
限定正社員(ジョブ型正社員)とは?
契約社員との違いや導入するメリット・デメリット、注意点を解説
働き方改革の推進や労働力不足の深刻化により、企業は多様な人材を確保し、活用する必要性に迫られています。従来の正社員と非正規雇用の二極化した雇用形態では、優秀な人材の確保や定着が困難になるケースが増えており、新たな雇用形態として「限定正社員」が注目を集めています。
限定正社員制度は、勤務地や職務内容、勤務時間などの条件を限定することで、従来の正社員制度では対応が困難だった人材のニーズに応える雇用形態です。本記事では、人事責任者や経営者の皆様に向けて、限定正社員の基本概念から導入時の注意点まで、実務に必要な知識を体系的に解説いたします。
目次
限定正社員とは何か
基本的な定義
限定正社員とは、勤務地や職務内容、勤務時間などの労働条件を限定して働く正社員のことを指します。「ジョブ型正社員」や「多様な正社員」とも呼ばれ、従来の無限定正社員(一般的な正社員)とパート・アルバイトなどの非正規社員の中間的な雇用形態として位置づけられています。
厚生労働省の定義によると、多様な正社員(限定正社員)は「いわゆる正社員(従来の正社員)と比べ、配置転換や転勤、仕事内容や勤務時間などの範囲が限定されている正社員」とされています。重要な点は、雇用期間については無期雇用であり、正社員としての身分保障を受けながら、特定の条件を限定することで、より柔軟な働き方を実現する制度であることです。
限定正社員の3つの主要な類型
限定正社員は、限定する条件によって主に3つの類型に分類されます。
勤務地限定正社員
勤務地限定正社員は、勤務するエリアが限定されており、転居を伴う転勤が一切ない正社員です。具体的には、特定の都道府県内、特定の地域ブロック内、または特定の事業所での勤務に限定されます。育児や介護などの事情により転勤が困難な労働者が離職することなく勤務を継続できるメリットがあります。
職務限定正社員
職務限定正社員は、担当する職務内容が限定されている正社員です。高度な専門性を必要とする業務において特に有効で、金融業における証券アナリスト、情報サービス業におけるシステムエンジニア、製造業における研究開発職などが典型例です。従業員の専門性を最大限に活用できる一方で、職務の範囲が明確に定められているため、配置転換や職種変更は原則として行われません。
勤務時間限定正社員
勤務時間限定正社員は、勤務時間(所定労働時間)がフルタイムではない、または残業を一切しなくてよいなど、勤務時間が制限された働き方をする正社員です。短時間正社員とも呼ばれ、家庭や健康の都合上で長時間働けない従業員や、ボランティア活動などで仕事以外の時間を確保したい従業員に適用されます。
限定正社員と契約社員の違い
人事責任者や経営者にとって、限定正社員と契約社員の違いを正確に理解することは、適切な人材戦略を策定する上で極めて重要です。
雇用期間の違い
最も重要な違いは雇用期間です。限定正社員は無期雇用の正社員である一方、契約社員は労働契約の期間に定めがある有期雇用の非正規社員です。契約社員は契約期間の満了により労働契約が終了しますが、限定正社員は契約期間の定めがないため、基本的に定年まで雇用が継続されます。
法的地位と処遇面の違い
限定正社員は正規雇用に分類される一方、契約社員は非正規雇用として扱われます。この法的地位の違いは、労働法上の保護や企業内での処遇に大きな影響を与えます。限定正社員には、一般の正社員と同様の福利厚生が適用されます。具体的には、退職金制度、企業年金、各種手当、有給休暇の付与日数、慶弔休暇などの福利厚生制度を受けることができます。
雇用の安定性
限定正社員は正社員として、労働契約法第16条の解雇権濫用法理による保護を受けます。これにより、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効となります。契約社員の場合、契約期間満了による雇止めが可能であり、限定正社員と比較して雇用の安定性は低くなります。
限定正社員導入のメリット
企業側のメリット
多様な人材の確保と定着
限定正社員制度導入の最大のメリットは、多様な人材の確保につながることです。従来の無限定正社員制度では対応が困難だった人材層にアプローチできるようになります。子育てや介護などの家庭事情により転勤やフルタイム勤務が困難な優秀な人材、特定の地域に根ざして働きたい人材、専門性を活かしたい人材などを正社員として雇用できます。
地域密着型事業の強化
勤務地限定正社員の活用により、地域密着型の事業展開を強化できます。地元出身者や地域に精通した人材を確保することで、地域の顧客ニーズをより深く理解し、きめ細かなサービス提供が可能になります。
専門人材の効果的活用
職務限定正社員の導入により、高度な専門性を持つ人材を効果的に活用できます。IT、研究開発、金融、医療などの専門分野では、特定の技能や知識に特化した人材が求められます。職務限定正社員制度により、これらの専門人材を適切な処遇で確保し、その専門性を最大限に発揮させることができます。
