採用要件・人材要件の作り方完全ガイド|6ステップで解説

最終更新日:2025年9月5日

現代のビジネス環境において、企業の持続的な成長を支える最も重要な資産は「人材」です。しかし、少子高齢化に伴う労働人口の減少や、働き方に対する価値観の多様化により、多くの企業が人材獲得競争の激化に直面しています。このような状況下で、かつてのように「求人を出せば応募者が集まる」という時代は終わりを告げました。

採用活動におけるミスマッチは、単に採用コストの無駄遣いに留まらず、早期離職による組織の士気低下、教育コストの損失、さらには事業計画の遅延といった深刻な経営リスクを引き起こします。このようなリスクを回避し、自社にとって本当に必要な人材を的確に採用するためには、採用活動の根幹をなす「採用要件」を明確に定義することが不可欠です。

本記事では、人事責任者や経営者の皆様が、自社の未来を切り拓く優秀な人材を獲得できるよう、採用要件の重要性から具体的な作り方、そして実践的な活用方法までを、図解を交えながら網羅的に解説します。

目次

採用要件・人材要件とは?

採用要件の定義と目的

採用要件とは、「自社が求める人材像を、具体的なスキル、経験、能力、価値観などの基準に落とし込んで言語化したもの」を指します。これは、採用選考における判断基準となり、誰が面接官であっても一貫性のある評価を下すための羅針盤の役割を果たします。

採用要件を定義する主な目的は、以下の通りです。

採用の精度向上
自社に必要な人材を的確に見極め、ミスマッチを防ぐ。

選考の効率化
明確な基準により、書類選考や面接のスピードと質を向上させる。

関係者間の認識統一
経営層、人事、現場部門の間で「求める人物像」に対する共通認識を醸成する。

採用活動の改善
採用結果を振り返り、採用要件そのものの妥当性を検証し、次回の採用活動に活かす(PDCAサイクル)。

採用要件と人材要件、採用ペルソナの違い

採用要件と類似した言葉に「人材要件」や「採用ペルソナ」があります。これらの違いを理解することは、より精度の高い採用活動を行う上で重要です。

人材要件
一般的に「採用要件」とほぼ同義で使われます。どちらも「企業が必要とする人材の条件」を指しますが、「人材要件」は採用だけでなく、配置や育成、評価といった人事領域全般で活用される、より広範な概念として捉えることもできます。

採用ペルソナ
採用要件で定義した条件を基に、「その人物が実在するかのような、より具体的で詳細な人物像」を描き出したものです。氏名、年齢、学歴、職務経歴、価値観、ライフスタイル、情報収集の方法といったパーソナルな情報まで設定することで、ターゲット人材への解像度を飛躍的に高め、求人媒体の選定やスカウト文面の作成に役立てることができます。

採用要件に含めるべき項目と含めてはいけない項目

採用要件を具体的に設定する際には、どのような項目を盛り込むべきか、また法律上・倫理上含めてはならない項目は何かを正確に把握しておく必要があります。

【含めるべき項目例】

カテゴリ具体例
スキル・経験・特定のプログラミング言語の使用経験(3年以上)
・BtoB向けSaaSの営業経験
・5名以上のチームマネジメント経験
・新規事業の立ち上げ経験
知識・業界動向に関する深い知識
・特定の会計基準に関する知識
・Webマーケティングに関する体系的な知識
資格・TOEIC 800点以上
・公認会計士
・プロジェクトマネジメント
・プロフェッショナル(PMP)
価値観・志向性・チームワークを重視する
・変化に対して前向きで、新しい挑戦を好む
・顧客志向が強く、課題解決にやりがいを感じる
行動特性・主体的に課題を発見し、解決に向けて行動できる
・高い学習意欲を持ち、継続的に自己成長できる
・周囲を巻き込み、目標達成に向けてリーダーシップを発揮できる

【含めてはいけない項目(法律違反・就職差別)】

採用選考は、応募者の適性と能力を判断基準とすることが原則です。本人に責任のない事項や、本来自由であるべき事項を採用要件に含めることは、就職差別につながるため法律で禁止されています。

