

新卒採用の現場で、これまでにない変化が起きています。マイナビの2025年卒調査によると、大手企業の選考に参加する決め手として「福利厚生が手厚い」と回答した学生が51.5%と最多を記録し、「給料が高い」(42.6%)を上回る結果となりました。
この傾向は一時的なものではありません。福利厚生への注目度は年々高まり続けており、2024年卒では4月に1位となるなど、学生が福利厚生を重視するタイミングも早まっています。
一方で、企業側の対応は追いついていません。従業員300人未満の中小企業の求人倍率は6.50倍と激戦状態にある一方、従業員5,000人以上の大手企業では0.34倍と、企業規模による格差が鮮明になっています。
本記事では、最新の調査データを基に、Z世代の価値観変化と具体的な福利厚生ニーズを分析し、企業が採用競争力を高めるための実践的な工夫を提案します。
目次
- 新卒学生の福利厚生重視傾向が鮮明に
- Z世代の価値観変化と福利厚生ニーズ
- 学生が求める福利厚生ランキングと詳細分析
- 学生の情報収集行動と企業への期待
- 人気企業の福利厚生事例と成功要因
- 採用を有利にする福利厚生の工夫
- 今後の福利厚生トレンドと企業の対応策
- まとめ
新卒学生の福利厚生重視傾向が鮮明に
最新調査が示す圧倒的な関心の高さ
新卒学生の福利厚生に対する関心の高さは、複数の最新調査によって裏付けられています。学生の63.4%が福利厚生を「勤務地・仕事内容・給料と同程度に関心がある」と回答しており、福利厚生が給与や職種と同等の重要な判断基準へと格上げされたことを意味しています。
大和ライフネクストの調査でも、企業選びで重視することの1位が「福利厚生が整っている」(44.3%)となり、「給与の高さ」(39.8%)を上回る結果となっています。

福利厚生注目度の経年変化
2021年卒と2022年卒では福利厚生の順位に変化がありませんでしたが、2023年卒からその様相が変わり始めました。エントリー開始時点では3位だった福利厚生が、5月には1位となったのです。
2024年卒では、3月の時点で福利厚生が2位に浮上し、4月には1位を獲得しています。学生が福利厚生を重視するタイミングが年々早まっており、企業選択の初期段階から重要な判断材料となっています。
企業規模別の採用環境格差
従業員規模による求人倍率の格差は深刻で、中小企業6.50倍に対し大手企業0.34倍となっています。この格差は、知名度、予算、待遇・条件面での差に起因しており、約3割の学生が企業の規模や知名度を重視しています。
Z世代の価値観変化と福利厚生ニーズ
経済的安定への強い志向
Z世代の福利厚生重視の背景には、経済的安定への強い志向があります。「将来について最も不安だと思うもの」の1位は「お金」となっており、物価上昇と税金負担の増加により、学生たちは将来の経済的な安定に対して深刻な不安を抱いています。
学生が注目するのは、「家賃補助」「社宅・社員寮」「通勤交通費の支給」といった直接的・固定的な金銭支給です。これらは月々の生活費を確実に軽減してくれる実用的な制度であり、給与以上に安心感を与える要素となっています。
ワークライフバランス重視の背景
Z世代のもう一つの特徴は、仕事だけでなく私生活の充実を重視する価値観です。終身雇用制度への疑問と働き方に対する意識の変化により、「将来のために今を犠牲にする」という考え方に疑問を持つ学生が増えています。
学生が求める福利厚生の上位に「リフレッシュ休暇」「フレックスタイム制」「在宅勤務制度」といったワークライフバランスに関連する制度が多数ランクインしています。
ライフイベント後も働き続ける意識
Z世代の特徴的な価値観の一つが、男女ともに結婚・育児などのライフイベント後も働き続けることを前提としていることです。「結婚後の仕事に関して共働きを希望する」男子学生の割合は2024年卒調査で調査開始以来初めて6割を超えました。
男子学生の「育児休業を取って子育てしたい」という割合も増加しており、「育児支援」「育休・時短勤務・子の看護休暇」「介護休暇」といった制度への関心が高まっています。

学生が求める福利厚生ランキングと詳細分析
最新ランキング比較
複数の調査結果を比較すると、共通した傾向が見えてきます。

マイナビ2025年卒調査
1.休暇制度(特別休暇、リフレッシュ休暇など):58.2%
2.諸手当(住宅手当、食事手当など):55.3%
3.フレックスタイム制:54.7%
4.各種補助(通勤費、通信費など):50.8%
5.在宅勤務制度:46.6%