従業員側のメリット
ワークライフバランスの実現
限定正社員制度は、従業員のワークライフバランス実現に大きく寄与します。勤務地限定により転勤の不安がなくなり、勤務時間限定により家庭との両立が図りやすくなります。特に、子育てや介護などのライフイベントを抱える従業員にとって、正社員としての安定した雇用を維持しながら、時間的・地理的制約に対応できることは極めて重要です。
雇用の安定性確保
限定正社員は無期雇用の正社員であるため、契約社員やパート従業員と比較して高い雇用安定性を享受できます。契約更新の不安がなく、長期的なキャリア形成が可能になります。
限定正社員導入のデメリットと課題
企業側のデメリット
人事管理の複雑化
限定正社員制度導入の最大の課題の一つは、人事管理の複雑化です。従来の正社員、限定正社員、契約社員、パート・アルバイトなど、複数の雇用形態が混在することで、人事管理業務が大幅に増加します。雇用形態ごとに異なる労働条件の管理、給与計算の複雑化、勤怠管理システムの対応、人事評価制度の多様化などが必要になります。
正社員との処遇バランスの困難さ
限定正社員と無限定正社員との間で適切な処遇バランスを図ることは、極めて困難な課題です。処遇差が小さすぎる場合、転勤や残業を受け入れている無限定正社員から不公平感や不満が生じる可能性があります。一方で、処遇差が大きすぎる場合、限定正社員から不満が生じ、同一労働同一賃金の原則に抵触するリスクも生じます。
人事権の制約
限定正社員制度の導入により、企業の人事権が制約されます。勤務地限定正社員は転勤させることができず、職務限定正社員は配置転換の範囲が限定されます。これにより、事業環境の変化に応じた柔軟な人材配置が困難になる場合があります。
従業員側のデメリット
キャリア形成の制約
限定正社員は、限定条件によりキャリア形成に制約が生じる可能性があります。勤務地限定正社員の場合、他地域での経験を積む機会がなく、全国規模での視野や経験の蓄積が困難になります。職務限定正社員の場合、専門性は深まる一方で、幅広い業務経験を積む機会が制限され、ゼネラリストとしてのキャリア形成が困難になる可能性があります。
限定正社員導入時の注意点
法的要件と手続き上の注意点
就業規則の整備
限定正社員制度を導入する際は、就業規則の改定が必要です。限定正社員の定義、限定内容、労働条件、処遇などを明確に規定し、従業員に周知する必要があります。就業規則には限定正社員の定義と分類、各類型の限定内容、給与・賞与の算定方法、昇進・昇格の基準、転換制度などを明記することが重要です。
同一労働同一賃金への対応
限定正社員制度の導入において、同一労働同一賃金の原則への適切な対応が極めて重要です。限定条件に応じた合理的な処遇差の設定と、その根拠の明確化が求められます。処遇差を設ける場合は、限定条件の内容と程度、職務の内容と責任の程度、人材活用の仕組みや運用の違いなどを考慮する必要があります。
制度設計上の注意点
限定内容の明確化
限定正社員制度の成功には、限定内容の明確化が不可欠です。曖昧な限定条件は、後々のトラブルの原因となる可能性があります。勤務地限定の場合は具体的な勤務地の範囲、職務限定の場合は具体的な職務内容と範囲、勤務時間限定の場合は所定労働時間の具体的な設定を明確にする必要があります。
転換制度の整備
限定正社員と無限定正社員の相互転換制度の整備は、制度の柔軟性と従業員のキャリア形成において重要です。ライフステージの変化やキャリア志向の変化に応じて、雇用形態を変更できる仕組みを用意することが望ましいです。
運用上の注意点
組織内コミュニケーションの充実
限定正社員制度の導入には、組織内の十分なコミュニケーションが不可欠です。制度の目的、内容、処遇の考え方について、全従業員の理解と納得を得ることが重要です。制度導入の背景と目的の明確な説明、各雇用形態の特徴と処遇の違いの詳細説明、質疑応答の機会の提供などが必要です。
継続的なモニタリングと改善
限定正社員制度は導入後も継続的なモニタリングと改善が必要です。制度の効果測定と課題の把握を行い、必要に応じて制度の見直しを行うことが重要です。限定正社員の採用・定着状況、従業員満足度の変化、組織パフォーマンスへの影響などを定期的に評価する必要があります。
まとめ
限定正社員制度は、働き方改革の推進と多様な人材活用の実現において、企業にとって重要な選択肢となっています。制度導入の成功には、明確な目的設定、適切な制度設計、十分なコミュニケーション、法的要件の遵守、継続的な改善が重要です。
労働力不足の深刻化と働き方の多様化が進む中で、限定正社員制度の重要性はさらに高まることが予想されます。人事責任者や経営者の皆様には、本記事で解説した内容を参考に、自社の状況に応じた限定正社員制度の検討と導入を進めていただければと思います。

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