区分具体例
本人に責任のない事項・本籍、出生地
・家族構成、職業、続柄、健康状態、学歴
・住宅状況(間取り、部屋数など)
・生活環境、家庭環境など
本来自由であるべき事項・宗教
・支持政党
・人生観、生活信条
・尊敬する人物
・思想、信条
・労働組合(加入状況や活動歴など)
・学生運動などの社会運動
その他・男女を限定する募集(男女雇用機会均等法)
・年齢を限定する募集(雇用対策法)※例外事由あり

採用要件を定義するメリット・デメリット

メリット

1.採用のミスマッチ防止と早期離職率の低下
採用要件は、自社が本当に必要としている人材の姿を映し出す鏡です。この鏡が明確であればあるほど、候補者が自社の文化や求める役割に合致しているかを正確に見極めることができます。結果として、「思っていた仕事と違った」「社風に馴染めない」といった理由による採用のミスマッチを大幅に削減し、入社後の定着率向上、ひいては早期離職率の低下に繋がります。

2.採用スピードと効率の向上
明確な採用要件は、選考プロセス全体を効率化します。書類選考では、基準に合致しない候補者を迅速に判断でき、面接では、評価すべきポイントが明確になっているため、短時間で的確な質問を投げかけることができます。また、面接官による評価のブレが少なくなるため、選考に関わる全てのメンバーがスムーズに意思決定を行うことができ、採用活動全体のスピードアップが期待できます。

3.客観的で公平な選考の実現
採用要件がない状態での面接は、面接官の主観や経験、さらにはその日の気分によって評価が左右されがちです。これは、候補者にとって不公平であるだけでなく、企業にとっても優秀な人材を見逃すリスクをはらんでいます。採用要件という客観的な物差しを導入することで、全ての候補者を公平な基準で評価することが可能となり、選考プロセスの透明性と納得感を高めることができます。

4.採用活動のPDCAサイクル確立
採用要件は、一度作ったら終わりではありません。採用活動が終了した後、「定義した採用要件は適切だったか」「その要件で採用した人材は期待通りのパフォーマンスを発揮しているか」といった振り返りを行うための重要な基準となります。この検証(Check)を通じて、採用要件を改善(Action)していくことで、採用活動全体のPDCAサイクルを回し、継続的に採用の精度を高めていくことが可能になります。

デメリットと注意点

1.要件を増やしすぎると採用活動が鈍化する
理想を追求するあまり、採用要件を過度に増やしてしまうと、該当する候補者が極端に少なくなり、母集団形成が困難になるという罠に陥りがちです。特に、全ての要件を「必須(MUST)」としてしまうと、市場に存在しない「ユニコーン人材」を追い求めることになりかねません。要件には必ず優先順位をつけ、必須条件と歓迎条件を区別することが重要です。

2.定期的な見直し(PDCA)が必要
事業環境や組織の状況は常に変化しています。半期や通期で事業計画が見直されるのと同様に、採用要件も定期的に見直す必要があります。過去の成功体験に固執し、古い採用要件を使い続けていると、現在の事業フェーズに合わない人材を採用してしまう可能性があります。

採用要件の作り方【6ステップ】

それでは、実際に採用要件を作成するための具体的な手順を6つのステップに分けて解説します。このプロセス全体をフローチャートで示すと、以下のようになります。

採用要件の作り方

ステップ1:採用目的の明確化(経営・事業計画との連携)

採用は、単なる欠員補充ではありません。「事業課題を解決するための手段」であるという認識を持つことが、全ての出発点です。まずは、自社の経営方針や中期経営計画、事業計画を再確認し、「なぜ採用が必要なのか」「採用を通じて何を達成したいのか」という採用目的を明確にします。

例:

