300名以下の企業が成功するための人事制度改革:実行イメージを描くためのポイント

「会社の成長に合わせて人事制度を整えなければいけない」とわかっていても、実際に手をつけようとすると「何から始めればいいのか分からない」「自社の文化や現場の声をどのように反映すべきか迷う」といった壁にぶつかることが少なくありません。特に、社員数が300名に満たない中小企業やスタートアップの場合は、大企業のように専門部署が充実しているわけでもなく、経営者や人事責任者が多くの業務を兼任しているケースが大半です。

私はこれまでに、何社もの中小企業・スタートアップの人事制度改革をサポートしてきました。その中で感じたのは、人事制度改革が「単に評価表や給与テーブルを整備すること」では終わらないということです。真に大切なのは、経営者や人事責任者が「何を目指して組織をつくるのか」を言語化し、それを基に社員のキャリアや働きがいをサポートできる仕組みを設計していくことです。

しかし、「理念は立派でも、実際の運用で形骸化してしまう」「制度を導入したのはいいが、かえって社員の不満が増えてしまった」という話をよく耳にします。そうした失敗を避けるためにも、本記事では人事制度改革の目的から設計・導入プロセス、そして運用・改善までを、事例や筆者の体験を交えながら、丁寧に解説していきます。

最終的には、「明日から動き出せる具体的アクション」や「どのようにロードマップを描けばよいのか」がイメージできるように、実行ステップを描き出してみました。
どうぞ最後までお読みいただき、貴社の人事制度改革に少しでもお役立ていただければ幸いです。

【このシリーズを読んでほしい人!】

・人材不足や従業員のモチベーション低下に悩む経営者、人事責任者

・人事制度の改革に興味のある経営者、人事担当の方

・組織の持続的成長の実現を考える経営者

【このシリーズを読むことでのベネフィット】

・具体的な改革ステップや事例を知ることで、自社に合った改革プランを立てやすくなる

・改革のポイントや注意点を事前に把握することで、失敗のリスクを減らし、より効果的な改革を進めることができる

・組織全体の活性化と持続的な成長を実現するためのヒントを得られる

目次

なぜ今、人事制度を見直すべきなのか

成長フェーズで起こりがちな「組織のカオス」

社員数が少ないうちは、創業メンバー同士の意思疎通がスムーズに進み、フラットで自由闊達な組織文化を楽しめることが多いものです。たとえば、社員数が30名にも満たないスタートアップでは、経営者や創業メンバーが直接メンバーを評価し、給与調整などをその都度相談しながら柔軟に決めることができます。そこには煩雑なルールも不要で、「全員が社長の考えを理解しており、むしろ自分たちで動けるから」というスピード感が武器になりがちです。

しかし、社員数が50名、100名と増えてくると状況は一変します。「社内の誰がどんな仕事を担当していて、どんな成果を上げているのか」が、経営者や人事責任者だけでは把握しきれなくなってきます。現場もまた「自分の仕事ぶりはどう評価されているのか」が分からないまま進むため、不安や不満が蓄積していきます。

放置すると何が起こるのか:経営上のリスク

「まだ社員数が少ないから」「うちは社内が仲良しだから大丈夫」といった理由で人事制度の整備を後回しにしていると、以下のようなリスクが高まります。

離職率の増加
スタートアップや中小企業の場合、優秀な人材が本格的に力を発揮する前に辞めてしまうことは大きな痛手です。特に、評価基準や昇給のルールが曖昧な状態が続くと、「将来への展望が持てない」と判断され、競合他社や大企業へ人材が流出しやすくなります。

採用難への加速
離職率が高まると、社員口コミサイトやSNSで評価が下がり、新規採用のハードルが一気に上がります。採用にコストをかけても、内定辞退率が高まったり、欲しい層の人材が集まりにくくなったりしてしまうのです。

現場のマネジメント不在
経営者や上層部のリーダーシップだけで現場が回っている場合、組織が拡大するとすぐに限界を迎えます。適切な役職やミドルマネージャーを配置し、評価・育成の仕組みを整えなければ、現場の混乱は深刻化する一方です。

