
管理職は罰ゲーム?データで見る「名ばかり管理職」の課題と解決策

「管理職になるのは罰ゲームみたいなもの」このような声が、日本の職場でよく聞かれるようになりました。昔は管理職への昇進といえば、ビジネスパーソンにとって誇らしく嬉しいことでしたが、今では避けたい「罰ゲーム」として見られることが多くなっています。
この現象は単なる愚痴ではありません。実際に、日本の管理職を取り巻く環境は、この数十年で大きく悪化しているのです。特に驚くべきことは、管理職の死亡率が欧米などの先進国では下がっているのに、日本では逆に上がっていることです。また、成果主義の導入と組織のフラット化によって、管理職の仕事量が大幅に増えています。
本記事では、なぜ日本の管理職が「罰ゲーム化」してしまったのか、その原因を分析し、解決策をご提案します。
管理職の死亡率増加という深刻な現実
欧米とは正反対の状況
欧米などの先進国では、管理職・専門職の死亡率は一般的に低く保たれているか、改善されています。これは、管理職が一般の労働者よりも良い労働環境と健康管理の下で働いているためです。
ところが、日本では全く逆のことが起きています。日本労働研究雑誌の研究によると、日本の管理職・専門職の死亡率は高いままで、この傾向は2010年以降も続いています。
過労死認定件数の増加

厚生労働省の報告によると、脳・心臓疾患による労災支給決定件数は前年度より増加し、4年ぶりに200件を超えました(令和5年度:216件)。さらに深刻なのは、仕事が原因で精神的な病気になったとして労災と認められた企業の管理職などが、昨年度52人と過去最多となったことです。

日経ビジネスの調査では、働き方改革の副作用として、18時に帰る若手社員を見ながら、管理職が終わらなかった仕事を残業してカバーしている現実が報告されています。管理職の残業は2年で2倍になり、月100時間なんて当たり前という状況です。
成果主義とフラット化で業務負荷が大幅増加
90年代後半からの大きな変化
パーソル総合研究所の小林祐児氏の研究によると、この20~30年の経営トレンドが、ことごとく管理職を苦しめるものばかりだったことがわかっています。
まず、90年代後半から広まった「成果主義」により、管理職は短期的な業績を追いかけることを強いられました。これにより、長期的な人材育成や組織づくりよりも、目先の数字を追うことが優先されるようになりました。
組織のフラット化の思わぬ弊害
意思決定を早くするために進められた「組織のフラット化」により、管理職の数が減り、一人当たりが管理する部下の人数が増えました。以前であれば複数の管理職で分担していた仕事を、より少ない人数で処理しなければならなくなったのです。
さらに「プレイングマネジャー化」も進みました。バブル以前の管理職はマネジメントをしていればよかったのですが、バブル崩壊後は自分も数字の責任を負って、現場で汗をかくことも求められるようになりました。
人材多様化とガバナンス強化で負担がさらに増加
マネジメントの難易度が格段にアップ
「人材の多様化」により、派遣社員やパート・アルバイトといった雇用形態の多様化に加え、年齢、性別、国籍なども多様化してきました。それぞれに合った指示の仕方やモチベーションの高め方が必要になり、マネジメントの難易度が格段に上がりました。
コーポレートガバナンス強化の副作用
働き方改革により従業員の残業時間は減りましたが、18時に帰る若手を見ながら、管理職が終わらなかった仕事を残業してカバーしているのが現実です。また、パワハラ防止法により、管理職は部下に厳しい指摘をしなくなり、マネジメントが複雑化しています。
悪循環を生む「巻き取り」とマイクロマネジメント
マネジメントが複雑化し、指導もしづらい状況で、多くの管理職が仕事を自分で「巻き取る」か、細かく指示して管理するマイクロマネジメントを行います。
しかし、マイクロマネジメントをすると、部下が自分の頭で考えなくなり、常に指示待ちの姿勢になります。結果として部下は育たず、ますます管理職の負担が上がる悪循環に陥ります。
現場と人事部門の認識ギャップ
パーソル総合研究所の調査では、管理職が感じている課題(人手不足、後任者の不在、業務量の増加)と、人事部が考える課題(働き方改革、ハラスメント、コンプライアンス)に大きなズレがあることがわかっています。
この認識ギャップから実施される管理職研修は、「筋トレ発想」と呼ばれる個人のスキル向上に偏重しており、組織構造の問題を解決していません。
女性だけでなく男性も管理職を避ける時代
男性の管理職回避傾向の急激な増加

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2024年調査によると、女性非管理職で管理職を目指したいと回答したのは15.5%、男性非管理職は24.8%でした。注目すべきは、男性の数値が2018年調査から6.3ポイント下がっていることです。
さらに、「役職に就かなくてよい」とする男性非管理職の回答割合が10.9ポイント上がっています。「家庭(プライベート)との両立が難しいため」という理由についても、女性22.0%、男性19.9%と男女差が大幅に縮小しています。
若い男性の価値観変化