・新規事業の立ち上げに伴い、プロジェクトを牽引できるリーダーが必要

・既存事業のシェア拡大のため、即戦力となる営業担当者を3名増員したい

・次世代の管理職候補を育成するため、ポテンシャルの高い若手人材を獲得したい

この段階で、経営層や事業責任者と密に連携し、採用の背景にある事業上の課題や期待する役割について、解像度の高い共通認識を形成することが極めて重要です。

ステップ2:2つのアプローチ(演繹的・帰納的)の選択

採用要件を定義するには、大きく分けて2つのアプローチがあります。どちらか一方だけを用いるのではなく、両方を組み合わせることで、より精度の高い要件定義が可能になります。

求める人材像:「演繹的アプローチ」と「帰納的アプローチ」

演繹(えんえき)的アプローチ(未来からの逆算)
経営計画や事業戦略といった「未来のありたい姿」から逆算して、その実現に必要な人材像を定義するトップダウン型のアプローチです。新規事業の立ち上げや組織変革など、社内に前例のない役割の人材を採用する場合に特に有効です。

帰納(きのう)的アプローチ(現在からの分析)
現在、自社で高いパフォーマンスを発揮している「ハイパフォーマー」に共通するスキル、行動特性、価値観などを分析し、そこから活躍人材の要件を導き出すボトムアップ型のアプローチです。既存ポジションの増員など、すでにお手本となる人材が社内に存在する場合に有効です。

ステップ3:業務内容と役割の洗い出し

次に、採用するポジションが担当する具体的な業務内容と、組織内で期待される役割を詳細に洗い出します。現場の担当者やマネージャーへのヒアリングは欠かせません。

具体的な業務内容: どのような業務を、どのようなツールを使い、どのような頻度で行うのか?

期待される役割: チーム内でどのようなポジションを担うのか? 個人目標やチーム目標は何か?

関わるステークホルダー: 社内外の誰と、どのように連携する必要があるのか?

入社後のキャリアパス: 短期的(1年後)および中長期的(3〜5年後)にどのような成長や役割を期待しているか?

ステップ4:求めるスキル・経験・価値観のリストアップ

ステップ3で洗い出した業務内容と役割を基に、それを遂行するために必要なスキル、経験、価値観などを具体的にリストアップしていきます。この時点では、質より量を重視し、思いつく限りの項目を網羅的に書き出すことがポイントです。

ステップ5:要件の優先順位付け(MUST/WANT/BETTER/NEGATIVEフレームワーク)

リストアップした全ての要件を満たす完璧な人材は、まず存在しません。そこで、リストアップした項目に優先順位をつけ、採用の判断基準を明確にする必要があります。ここで役立つのが「MUST/WANT/BETTER/NEGATIVE」のフレームワークです。

採用要件の優先順位付け

MUST(必須条件): これがなければ業務遂行が困難になる、絶対に譲れない最低限の条件。

WANT(歓迎条件): 必須ではないが、持っていればプラス評価となり、早期の活躍が期待できる条件。

BETTER(あれば尚可): さらに付加価値が期待できる、差別化要因となる条件。

NEGATIVE(不適合条件): 自社の文化や価値観と相容れない、採用すべきではない条件。

ステップ6:採用ペルソナの作成と関係者間での共有

最後に、定義した採用要件を基に、ターゲットとなる人物像をより具体的にイメージできる「採用ペルソナ」を作成します。ペルソナを作成することで、採用チーム内での認識のズレを防ぎ、求人票の作成やスカウトメールの文面、面接での質問内容などを、よりターゲットに響く形で設計することができます。

【職種別】採用要件の具体例

営業職(リーダー候補)

背景: 主力SaaSプロダクトのエンタープライズ向け販売強化のため、プレイングマネージャーとしてチームを牽引できるリーダーを採用したい。

要件具体例
MUST(必須)・法人向け無形商材の営業経験5年以上
・SFA/CRM(Salesforce尚可)を活用した営業管理経験
・3名以上のメンバー育成またはマネジメント経験
・自ら課題を発見し、解決策を立案・実行した経験
WANT(歓迎)・SaaSビジネスまたはIT業界での営業経験
・エンタープライズ企業(従業員1,000名以上)への営業経験
・The Model型の営業組織での実務経験
・ビジネスレベルの英語力(TOEIC 750点以上)
BETTER(尚可)・海外での営業経験または赴任経験
・マーケティング部門と連携したリード創出の経験
NEGATIVE(不適合)・個人での成果のみを追求し、チームへの貢献意欲が低い
・既存のやり方に固執し、新しい手法を学ぶ姿勢がない