意思決定の遅れとビジネスチャンスの逸失
フラットな組織を維持したい気持ちは尊いですが、組織がある程度の規模に達すると、誰が責任者で、どこまで決定権があるのかを明確にしないと、業務のスピードは確実に落ちてしまいます。ビジネスのチャンスを逃し、成長が鈍化する原因にもなり得るでしょう。

これらのリスクを考えると、「人事制度改革はまだ早い」と先延ばしする方が、結果的に高コストになることは明白です。むしろ、社員数が少ない今だからこそ、シンプルだけれど本質を押さえた人事制度を整えておくことで、将来的な混乱を未然に防ぐことができます。

スタートアップ・中小企業の人事制度改革で目指すべきもの

シンプルであっても「納得感」を生む仕組みづくり

大企業の人事制度をお手本にしようとすると、どうしても複雑化しがちです。職種別や役職別に無数の等級を設定し、細かな評価項目を設けてしまうと、中小企業では「そもそも運用できない」「評価シートの記入に時間がとられて業務が滞る」といった問題が起こります。

大切なのは、「シンプル」であっても 「社員が納得感を持てる」 制度を作ることです。評価や報酬における基準が明確であるかどうか、経営方針や会社の価値観がしっかりと反映されているかがポイントになります。

将来の組織像を描きながら「柔軟に変化できる」制度を作る

スタートアップや中小企業は、事業の成長スピードが非常に早く、1年後、2年後には組織規模や事業内容が大きく変化している可能性もあります。そのため、人事制度もある程度の柔軟性を持たせておかなければ、すぐにアップデートが必要になってしまうでしょう。

たとえば、「1年ごとに制度を見直す仕組み」を最初から組み込んでおく企業もあります。これは「頻繁にルールを変える」という意味ではなく、「定期的に見直して、変化が必要なら素早く手を打つ」というスタンスです。組織が成長し、役割分担や事業内容が変わったなら、その変化を評価制度や賃金制度に反映しなければ、社員の不安を招くことになります。

人事制度改革の準備段階~「悩みを言語化する」ことから始める~

現状の課題は何か:経営者と現場のギャップを埋める作業

「人事制度改革」と聞くと、すぐに評価シートの作成や賃金テーブルの設計に着手したくなるかもしれません。しかし、最初にやるべきことは 「経営者と現場が感じている悩みや課題を正しく言語化すること」 です。

私がコンサルで入る際には、必ず初期段階で「現状把握」のワークショップを行います。具体的には、経営陣だけでなく、様々な部署・ポジションの社員に参加してもらい、次のような質問についてディスカッションを重ねるのです。

  • 「今、組織としてどんな課題を感じているか?」
  • 「評価・給与・キャリアに関して、どんな不満や不安があるか?」
  • 「会社の方針と現場の実態はどのくらい合っているか?」
  • 「社員が会社を辞めるとしたら、理由は何か?」

これらの問いに対して、なるべく具体的なエピソードを引き出すように心がけます。たとえば、「評価が不透明」という抽象的な不満ではなく、「頑張っても経営陣の気に入られないと評価されない気がする」や「実績よりも発言力の強い人が評価されているように見える」など、よりリアルな本音が出るようにファシリテーションします。

この段階で大切なのは、経営陣と社員の間に存在する認識のズレを可視化することです。経営者は「わが社は実力主義だから、成果さえ出せば評価される」と思っていても、現場の社員は「トップの好みで評価が決まるのでは」という疑念を持っているかもしれません。こうしたギャップは、人事制度を設計するうえで最も大きな障害になるため、早めに浮き彫りにしておく必要があります。

経営理念・ビジョンとの整合性:制度は手段であって目的ではない

スタートアップや中小企業の魅力の一つは、経営者が描く理念やビジョンを「全員で共有しやすい」という点にあります。大企業ほどセクショナリズムが強くないため、ビジョンを社内に浸透させやすいのです。

