に注目する求職者が増えています。企業研究をする際、応募者はホームページやSNSで「この会社はどんな思いで事業をやっているんだろう?」と徹底的に調べます。
そこで「私たちはこういう存在意義を持ち、こういう世界を目指しています」と明快に発信している企業には、“価値観マッチ”の人材が集まりやすく、採用後のミスマッチを減らす効果が期待できます。
社会的信用度アップ:取引先・金融機関・投資家からの評価
パーパス経営を掲げると、「うちの会社は社会的に意義のある存在なんです」と明確に語れるようになります。すると、取引先や金融機関も安心して協力関係を築きやすくなるのです。融資や投資の面でも、ただの「数値計画」ではなく、「社会的価値を生み出すストーリー」をセットで示すことで、信頼と期待を獲得する企業は増えています。
さらに、SDGs関連の補助金・助成金申請でも、「パーパスに沿った事業を展開している」ことをPR材料として活用するケースもあります。
実践プロセス:パーパスをどう見つけ、言語化すればいいのか
ここからは、実際にパーパスを策定するにあたってのステップを、より具体的に解説します。
ステークホルダーへのヒアリング・対話(社員・顧客・地域など)
まず、経営者や役員だけでパーパスを考えないことが大切です。社員や顧客、地域コミュニティ、取引先など多角的な視点を取り入れることで、「自社がどんな存在だと思われているのか」を客観的に理解できます。
- 社員向けアンケート:「あなたが感じるわが社の強み・弱みは?」「入社した動機は?」など
- 顧客・取引先インタビュー:「競合他社ではなく、なぜ当社と取引するのか?」「当社に期待する役割は?」
- 地域社会の声:「地域にとって、当社はどんな存在だと思いますか?」
これらの情報を整理すると、「実は外部から見たら、こんな独自性を評価されていた!」といった新たな発見があるかもしれません。
創業時の理念や歴史を改めて紐解く方法
老舗企業や家族経営では、創業者が大切にしていた“想い”が口伝えで受け継がれていることが多いです。そこで、過去の社史や古いパンフレット、社内報などをじっくり見返し、創業時のストーリーを再確認しましょう。
社員や家族、OB/OGから「創業時のエピソード」を聞くのも有効です。そこに、今でも通じる価値観や経営哲学が隠れていることが少なくありません。発掘したキーワードを現代風に再解釈することで、パーパスの核が見つかります。
二代目社長自身の人生観・価値観を反映させるワーク
パーパスには、経営者自身の人生観・価値観も深く反映されます。特に二代目社長であれば、「なぜ自分が家業を継ぐ決意をしたのか?」「先代からどんな想いを託されたのか?」を掘り下げることが大切。
筆者の経験上、経営者向けのコーチングセッションやワークショップで「あなたがこの会社を通じて実現したい理想の社会は?」「100年後に残したいものは何?」といった問いを投げかけると、思いがけないビジョンが言葉になって出てくるケースがあります。
具体的なフレーズ化と合意形成:上から押し付けないためのコツ
ステークホルダーの声と創業の精神、二代目社長の想いが概ねまとまってきたら、次はパーパスを「言葉」に落とし込む作業です。
ここで重要なのは「押し付けではなく、共創プロセスにする」こと。経営層がある程度叩き台を作ったら、社員代表やキーパーソンと一緒にブラッシュアップしていくと良いでしょう。短く、印象に残るフレーズにまとめつつ、裏付けや解釈を丁寧に説明できるようにしておくのが理想的です。
パーパスを“絵に描いた餅”にしないための7ステップ
パーパスが完成しても、それを組織に浸透させ、結果を出すためには具体的な仕組みづくりが必要です。以下、筆者が推奨する7つのステップを紹介します。

ステップ1:経営トップの覚悟表明と「実行宣言」
