心理的安全性の作り方とは?明日から実践できる4つのコツ

現代の職場において、「心理的安全性」という言葉を耳にする機会が増えています。Googleが実施した「プロジェクト・アリストテレス」の研究結果により、チームの成功を決定する最も重要な要因として心理的安全性が注目されるようになりました。

心理的安全性とは、チームメンバーが恐れや不安を感じることなく、自分の意見や疑問、ミスについて率直に発言できる環境のことです。この環境が整うことで、イノベーションの促進、問題の早期発見、継続的な学習と改善が実現され、組織全体のパフォーマンス向上につながります。

本記事では、心理的安全性の基本概念から、明日からでも実践できる具体的な4つのコツまで、わかりやすく解説します。

目次

心理的安全性とは何か

心理的安全性の定義と概念

心理的安全性(Psychological Safety)は、ハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授によって提唱された概念です。「チームメンバーが対人関係上のリスクを取ることに対して安全であると感じられる環境」と定義されています。

具体的には、以下のような状況で安心して行動できる環境を指します。

•質問をすること

•懸念や疑問を表明すること

•ミスを認めること

•新しいアイデアを提案すること

Googleの研究「プロジェクト・アリストテレス」

2012年から2016年にかけて、Googleは「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれる大規模な研究を実施しました。この研究では、180のチームを対象に、高いパフォーマンスを発揮するチームの特徴を分析しました。

研究の結果、チームの効果性を決定する5つの要因が特定されましたが、その中で最も重要とされたのが心理的安全性でした。他の4つの要因(相互信頼、構造と明確さ、仕事の意味、インパクト)よりも、心理的安全性がチームのパフォーマンスに与える影響が最も大きいことが明らかになりました。

心理的安全性の4つの因子

日本の心理的安全性研究の第一人者である石井遼介氏は、日本の組織文化に適した心理的安全性の4つの因子を提示しています。

1.話しやすさ:気軽に発言できる環境

2.助け合い:困った時に支援を求められる環境

3.挑戦:新しいことにチャレンジできる環境

4.新奇歓迎:多様性や新しいアイデアが歓迎される環境

心理的安全性が低い職場で起こる問題

エドモンドソンの4つの不安

心理的安全性が低い職場では、従業員は以下の4つの不安を抱えることになります。

1.無知だと思われる不安:質問することで能力不足を露呈してしまうのではないかという恐れ

2.無能だと思われる不安:ミスを認めることで評価が下がるのではないかという恐れ

3.邪魔をしていると思われる不安:意見を述べることで業務の妨げになるのではないかという恐れ

4.ネガティブだと思われる不安:問題を指摘することで否定的な人間だと思われるのではないかという恐れ

組織に与える悪影響

これらの不安により、以下のような問題が発生します。

•情報の隠蔽:問題やミスが報告されず、重大な事故につながるリスク

•イノベーションの阻害:新しいアイデアが提案されず、競争力の低下

•学習機会の喪失:失敗から学ぶ機会が失われ、同じミスが繰り返される

•従業員エンゲージメントの低下:やりがいや満足度が低下し、離職率が上昇

心理的安全性がもたらすメリット

心理的安全性を高めることで、組織には以下のようなメリットがもたらされます。

パフォーマンスの向上

•チームメンバーが積極的に意見を交換し、より良いソリューションが生まれる

•問題の早期発見により、迅速な対応が可能になる

•多様な視点が活用され、創造性が向上する

学習と成長の促進

•失敗を学習の機会として捉えることで、継続的な改善が実現される

•知識やスキルの共有が活発になり、組織全体の能力が向上する

•挑戦的な目標に取り組む意欲が高まる

従業員満足度の向上

•自分の意見が尊重されることで、仕事への満足度が向上する

•ストレスが軽減され、メンタルヘルスが改善される

•離職率が低下し、優秀な人材の定着が図られる

明日から実践できる4つのコツ

心理的安全性を高めるために、明日からでも実践できる4つのコツをご紹介します。これらのコツは、石井遼介氏が提唱する心理的安全性の4因子に基づいており、日本の組織文化に適した実践的な方法です。