人事制度改革を行うときも、まずは「会社のビジョンやミッションをどのように反映させるか」を考える必要があります。たとえば「個人のチャレンジを尊重し、失敗を恐れずに挑戦するカルチャーを大切にしたい」というビジョンがあるなら、評価制度で「チャレンジの質・回数」を盛り込む、あるいは「失敗をポジティブに捉え、学びを重視するフィードバック制度」を構築するといった工夫が考えられます。

人事制度はあくまで「組織を目的の方向に動かすための手段」であり、それ自体がゴールではありません。会社のビジョン・ミッションを踏まえたうえで、「では具体的にどんな行動が評価されるべきか」「どのような能力を伸ばす仕組みを作るべきか」を設計するのが王道だという点を忘れないようにしたいものです。

人事制度設計の基本要素を理解する

ここまで準備段階の重要性について述べてきましたが、いよいよ「人事制度をどう設計するか」という具体的な部分に踏み込んでいきましょう。企業規模や業種によって必要な要素は多少異なりますが、スタートアップや中小企業が押さえておきたい主な要素は、等級制度・評価制度・報酬(給与)制度・育成制度の4つです。

等級制度:役割と責任範囲を明確にする

等級制度とは、社員を何らかの基準でグループ分けし、そのグループごとに役割や必要なスキルレベル、責任範囲などを定義する仕組みです。たとえば、「職務等級制度」ではポジション別(マネージャー、リーダー、一般社員など)に責任範囲やミッションを定義し、「職能等級制度」では職種や能力に応じてレベル分けを行います。

スタートアップや中小企業が等級制度を導入する意義は、「この会社では、どういうステップで成長できるのか」を社員に示すことにあります。たとえば、営業部門であれば「一般社員 → リーダー → マネージャー → 部長候補」といった形で、どの等級に上がれば給与レンジがどうなるか、どのような役割が期待されるのかを明確にしておくのです。

評価制度:定量評価と定性評価のバランスがカギ

評価制度は、人事制度の中でも特に社員の関心が高い部分です。ここが不透明だったり、属人的に運用されていたりすると、社内の不満が一気に噴出しやすくなります。スタートアップ・中小企業において重要なのは、「誰が、いつ、どのような基準で評価するか」をできるだけ簡潔に示すことです。

評価のタイミング

大企業では年1回や年2回の評価が一般的ですが、成長スピードの速いベンチャーやスタートアップの場合は、四半期ごと(3ヶ月に1回)の評価を取り入れるケースが増えています。評価のサイクルを短くすることで、社員とのコミュニケーションを密にし、目標の修正やフィードバックをよりタイムリーに行えるようになるのが利点です。

評価の基準

評価基準には大きく分けて「成果(業績)評価」と「行動(コンピテンシー)評価」があります。たとえば営業職なら「売上目標の達成率」「新規顧客の獲得数」といった定量評価がしやすいですが、企画やエンジニア職などは成果を数字で測りにくい場合もあります。そこで行動評価(リーダーシップ、チーム貢献度、問題解決力など)を合わせて用いることで、より総合的に社員を評価できるようにします。

報酬(給与)制度:納得感を支える「見える化」の工夫

評価制度と連動しているのが報酬制度(給与や賞与、インセンティブなど)です。ここがブラックボックス化すると、社員の不満は一気に高まります。スタートアップや中小企業の場合、給与レンジの幅が大企業ほど広くはないにせよ、「どの等級・役職に上がれば、どのレンジの給与が得られるのか」を大まかに示すだけでも大きな安心材料になります。

育成制度:評価だけでなく「成長を支援する仕掛け」を

多くの経営者や人事責任者は「評価制度を整えたら終わり」と考えがちですが、実は評価結果を「社員の育成」に結びつける部分こそが大切です。どんなに素晴らしい評価基準を設計しても、社員がフィードバックを受け取るだけで終わってしまえば、次のアクションにつながりません。

このように、評価と育成がセットになっている企業は、社員の能力開発が早く、組織としても安定的に成果を上げられる傾向があります。スタートアップや中小企業において、人材の成長がビジネス成果に直結しやすいからこそ、育成制度の存在は軽視できません。