経営トップ(特に二代目社長)自身が、社内外に向けてパーパスを明確に宣言し、「これを軸に経営を進めていく」という覚悟を示します。重要なのは、数字の話だけでなく「なぜ自分がこれを大切に思うのか」を自らの言葉で語ること。熱量を伴ったメッセージであるほど、社員の心に届きやすいです。
ステップ2:ビジョン・ミッション・バリューとの整合性を作る
パーパス(存在意義)が中心にあり、それを具体化する形でビジョン(目指す未来像)、ミッション(使命)、バリュー(行動指針)を策定し、全社的に整合を取ります。ビジョンが曖昧なままだと、現場が「結局どう動けばいいの?」と混乱してしまうため、部門ごとのKPIや行動指針に落とし込む作業も大切です。
ステップ3:社内浸透プラン(研修・ワークショップ・評価制度の再設計)
- 研修・ワークショップ:管理職向け、一般社員向けなど段階的に実施。「自分の業務はどうパーパスに結びつくのか?」を考えてもらう。
- 評価制度の見直し:業績だけでなく、パーパス貢献度(どれだけ行動で体現しているか)も評価基準に含める。
- 社内コミュニケーション:掲示物や社内報、SNSなどでパーパス関連の情報を継続発信し、日常的に意識づける。
ステップ4:短期KPIと中長期指標を紐づける
パーパスを掲げると、「それ、今期の売上目標に繋がるの?」と疑問の声が出ることがあります。ここで大切なのは、短期KPI(売上・利益など)とパーパス実現の中長期指標(ブランド力・社会への影響度など)をセットで設計すること。
どちらか一方に偏ると、現場が「パーパスなんてただの理想論」と捉えたり、「数字ばっかりでパーパスはどうでもいいんじゃ?」となったりします。両輪で回す仕組みが必要です。
ステップ5:社内外への発信・ブランディング強化
パーパスを社外に積極的に発信することで、「何を目指している会社なのか」を明確に伝えられます。特に採用や営業、投資家向けのコミュニケーションでは大きな効果が期待できます。
また、PRやマーケティングの場面でも、パーパスを中心に据えたブランドストーリーを創出することで、競合との差別化が図れます。
ステップ6:小さな成功体験の積み重ねとフィードバック
大規模な変革を一気に進めようとすると、社内に大きな負荷がかかります。そこで、まずは「パーパスを活かした小さな取り組み」をいくつか試し、その結果を共有することで、徐々に信頼を築いていくのが現実的です。
たとえば「パーパスに関連する社内イベントを開催し、お客様や地域の方を招待した」「新規顧客に、パーパスを語ったところ好評だった」など、成功例をこまめに可視化すると社員のモチベーションが高まります。
ステップ7:定期的なパーパス再点検とアップデート
市場や社会は常に変化します。パーパスも一度策定したら終わりではなく、定期的にメンテナンスやアップデートを図る必要があります。「時代にそぐわない表現になっていないか」「目指す方向はズレていないか」などを確認しながら、その都度組織にフィードバックすると、継続的な進化が期待できます。
現場視点で考える「人事・組織課題」とパーパスの接点
採用ブランディング:価値観重視の時代に勝つメッセージ
多くの中小企業が苦戦している採用。大手企業やスタートアップが注目を集める中で、何を武器にすればよいのか――。そこで有効なのがパーパスを前面に押し出す採用ブランディングです。
例えば、新卒採用の説明会やリクルートサイトで「当社は〇〇という存在意義を持っており、こんな未来を作るために頑張っています」と打ち出すと、“賛同”をエントリーモチベーションにする学生が増えます。
人材育成:パーパスを軸に社員が“自分事化”する仕組み
人材育成の場でパーパスを活かすポイントは、「社員が自分のキャリアや業務内容と結びつけられる」ように設計することです。
- 研修プログラム:「パーパスを自分の仕事で体現するには?」というテーマでグループワーク