エンジニア職(Webアプリケーション)

背景: 自社開発のECプラットフォームの機能拡張およびパフォーマンス改善のため、バックエンド開発を担うエンジニアを募集。

要件具体例
MUST(必須)・Ruby on Railsまたは類似のWebフレームワークを用いた開発実務経験3年以上
・MySQLなどRDBMSを利用したスキーマ設計、開発経験
・Gitを用いたチームでの開発経験
・RSpecなどを用いたテストコードの実装経験
WANT(歓迎)・AWS/GCPなどのクラウドインフラの設計・構築・運用経験
・大規模トラフィックを考慮したパフォーマンスチューニングの経験
・Docker/Kubernetesなどのコンテナ技術の利用経験
・マイクロサービスアーキテクチャでの開発経験
BETTER(尚可)・OSSの公開やコントリビュートの経験
・技術カンファレンスでの登壇や技術ブログでの情報発信経験
・チームリーダーやテックリードとしての経験
NEGATIVE(不適合)・新しい技術や開発手法への学習意欲が低い
・コードレビューに対して非協力的な態度をとる
・セキュリティに対する意識が低い

企画・マーケティング職

背景: 新規サービスの認知度向上とリード獲得を目的とし、デジタルマーケティング戦略の立案から実行までを担う担当者を採用。

要件具体例
MUST(必須)・事業会社でのデジタルマーケティング実務経験3年以上
・Web広告(リスティング、SNS広告など)の運用経験
・Google Analyticsなどを用いたアクセス解析および改善提案の経験
・SEOに関する基本的な知識とコンテンツ企画の経験
WANT(歓迎)・MAツールの導入または運用経験
・BtoBマーケティングの経験
・SQLを用いたデータ抽出
・分析の経験
・Webサイトのディレクション経験
BETTER(尚可)・オフラインイベントの企画
・運営経験
・PR会社や広告代理店との折衝経験
NEGATIVE(不適合)・データに基づかない、感覚的な意思決定をする傾向がある
・施策の振り返りや効果測定に興味がない
・他部署との連携に対して非協力的である

採用要件の活用ポイント

採用広報(求人票・スカウトメール)への展開

作成した採用要件は、求職者が最初に目にする情報である求人票やスカウトメールに反映させる必要があります。MUST要件やWANT要件を具体的に記載することで、求職者は自身がそのポジションに適しているかを判断しやすくなり、応募の精度が高まります。

面接での評価基準としての活用

採用要件は、面接における評価シート(面接評価項目)の基盤となります。スキルや経験だけでなく、価値観や行動特性に関する項目も評価基準に加えることで、多角的かつ客観的な評価が可能になります。

入社後のオンボーディングや育成への接続

採用要件は、採用した人材が入社した後のオンボーディング(受け入れ・定着支援)や育成計画にも活用できます。面接時に確認したWANT要件の中で不足している部分や、本人が伸ばしたいと語っていたスキルについて、入社後の研修プログラムやOJTに組み込むことで、スムーズな立ち上がりと早期の戦力化を支援します。

まとめ

本記事では、採用要件の重要性から具体的な作り方、そして職種別の具体例や活用ポイントに至るまで、網羅的に解説しました。

変化の激しい時代において、戦略的な採用活動は企業の競争力を左右する重要な経営課題です。感覚や主観に頼った採用から脱却し、明確な「採用要件」という羅針盤を持つこと。それが、自社の未来を担う優秀な人材を獲得するための第一歩となります。

重要なのは、採用要件を一度作って終わりにするのではなく、事業の成長や市場の変化に合わせて継続的に見直し、改善し続けることです。採用活動のPDCAサイクルを回し、常に自社にとって最適な人材を定義し続ける努力が、持続的な企業成長の原動力となるでしょう。

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Crepeでは、「人事が変われば、組織が変わる」というコンセプトのもと、

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