コツ1:話す機会を積極的に増やす

心理的安全性の基盤となるのは、メンバー間のコミュニケーションです。話す機会が少ない職場では、お互いの考えや状況を理解することが困難になり、誤解や不信が生まれやすくなります。

具体的な実践方法

定期的な1on1ミーティングの実施 上司と部下が定期的に個別で話し合う時間を設けることは、心理的安全性向上の最も効果的な方法の一つです。週に30分程度でも構いません。この時間は業務の進捗確認だけでなく、困っていることや悩み、アイデアなどを自由に話せる場として活用します。

1on1での活用例

•「最近、仕事で困っていることはありませんか?」

•「何かサポートが必要なことはありますか?」

•「新しいアイデアや改善提案はありませんか?」

チームミーティングでの発言促進 チーム全体のミーティングでは、全員が発言する機会を確保することが重要です。特に普段発言が少ないメンバーに対しては、「○○さんはどう思いますか?」といった形で積極的に意見を求めます。

効果的なミーティング運営のポイント

•議題を事前に共有し、準備時間を確保する

•発言の順番を決めて、全員に話す機会を与える

•「正解のない質問」を投げかけて、多様な意見を引き出す

カジュアルな対話の場の創出 業務以外での自然な会話も、心理的安全性の向上に重要な役割を果たします。コーヒーブレイクやランチタイムでの雑談、オンライン環境であればバーチャルコーヒーブレイクなどを積極的に設けます。

効果 コミュニケーションの頻度が増えることで、メンバー間の理解が深まり、信頼関係が構築されます。また、小さな問題や懸念も早期に共有されるようになり、大きな問題に発展することを防げます。

コツ2:相談や質問を歓迎する姿勢を示す

多くの職場では、「質問することは能力不足の表れ」という誤った認識が存在します。しかし、実際には質問や相談は学習と成長の重要な手段であり、チーム全体のパフォーマンス向上につながります。

具体的な実践方法

「分からないことがあったら、いつでも聞いてください」という明確なメッセージ 新入社員や新しいプロジェクトメンバーに対して、明確に相談を歓迎する姿勢を伝えます。継続的にこのメッセージを発信することが重要です。

効果的なメッセージの伝え方

•「どんな小さなことでも遠慮なく聞いてください」

•「質問してもらえると、私も気づかなかった点に気づけるので助かります」

•「分からないまま進めるより、確認してもらった方が安心です」

質問に対する感謝の表現 質問や相談を受けた際は、その内容に関わらず、まず感謝の気持ちを表現します。これにより、質問者は「質問して良かった」と感じ、今後も気軽に相談できるようになります。

感謝の表現例

•「良い質問ですね。私も改めて考えるきっかけになりました」

•「聞いてくれてありがとう。他の人も同じことで悩んでいるかもしれません」

•「確認してくれて助かります。一緒に考えてみましょう」

オープンドアポリシーの実践 物理的にもメンタル的にも、いつでも相談できる環境を整備します。リモートワークの場合は、チャットツールでの気軽な相談を歓迎したり、定期的な「質問タイム」を設けたりします。

効果 質問や相談がしやすい環境が整うことで、知識の共有が促進され、ミスの防止や業務効率の向上が期待できます。また、メンバーの学習意欲も高まり、スキルアップが加速されます。

コツ3:挑戦を歓迎し、失敗を学習の機会として捉える

イノベーションや成長には、必然的にリスクと失敗が伴います。失敗を恐れる文化では、新しいアイデアや改善提案が生まれにくくなり、組織の競争力が低下します。

具体的な実践方法

「失敗は成功の母」という価値観の共有 失敗を否定的に捉えるのではなく、学習と成長の機会として位置づけます。この価値観をチーム全体で共有し、失敗に対する恐怖心を軽減します。