- 評価面談:上司と1on1で、「あなたの仕事はパーパスとどう繋がっていますか?」を定期的に確認
- スキル開発:パーパス実現に必要な新しい能力を獲得する機会を提供する
こうして個々人が「自分の役割や成長と、会社の存在意義が繋がっている」と理解できるほど、エンゲージメントが高まります。
組織文化の醸成:心理的安全性と挑戦を支えるカルチャー
パーパス経営を根付かせるには、“心理的安全性”が不可欠です。社員が遠慮なく意見を出し合い、新しい挑戦に取り組むためには、失敗を責め立てない風土づくりが必要。そのためには、トップや管理職が率先して「学習する組織」を目指す姿勢を示すことが大事です。
各部門での“振り返りミーティング”や“他部署交流”などを習慣化する企業も増えています。パーパスを軸に、部門間コラボやイノベーションが生まれるケースも多々あります。
評価制度・報酬体系への組み込み:形骸化を防ぐ方法
「パーパスを掲げても、日々の業務は売上目標ばかり追いかけて、誰も気にしなくなる」というケースを防ぐには、評価制度や報酬体系にパーパス指標を組み込むのが有効です。
具体的には、「パーパス実現に向けたプロジェクト参加度」「社会的価値を高める行動を提案した頻度・成果」「コラボレーションの度合い」などを評価項目に追加し、給与・賞与にも反映する仕組みを作ります。このように“数字以外”も正式な評価対象となることで、社員が自然とパーパスを意識し始めます。
リアルな壁と乗り越え方:よくあるお悩みQ&A
ここでは、パーパス経営に関する典型的な疑問や不安に答えていきます。
Q:「先代・会長がパーパスに理解を示してくれない」
A:アプローチ
- 先代が大切にしてきた理念やエピソードを深掘りし、それらが現代版パーパスとどう繋がるかを具体的に示す。
- 「パーパス=先代の思いを否定するものではなく、むしろ引き継ぎ・進化させるもの」と伝える。
- 必要に応じて、外部ファシリテーターを交えた対話の場を設け、先代が本当に望む未来像を引き出す。
Q:「社員が『きれいごと』と受け取っている気がする」
A:アプローチ
- 経営層が“言うだけ”でなく、“行動”を伴わせることが最重要。小さな成功事例を作り、社内で共有する。
- パーパスを掲げる過程で社員を巻き込み、意見を反映させる。“共に作った”という実感が「きれいごと」感を薄める。
- 評価制度など、具体的な仕組みに落とし込むことで、口先だけではない真剣さが伝わる。
Q:「短期業績が落ちそうで怖い」
A:アプローチ
- 「パーパスは利益を生まない」というわけではなく、長期的視点で見ると顧客ロイヤルティや人材定着率など、目に見えない価値の向上が業績に寄与していく。
- 短期KPIもあわせて設定し、段階的に成果が出るプランを策定する。
- 必要に応じて、既存事業の改善やコスト削減と並行しながら、パーパス関連の新規取り組みを試す“ハイブリッド戦略”を検討。
Q:「人材も時間も足りず、どう手をつけていいかわからない」
A:アプローチ
- 外部コンサルタントや専門家の力を借りて、短期間でパーパス策定と浸透プランを立ち上げる方法もある。
- 全社一斉導入でなく、小さな部署やプロジェクト単位で先行的にパーパスを導入してみるのも手段。
- 経営者自身が“実務をすべて抱え込まない”よう、チームビルディングを優先する。
Q:「失敗を恐れる空気が強く、新しい行動に踏み切れない」
A:アプローチ
- 失敗を叱責する文化から、チャレンジを称賛する文化へ移行するために、社内で成功例だけでなく“失敗談の共有”などを定期的に行う。
- パイロットプロジェクトや実験的なチームを作り、リスクの小さい範囲でトライアルを繰り返す。
- 経営トップ自身が「チャレンジをした社員を評価する」姿勢を見せ、心理的安全性を高める。
事例紹介:パーパスで変革を実現した企業たち
【老舗事例】100年企業が地域の“誇り”を取り戻すまで