大和ライフネクスト調査
1.休暇制度(病気休暇、リフレッシュ休暇など):53.8%
2.働き方(フレックスタイム制度、テレワークなど):50.8%
3.住宅関連(社宅、住宅手当など):37.5%
4.食事支援(食堂、食事手当など):27.3%
5.自己啓発(資格取得支援など):25.0%
上位項目の詳細分析
休暇制度が最も高い関心を集める理由は、ワークライフバランスの実現に直結するからです。学生が求めるのは、法定有給休暇を超えた特別休暇の存在と、実際に取得できる職場環境です。
住宅関連の手当は、学生にとって最も実用性の高い福利厚生の一つです。特に都心部で働く場合、家賃は給与の大きな割合を占めるため、住宅手当や家賃補助の有無は実質的な収入に大きな影響を与えます。
働き方の柔軟性に関する制度は、Z世代の価値観を最も象徴する福利厚生です。フレックスタイム制や在宅勤務制度は、個人の生活リズムや価値観に合わせた働き方を可能にします。
従来型福利厚生からの変化
注目すべきは、従来の福利厚生の定番とされてきた制度への関心の低下です。「慶弔災害(慶弔見舞金など)」への関心は14.5%と低く、学生の価値観が「もしもの時の備え」よりも「日常的に活用できる制度」を重視していることを示しています。
学生の情報収集行動と企業への期待
福利厚生情報の収集方法
学生の福利厚生情報収集方法には明確な傾向があります。最も多いのは「採用ページや就活情報サイト」の活用で53.3%、次に「口コミサイトやSNS」が17.5%となっています。
重要なのは、70.8%という高い割合の学生が「福利厚生について直接確認しづらいと感じている」ことです。企業側から積極的に情報を提供し、学生が知りたい情報を先回りして発信する必要があります。
学生が重視する情報の質

学生が福利厚生情報を評価する際に重視する要素は以下の通りです。
1.制度の種類や数:70.0%
2.実際の利用実績:53.8%
3.他社との比較による充実度:38.3%
4.メリット:36.4%
学生は「絵に描いた餅」のような制度ではなく、実際に機能している制度を求めています。企業は制度の概要を説明するだけでなく、従業員にとっての具体的なメリットを分かりやすく伝える必要があります。
人気企業の福利厚生事例と成功要因
注目される制度事例
人気企業の福利厚生制度を分析すると、企業の理念や価値観を体現した独自性のある制度設計が共通しています。
住宅関連制度では、特定エリア内限定の家賃補助制度が注目されています。「本社から半径10km以内に住む従業員に月額5万円の住宅手当を支給」といった地域限定型の制度は、通勤時間の短縮と生活の質向上を同時に実現します。
働き方の柔軟性では、コアタイムを最小限に抑えた制度や、月単位での労働時間調整を可能にする制度、在宅勤務との組み合わせによるハイブリッド型の制度が評価されています。
ユニークな休暇制度として、失恋休暇、アニバーサリー休暇、ペット忌引き休暇など、従来の常識を覆す制度も注目を集めています。これらは従業員の多様な価値観を認める企業姿勢を象徴しています。
制度設計の成功パターン
成功している企業の共通パターンは以下の通りです。
1.従業員の実際のニーズに基づいた制度設計
2.制度の利用しやすさを重視した運用設計
3.段階的な制度拡充
4.定期的な制度見直しと改善
メッセージ性の重要性
成功している企業は、制度の背景や目的を明確に発信しています。単純に「こんなに手厚い制度がある」というアピールを超えて、企業の価値観や従業員に対する考え方を伝える重要な役割を果たしています。
採用を有利にする福利厚生の工夫
予算をかけずにできる工夫
多くの中小企業が直面する課題は、限られた予算の中で学生にとって魅力的な福利厚生を構築することです。しかし、予算制約があっても工夫次第で学生の関心を引く制度を作ることは可能です。
時間の柔軟性を活用した制度が最も効果的で低コストです。フレックスタイム制度の導入は、システム投資や追加人件費をほとんど必要とせず、学生が最も求める「ワークライフバランス」の実現に直結します。
在宅勤務制度も、オフィス賃料の削減効果を考慮すると、実質的なコストをかけずに導入できる制度です。週1〜2日の在宅勤務を認めるだけでも、学生にとっては大きな魅力となります。
成長機会の提供として、資格取得支援制度は費用補助だけでなく、勉強時間の確保や社内での情報共有機会の提供など、金銭的負担を抑えながら価値を提供できます。
中小企業の差別化戦略
中小企業が大手企業と差別化を図るためには、規模の小ささを逆手に取った戦略が効果的です。
個人に寄り添った制度設計が中小企業の最大の強みです。従業員一人ひとりの状況を把握し、個別のニーズに対応できることは、大手企業では実現が困難な価値です。
意思決定の速さを活かした制度改善により、従業員の声を即座に制度に反映する仕組みを構築できます。
地域密着型の制度として、地元商店街での食事補助や地域イベントへの参加支援など、大手企業では実現困難な独自の制度を提供できます。
段階的な制度拡充のロードマップ