導入から定着まで~実行イメージを掴む具体的なステップ~

スモールスタート:試験運用の大切さ

人事制度を一気に全社導入するのはリスクが伴います。特に、評価基準や賃金制度を大幅に変更すると、想定外の反発や混乱が起こることも珍しくありません。そこで多くの成功事例では、まず一部の部署や特定の職種で「試験運用」を行い、課題を洗い出してから全社的に展開しています。

たとえば、営業部門だけ先行して新しい評価制度を試し、短期(四半期など)でどのようなメリット・デメリットが出るかを確認します。そのフィードバックをもとに細かいルールを修正し、半年後に開発部門にも導入するといった流れです。いきなり全体を巻き込むのではなく、リスクを最小化しながらノウハウを蓄積していくのです。

社内浸透を促すコミュニケーションと教育

人事制度が完成したとしても、それを社員が理解し、納得しなければ意味がありません。制度を導入する際の「説明会」や「研修」は欠かせないステップです。私はよく「制度導入の際には、社員総会などを活用して、経営トップ自らが意図や背景を語ると良い」とアドバイスをしています。

特に、社員が関心を持つのは「なぜ今この制度を導入するのか」「自分たちにどんなメリットがあるのか」という点です。単に「こう決まりました」で終わらせず、「会社のビジョン実現のために必要」「社員の働きがいを高めるために設計した」といったストーリーを、経営陣の言葉でしっかり伝えることで理解が深まります。

さらに、管理職や評価者には、「評価面談の進め方」「フィードバックの仕方」などを学ぶ研修が必要です。例えば「コーチングの基礎」や「面談での質問スキル」を学ぶだけでも、評価面談の質は格段に上がります。社員に対しても、「自分の目標をどう設定すればいいか」「キャリアビジョンと会社の評価制度をどう紐付けるか」を学ぶ機会を提供してあげると、自然と自主性が高まります。

実際の成功事例:小規模企業でのスムーズな改革プロセス

あるデザイン事務所(社員数30名)では、代表と人事責任者が中心となり、2ヶ月かけて制度の試作を作り上げました。その後、少人数であるメリットを活かし、全社員を対象にした「理念共有&制度説明の合宿」を実施。1泊2日の研修で、会社のビジョンから評価・報酬制度の概要まで一気に伝えたのです。

研修では、グループワークを通じて社員が「自分が会社でどんなスキルを伸ばしていきたいか」「会社の理念と自分の目標をどう紐づけるか」を深く考える時間を取りました。加えて、「評価をするとき、評価されるときにどんなコミュニケーションが必要か」というロールプレイも行い、制度導入後のイメージを全員で共有できたのです。

こうした丁寧なコミュニケーションを経て、新制度の導入はスムーズに進み、社員からの反発や戸惑いは最小限に抑えられました。合宿後にアンケートを実施したところ、「なぜこの制度が必要なのか腹落ちした」「会社のビジョンと自分の目標がつながった」といった前向きな感想が多数寄せられたそうです。

運用後の見直しと継続的な改善

形骸化を防ぐための「運用レビュー」と「見直しサイクル」

たとえ素晴らしい人事制度を作っても、それを放置してしまえば次第に形骸化してしまいます。特に、忙しい現場が「評価シートの記入を後回しにする」「面談が流れてしまう」などの事象が起きると、社員は「ああ、やっぱりやってるフリだけか」と感じてしまうものです。運用を定着させるためにも、少なくとも年に1回は運用レビューの場を設けましょう。

たとえば、全社で評価を終えた後に、人事責任者や管理職が集まって「評価面談は予定通り行われたか」「社員からのフィードバックはどうだったか」「どんなトラブルが起こったか」を共有します。そのうえで、「この項目は分かりづらかった」「等級の定義を再検討したほうがいい」などの改善提案を出し合い、次のサイクルに反映するのです。