創業100年を超える製造業のX社は、後継者不足と市場縮小に悩んでいました。そこへ孫の世代にあたる三代目が就任し、「地元の技術と文化を未来へつなぐ」というパーパスを策定。地元の若手アーティストやクリエイターとコラボして、新たな製品ラインを立ち上げると同時にオンラインで全国販売を開始。
最初は保守的な社員が難色を示しましたが、「地元を活かす」というキーワードに共感が広がり、結果として若年層の採用にも成功。今では地域の商店街や観光協会と組んでイベントを行い、売上もV字回復した好例です。
【二代目社長事例】アパレル中小企業が掲げた「街を元気にする」パーパス
地方都市でアパレル小売を営むY社は、二代目社長が学生時代に見た「若者が地元を離れて都会に流出する現実」に衝撃を受け、「ファッションで街を元気にしたい」という想いをカタチにしました。
そこで掲げたパーパスが「この街の未来を、ファッションで彩る」。地域の大学生と協力して独自ブランドを立ち上げ、商店街のイベントでファッションショーを開催。今まで顧客層が限られていた店舗に、学生をはじめ若い世代が足を運ぶようになり、業績も徐々に右肩上がり。地元メディアにも取り上げられ、街ぐるみの盛り上がりを創出しました。
【ITベンチャー事例】大手出身の後継者が見つけた“存在意義”
ITベンチャーZ社は、創業者が退任し、親族である二代目社長が大手企業から転職して就任。しかし「IT業界は競合が多く、うちの強みは何だろう」と迷走していた時期がありました。
そこへ外部コンサルと共にワークショップを重ね、「地域の課題をITで解決する」というパーパスを策定。自治体やNPOと連携したシステム開発プロジェクトを手がけるようになり、競合他社と差別化。また、その取り組みが評価され、ESG投資ファンドから出資を受けることに成功。単なる“ITの受託開発”から“社会課題を解決するパートナー”へとブランドを変革することができました。
【大企業例】グローバルメーカーC社が採ったESG戦略との融合
C社は元々大手メーカーとして世界中に拠点を持っていましたが、海外子会社との方向性のズレが課題に。そこで、「持続可能なモビリティで世界を繋ぐ」というパーパスを定義し、電気自動車関連や自動運転技術への投資を大幅に拡大。世界規模でのCO₂削減目標を掲げ、各国の工場や現地法人と連携して環境負荷の低減に取り組んでいます。
パーパスの共有を徹底した結果、世界各地の社員が「同じ方向」に向かいやすくなり、グローバル企業としての一体感が増す効果が出ています。
実践へ踏み出すための5つのアクションプラン
「具体的に何をすればいいの?」と悩む方のために、取り組みやすいアクションプランを5つ提案します。

1.まずは経営メンバーでの“パーパス対話会”を設定
いきなり全社員を巻き込むのは大変です。まずは経営幹部やキーパーソンが集まり、「私たちが大切にしたいものは何か?」「この会社で実現したい未来は?」をざっくばらんに話し合う場を作りましょう。雑談形式でも構いません。ここからキーワードが出てきたら、ワークショップ形式に発展させていきます。
2.ワークショップ・オンラインセミナーの活用
もし「自社だけではうまくいくか不安…」という場合は、外部のワークショップやオンラインセミナーを活用する方法もあります。パーパス経営に詳しい講師やファシリテーターが進行し、質の高いアウトプットを得ることが可能です。社員を数名ずつ送り込む形でもOKです。
3.外部コンサルタントや専門家との連携
パーパス策定や組織変革の分野に強いコンサルタントや専門家は全国にいます。ときには「外部目線で客観的に見てもらう」ことが大きなブレイクスルーを生むことも。特に二代目社長で、社内抵抗が強いケースでは、外部のプロが間に入ることで議論がスムーズになる例を何度も見てきました。
4.MVP(Minimum Viable Project)で小さく試す