価値観の共有方法

•チームミーティングで失敗の価値について話し合う

•成功した取り組みの背景にある失敗経験を共有する

•「失敗から学んだこと」を定期的に振り返る機会を設ける

失敗事例の振り返りと学習 失敗が発生した際は、個人を責めるのではなく、何がうまくいかなかったのか、次回どう改善するかを建設的に議論します。

効果的な振り返りの進め方

事実の整理:何が起こったのかを客観的に把握する

原因の分析:なぜそれが起こったのかを多角的に検討する

学びの抽出:この経験から何を学べるかを明確にする

改善策の検討:今後同様の状況でどう対応するかを決める

知識の共有:得られた学びをチーム全体で共有する

挑戦的な目標設定の奨励 安全圏にとどまるのではなく、少し背伸びが必要な目標設定を奨励します。ただし、無謀な挑戦ではなく、適切なサポートがある中での挑戦であることが重要です。

効果 失敗を恐れずに挑戦できる環境が整うことで、イノベーションが促進され、組織の成長力が向上します。また、失敗から学ぶ文化が根付くことで、同じミスの再発防止にもつながります。

コツ4:多様な価値観を尊重し、個性を活かす

多様性は、創造性とイノベーションの源泉です。異なる背景、経験、視点を持つメンバーが集まることで、より豊かなアイデアと効果的なソリューションが生まれます。

具体的な実践方法

異なる意見の積極的な歓迎 会議やディスカッションの場では、多様な意見が出ることを積極的に歓迎します。特に、多数派とは異なる意見や、一見突飛に思えるアイデアも大切にします。

異なる意見を引き出す質問例

•「他の見方はありませんか?」

•「もし○○だったら、どう考えますか?」

•「反対の立場から見ると、どんな課題がありそうですか?」

個人の強みの認識と活用 メンバーそれぞれの得意分野や強みを理解し、適切な役割分担を行います。これにより、各メンバーが自分の価値を実感でき、より高いパフォーマンスを発揮できます。

強みの活用方法

•定期的にメンバーの強みや関心事について話し合う

•プロジェクトの役割分担で個人の強みを考慮する

•メンバー同士で強みを認め合う機会を設ける

多様性の価値の共有 異なる背景や経験を持つメンバーの価値を組織全体で認識し、その重要性を共有します。多様性がもたらすメリットを具体的に示すことで、包容的な文化を醸成します。

効果 多様性が尊重される環境では、様々な視点からの意見が出され、より創造的で効果的なソリューションが生まれます。また、メンバー一人一人が自分の価値を実感でき、エンゲージメントが向上します。

リーダーシップの重要な役割

心理的安全性を高める取り組みにおいて、リーダーシップの果たす役割は極めて重要です。リーダーの行動や姿勢は、チーム全体の文化や雰囲気を決定する大きな要因となります。研究によると、チームの心理的安全性の約70%は、リーダーの行動によって決まるとされています。

リーダー自身が弱みを見せることの重要性

心理的安全性を高める上で最も効果的な方法の一つは、リーダーが自身の弱みや不完全さを率直に見せることです。これは一見すると逆説的に思えるかもしれませんが、多くの研究でその効果が確認されています。

自分の失敗経験を共有する リーダーが過去の失敗経験や困難だった状況について率直に話すことで、「失敗は誰にでも起こりうることで、恥ずかしいことではない」というメッセージを伝えることができます。

分からないことを素直に認める リーダーであっても、全てのことを知っているわけではありません。分からないことがあった際は、それを隠そうとするのではなく、「これについては私も詳しくないので、一緒に調べてみましょう」といった形で、素直に認めることが重要です。