「失敗事例」から学ぶ、見直しの重要性

人事制度を導入する際に、もっとも多い失敗の一つが「作り込みすぎて運用できなくなった」というケースです。私はかつて、あるIT企業(社員数150名)の人事制度構築を支援しましたが、その会社の最初の要望は「大企業並みに細かい評価指標を作り、完璧な形にしてほしい」というものでした。しかし、ヒアリングを続けるうちに、彼らの社内リソースや評価者のスキルレベルでは、それほど複雑な運用は難しいと判断しました。

一度はクライアントの要望通りに詳細な評価表を作ったものの、実際に回してみると「記入項目が多すぎて、評価シートが提出期限に間に合わない」「管理職がフィードバックに充分な時間を取れない」という問題が噴出し、社員の不満は大きくなる一方でした。結果的に、導入後半年の段階で大幅なダウンサイジングを行い、項目数を半分以下に削ることでようやく軌道に乗ったのです。

この例が示すように、「完璧さ」を追求するあまり実務が追いつかなくなり、結果として制度そのものが形骸化してしまうことは珍しくありません。最初はシンプルに設計し、運用を通じて徐々にブラッシュアップしていくほうが、最終的には高い完成度にたどりつける可能性が高いのです。

事例で学ぶ成功の秘訣と失敗の教訓

ここまで述べてきた内容をさらに具体的にイメージしていただくために、複数の企業事例を簡単にご紹介します。貴社の状況に近い事例があれば、ぜひ参考にしてみてください。

成功事例:A社(社員数80名・ITベンチャー)のスピード改革

A社は、設立3年目で一気に売上が伸び、社員数が30名から80名へ急増したベンチャー企業です。創業当初はフラットな組織で、評価も代表の鶴の一声で決まるような環境でした。しかし、社員数が増えるにつれて「評価がブラックボックスだ」「報酬がどう決まっているのかわからない」という声が噴出。離職率も急上昇していました。

そこで、代表は人事責任者を中心にプロジェクトチームを立ち上げ、短期間(3ヶ月)で新たな人事制度を設計。最初の1ヶ月で現場ヒアリングと経営陣のビジョン確認を徹底的に行い、次の1ヶ月で等級制度と評価基準を試作し、最後の1ヶ月で営業部とエンジニア部門の一部に先行導入してテストを実施しました。その結果、不明点や不具合が見つかったため、導入前に修正を加え、全社展開したのです。

結果的に、社員からの反発は最小限で済み、新制度に対して多くの肯定的なフィードバックが集まりました。四半期ごとの評価面談が浸透すると、管理職とメンバーのコミュニケーションが増え、案件の進捗や課題感を共有しやすくなったといいます。さらに、明確なキャリアパスが示されたことで、若手社員の離職率が一気に下がり、組織の安定と売上の伸びに大きく寄与しました。

失敗事例:B社(社員数150名・メーカー)の複雑化による混乱

B社は「老舗メーカーから新規事業への転換期」に差しかかっており、人事制度の近代化を図ろうとしました。コンサル会社に依頼した結果、職種や役職ごとに細かく等級を設定し、50項目以上ある評価指標を導入。報酬制度も、基本給・職能給・職務給・各種手当などが複雑に絡み合う“大企業ばり”の仕組みとなり、初年度は現場が大混乱に陥りました。

マネージャーは日常業務のほかに膨大な評価シートを埋めるのに追われ、肝心のフィードバックの時間が取れず、「評価だけが一方的に下される」状態になってしまったのです。社員は「なんで自分がこの評価なのか全く納得がいかない」という不満を抱え、評価面談の場では口論が絶えませんでした。

この状況を受けて、B社は導入後半年の段階で評価項目を半分に削減し、等級も職能の軸と役職の軸を分けて考えるシンプルな形に改訂。その後、徐々に運用が安定し、3年目には「最初からシンプルにしとけばよかった」と経営陣が振り返るほどでした。

明日から動き出すためのアクションプラン

ここまで人事制度改革の流れや事例を紹介してきましたが、実際に経営者や人事責任者が「では何から始めればいいのか」を整理してみましょう。大きく分けて、以下のステップがおすすめです。