限られた予算の中で効果的な福利厚生を構築するためには、段階的なアプローチが重要です。
第1段階:基盤制度の整備では、コストをかけずに実現できる基盤的な制度を整備します。フレックスタイム制度、在宅勤務制度、有給休暇取得推進制度などから始めます。
第2段階:差別化制度の導入では、住宅手当、食事補助、資格取得支援など、一定の予算を必要とするが効果の高い制度を選択的に導入します。
第3段階:包括的制度の構築では、社宅・社員寮の提供、企業内保育所の設置など、長期的な投資を必要とする制度を導入します。
制度の実効性をアピールする方法
制度があることをアピールするだけでなく、その制度が実際に機能していることを証明することが重要です。
利用実績の公開により、「有給休暇取得率95%」「在宅勤務利用者80%」など、制度が実際に活用されていることを数値で示します。
利用者の声の発信として、実際に制度を利用した従業員のインタビューや体験談を積極的に発信します。
制度改善の継続性をアピールし、制度が進化し続けていることを示します。
今後の福利厚生トレンドと企業の対応策
Z世代の特性に対応した制度設計
Z世代の価値観や行動特性を深く理解し、それに対応した福利厚生制度の設計が今後ますます重要になります。
個人の価値観の多様性に対応するため、「カフェテリアプラン型」の福利厚生制度が主流となると予想されます。一定のポイントを従業員に付与し、そのポイントを使って自分が必要とする分野の福利厚生を選択できる制度です。
デジタル化への対応
福利厚生制度のデジタル化は、効率性の向上だけでなく、利用者体験の向上においても重要な要素となります。複数の福利厚生制度を一つのプラットフォームで管理できるシステムの構築が重要です。
AIを活用した個人最適化も重要なトレンドです。個人の利用履歴や嗜好を分析し、最適な福利厚生制度を推奨するシステムの導入が進むと予想されます。
社会貢献要素の組み込み
Z世代は社会課題への関心が高く、企業の社会的責任を重視します。福利厚生制度にも社会貢献要素を組み込むことで、Z世代の価値観に訴求できます。
ボランティア休暇制度、環境配慮型の福利厚生制度、地域社会との連携プログラムなどが考えられます。
まとめ
新卒学生の福利厚生に対する関心の高まりは、Z世代の価値観変化を反映した構造的な変化です。学生の63.4%が福利厚生を給与や職種と同程度に重視し、企業選択において「安定性」を最重視しています。
学生が求める福利厚生の特徴は、実用性、日常性、柔軟性の3つに集約されます。休暇制度、住宅関連支援、働き方の柔軟性が上位を占める一方、従来の慶弔災害支援への関心は低下しています。
企業規模による採用環境の格差は深刻ですが、中小企業であっても工夫次第で学生にとって魅力的な福利厚生を構築することは可能です。
成功のポイントは、従業員のニーズに基づいた制度設計、段階的な制度拡充、制度の実効性の確保、独自性のある制度設計、効果的な情報発信です。
今後の福利厚生は、デジタル化の進展、個人の価値観の多様化、社会課題への関心の高まりなどのトレンドを踏まえた進化が求められます。企業は単なる従業員サービスとしてではなく、採用戦略の中核要素として福利厚生を位置づけ、継続的な改善と進化を図る必要があります。
福利厚生制度の充実は、優秀な人材の獲得だけでなく、従業員のエンゲージメント向上、離職率の改善、企業ブランドの向上など、多面的な効果をもたらします。変化の激しい時代において、学生のニーズを敏感に察知し、それに対応した福利厚生制度を構築できる企業が、優秀な人材を獲得し、競争優位を築くことができるでしょう。
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