上下関係による心理的圧迫感の緩和

階層的な組織構造は、しばしば心理的安全性を阻害する要因となります。リーダーは、この上下関係による心理的圧迫感を意識的に緩和する努力が必要です。

オープンドアポリシーの実践 いつでも気軽に相談できる環境を作るために、オープンドアポリシーを実践することが効果的です。これは単に「いつでも相談に来てください」と言うだけでなく、実際に相談しやすい環境を整えることを意味します。

権威的な態度を避ける 心理的安全性を高めるためには、威圧的な態度や一方的な指示を避け、協働的なアプローチを取ることが重要です。「これをやってください」ではなく「この件について、どう思いますか」といった形で、メンバーの意見や考えを求める姿勢を示すことが効果的です。

意思決定プロセスへのメンバー参加の促進

重要な意思決定プロセスにチームメンバーを積極的に参加させることで、メンバーは自分の意見が尊重され、組織の一員として価値ある存在であることを実感できます。

透明性の高い意思決定プロセス 重要な決定を行う際は、その背景や考慮すべき要因について透明性を保ち、メンバーからの意見や提案を積極的に求めることが重要です。

多様な視点の積極的な活用 異なる部署や役職のメンバーから意見を求めることで、多様な視点を意思決定に反映させることができます。これにより、より質の高い決定が可能になるだけでなく、メンバーの参加意識も高まります。

心理的安全性の測定と評価

心理的安全性を向上させるためには、まず現在の状況を正確に把握することが重要です。

エドモンドソンの7つの質問

心理的安全性の提唱者であるエイミー・C・エドモンドソンは、チームの心理的安全性を測定するための7つの質問を開発しました。

1.「チームの中でミスをすると、たいてい非難される」

2.「チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える」

3.「チームのメンバーは、自分と違うということを理由に、他人を拒絶することがある」

4.「チームでリスクのある話をするのは安全である」

5.「チームの他のメンバーに助けを求めるのは難しい」

6.「チームのメンバーは、私を陥れるようなことはしない」

7.「チームのメンバーと一緒に働くとき、私のスキルと才能は尊重され、活かされている」

これらの質問は、1(全くそう思わない)から7(非常にそう思う)までの7段階で評価します。一般的には5.0以上が良好な状態とされています。

定期的な測定と改善

心理的安全性は固定的なものではなく、様々な要因によって変化します。そのため、定期的な測定を行い、継続的に状況を把握することが重要です。四半期ごとの測定や、重要なプロジェクトの節目での測定を行い、その結果に基づいて具体的な改善策を実施するサイクルを確立することが効果的です。

参考おすすめ書籍

心理的安全性についてさらに深く学びたい方のために、特におすすめの2冊をご紹介します。

1. 『心理的安全性のつくりかた』石井遼介 著

出版社: 日本能率協会マネジメントセンター(2020年9月、336ページ)

日本における心理的安全性研究の第一人者による実践的な指南書です。日本の組織文化に適した心理的安全性の4因子「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」を提示し、行動分析学に基づく科学的なアプローチで解説しています。

2. 『恐れのない組織』エイミー・C・エドモンドソン 著

出版社: 英治出版(2021年2月、320ページ)

心理的安全性の概念を提唱したハーバード・ビジネススクール教授による決定版です。20年以上の研究成果が集約されており、医療、航空、製造業など多岐にわたる分野での実証研究結果が紹介されています。

これら2冊は併読することで、理論と実践の両面から心理的安全性への理解を深めることができます。

まとめ

心理的安全性は、現代の職場において最も重要な要素の一つです。本記事で紹介した4つのコツ「話す機会を積極的に増やす」「相談や質問を歓迎する姿勢を示す」「挑戦を歓迎し、失敗を学習の機会として捉える」「多様な価値観を尊重し、個性を活かす」は、明日からでも実践可能です。

まずは一つのコツから始めて、継続的に取り組むことで、職場の心理的安全性を高め、チーム全体のパフォーマンス向上を実現しましょう。

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