この変化の背景には、若い男性の価値観の変化があります。家事や育児を夫婦で半分ずつ負担したいという男性は若いほど多く、育休取得を希望する若い男性は8割以上に上ります。
兼務による管理職負担の深刻化
組織のスリム化により、管理職の兼務が当たり前になっています。一人の管理職が複数の部門や業務を兼任することで、人件費削減を図る企業が増えていますが、これは管理職にとって大きな負担となっています。
兼務により、管理職は各業務に十分な時間と注意を向けることができず、部下への指導が表面的になり、戦略的な思考に時間を割けなくなります。
管理職の賃金伸び悩みという現実

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究によると、役職別の賃金格差の縮小により、待遇面での管理職の地位は昔に比べてかなり低くなっています。戦前は20-25歳を1.0とした場合、40-45歳では3.30倍の賃金格差がありましたが、現在ではこのような大きな格差は存在しません。
これにより「名ばかり管理職」問題が深刻化し、管理職になることの経済的メリットが大幅に減少しています。
組織内トラブル対応と対人関係の重圧
現代の管理職は、パワハラやセクハラなどのハラスメント問題、メンタルヘルス不調による休職者への対応、労働時間管理、コンプライアンス違反への対処など、多岐にわたる問題への対応が求められています。
人材の多様化により部下マネジメントの難易度も格段に上がっており、年齢、性別、国籍、雇用形態、価値観などが異なる部下に対して、それぞれに適した指導方法を見つけ出すことが求められています。
日本と海外の管理職の働き方比較
突発的で定型的でない業務の多さ
リクルートワークス研究所の国際比較調査によると、日本の管理職は海外と比較して、突発的で定型的でない業務が多いという特徴があります。前例やマニュアルに従う定型的な仕事が多いとみなす管理職の割合は、日本は米国・中国と比較して際立って低くなっています。
職務の規定の曖昧さ
日本の管理職は職務の規定が緩く、何が起きたときに自分が対応しなければいけないかが不明確になり、突発的な業務が起こりやすくなります。欧米では職務記述書により責任範囲が明確に定義されているため、管理職の負担は相対的に軽くなります。
労働時間の国際比較
日本では課長本人も部下も長時間労働をしていますが、アメリカでは課長は長時間労働をしていても部下はそれほど長時間労働をしていません。部下まで一緒に長時間労働をするのは日本特有のものです。
自分の仕事範囲外のトラブル対応
日本の管理職が特に苦労しているのは、自分の本来の職務範囲を超えたトラブルにも対応しなければならないことです。これは日本企業の「チームワーク」や「全体最適」を重視する文化と密接に関連しています。
職務の境界が曖昧であることは、管理職にとって大きな負担となっており、本来注力すべき業務に集中できない原因となっています。
管理職問題の解決策
組織構造の根本的見直し
過度なフラット化を見直し、適切な階層構造を再構築することで、一人の管理職が抱える負担を軽減する必要があります。管理職一人当たりの部下数を適正な範囲(5-7人程度)に調整し、兼務の解消を図ることが重要です。
職務記述書の導入と責任範囲の明確化
日本企業においても、欧米のような職務記述書の導入を検討すべきです。管理職の責任範囲を明確に定義し、トラブル対応についてもエスカレーション・ルールを策定することで、不必要な業務の抱え込みを防ぐことができます。
管理職の処遇改善
責任と権限に見合った報酬体系の構築、長期的な人材育成への取り組みを評価する制度の導入、管理職の健康管理の充実などが必要です。
人材育成システムの再構築
マイクロマネジメントに頼らない指導方法の確立、部下の主体性を引き出すコーチング手法の導入、段階的な権限委譲システムの構築などが有効です。
まとめ
日本の管理職の「罰ゲーム化」は、個人の問題ではなく構造的な問題です。成果主義と組織のフラット化により業務負荷が増大し、人材の多様化とガバナンス強化によってマネジメントの難易度が上昇しました。さらに賃金格差の縮小により経済的メリットが減少し、海外と比較して突発的で非定型的な業務が多く、職務範囲の曖昧さが責任を拡大させています。
解決策として、組織構造の適正化と兼務の解消、職務記述書の導入による責任範囲の明確化、管理職の処遇改善と健康管理の充実、部下の自立性を高める人材育成システムの構築が必要です。この問題の解決には企業、政府、社会全体の連携した取り組みが不可欠であり、管理職が誇りを持って働ける環境を整備することは、日本企業の競争力向上にとって重要な課題といえるでしょう。

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