全社を巻き込むにはリスクがあると感じるなら、まず小さなプロジェクトチームを作り、パーパスを基軸に新しい取り組みを実施するのも有効。そこから成果や学びを得て、徐々に範囲を拡大していけば、失敗リスクを抑えながら段階的に変革を進められます。
5.成功体験を社内外へ積極的にシェアし、巻き込む
どんなに小さな成功体験でも、早めに社内外へシェアしましょう。SNSや社内報、朝礼など、活用できる場は多いはずです。「こんな変化があった」「社員からはこんな声が出た」「お客様から好評だった」などを共有すると、他部署や役員も興味を持ち、巻き込み力が高まります。
まとめ:パーパス経営は“迷い”を力に変える起点になる
これからの時代に必要なのは「意義」と「共感」
売上や利益の追求だけでは、持続的な成長や社員の幸福を支えきれない時代になりました。消費者や地域社会、若手社員までもが「この会社は、社会にとってどんな存在?」と問いかけるようになっています。ここでのカギは「意義(目的)」と「共感」。パーパスを軸にした経営こそが、これらを引き出すための最強ツールといえます。
第二創業期・二代目社長こそ、新しい時代のリーダーに
先代が築いた基盤がありながら、時代の変化と向き合わなければならない――。一見すると厳しい状況ですが、その“境界”に立つからこそ、生まれるイノベーションがあります。
「古いと新しいをどう結びつけるか?」は、二代目社長にとって永遠のテーマですが、パーパスがあれば、先代の想いも汲みつつ、現代のニーズと結合する明確な方向性を示しやすくなります。
あなたの一歩が、組織と地域と社会の未来を変える
本記事で紹介した事例やステップは、どれも一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、社長や経営トップが「まずはやってみるか」と一歩を踏み出すことで、組織の空気は確実に変わり始めます。
パーパス経営は「迷い」を排除するのではなく、「迷い」をエネルギーに変えていくプロセスでもあります。自社がどんな価値を提供し、どんな未来を築くのか――その問いに真剣に向き合ったとき、人と組織は大きく前進するのです。
あとがき:パーパスとは企業を“生き物”として育むこと
筆者自身が何百社も見てきて感じるのは、企業とは経営者や社員だけのものではなく、地域や社会、そして先代からの遺志、次世代への希望などが複雑に交わる“生き物”のような存在だということです。
パーパスは、その“生き物”を育てるためのエネルギー源のようなもの。第二創業期や二代目社長という状況は、ときに大変なプレッシャーを伴いますが、それと同時に大きな可能性を秘めています。
迷いや葛藤を抱えつつも、この先の未来にわくわくしながら、まずは一歩踏み出してみませんか? 社員や地域、取引先、そして社会全体の期待に応えるためにも、“自分たちが何のために存在するのか”を明確にし、それを堂々と発信していくのです。
きっと、その先には「こんなに人や社会に喜ばれる経営があるんだ」という新しい景色が待っています。
パーパス経営は万能薬ではありませんが、第二創業期や二代目社長が抱えるジレンマや不安、組織の停滞感を打破する強力な打ち手となる可能性を秘めています。ぜひ、このガイドが読者の方々の次のアクションに繋がる一助となれば幸いです。
「すごい人事」情報局運営元:株式会社Crepe
Crepeでは、「人事が変われば、組織が変わる」というコンセプトのもと、⚫︎各種業界1300名の人事が在籍。工数・知見を補う「即戦力」レンタルプロ人事マッチングサービス
⚫︎1日2時間〜使えるマネージャークラスのレンタル採用チーム。オンライン採用代行RPOサービス
⚫︎人事にまつわる課題を解決へ導く、伴走型人事コンサルティングサービス
などのサービスを通して、人事課題を解決する支援を行っています。