  1. 社内ヒアリング・現状把握
    可能であればアンケートとインタビューを組み合わせ、経営陣と社員の認識ギャップや不満の具体的内容を集める。
  2. 経営陣のビジョン共有ミーティング
    「どのような組織を目指すのか」「人事制度を通じてどんな文化を醸成したいのか」を言語化し、合意形成する。
  3. 制度試作・パイロット導入
    等級・評価・報酬の骨格を作り、一部の部署や職種で試験運用。現場からのフィードバックを吸い上げる。
  4. 全社導入に向けたコミュニケーションプラン策定
    社員説明会や研修、評価者トレーニングなど、導入プロセスを綿密に設計する。
  5. 導入後の定期レビューと改善
    運用サイクルを回しながら、年1回や半年1回などのペースでレビューし、適宜アップデートを行う。

どのステップでも重要になるのは、「当事者の声を丁寧に拾い上げること」と「経営陣が自ら旗を振る姿勢」です。特に、経営者が「これをやるのはなぜか」「どういう理想を描いているのか」を自分の言葉で語らないまま制度を導入しようとしても、社員は「結局、上がやりたいだけでしょ」とシラケてしまう可能性があります。逆に言えば、ビジョンを共有しながら、社員を巻き込んで制度を作り上げていく姿勢を見せるだけで、驚くほど社内の理解が進みやすくなるのです。

人事制度改革は「組織の未来」をカタチにするプロセス

スタートアップや中小企業にとって、人事制度改革は単なる仕組みづくりではありません。「これからどんな組織文化を育て、どんなビジョンを実現していくのか」を具体的に描き、それを全員が共有するための重要なプロセスです。

社内には必ずと言っていいほど多様な意見が存在します。「評価をもっと厳格にしてほしい」という人もいれば、「自由な社風を大事にしてほしい」という人もいます。その意見をすべて吸い上げて、無秩序に詰め込んでしまえば、B社のように複雑化して運用不能になるでしょう。だからこそ、経営者や人事責任者が「ビジョンの軸」をブレさせずに、必要な要素を取捨選択し、シンプルであっても本質を捉えた制度を作ることが大切になります。

本記事の冒頭でも触れたように、私が携わってきた数多くの改革事例を振り返ると、成功する会社に共通するのは「やるからには真剣に取り組み、現場の声を無視しない」姿勢です。さらに言えば、最初から完璧を目指すよりも、運用しながら改善を繰り返す柔軟な姿勢を持つことが、長期的に見て成果を生む近道だと思います。

もし今、「人事制度を見直したいが、どう動けばいいのか分からない」と迷っているのであれば、まずは本記事で紹介した「社内ヒアリング」「経営陣のビジョン明確化」から取り組んでみてください。どんなに小さな一歩でも、実際に行動を起こすことでしか見えてこない景色があります。そして、制度が少しずつ形を成していくと同時に、社内の雰囲気や文化が変わり始めるはずです。

300名以下の企業であっても、しっかりとした人事制度を整えれば、優秀な人材が集まりやすくなり、既存社員の成長意欲も高まり、ビジネスの成長速度が加速します。逆に、必要な時に手を打たずに先延ばしにしてしまえば、貴重な人材を失い、機会損失を被るリスクが高くなるでしょう。そう考えると、人事制度改革はコストではなく、「未来への投資」だと言っても過言ではありません。

皆さんの企業が、人事制度改革を通じてさらなる成長と活気あふれる組織を実現されることを心から願っています。

まとめ

本記事を通じて、「本質的な悩みの所在」と「実行ステップのイメージ」を少しでも明確にできたのであれば幸いです。

  • 「まずは現場の声を聞きたい」という場合は、小さなアンケートから始めてみてください。無料のオンラインフォームで簡単に作成できますし、質問の仕方を工夫するだけでも見える景色が変わります。
  • 「経営者や幹部とビジョンを共有したい」という方は、1~2時間ほどのミーティングを設定し、本記事にある問いかけをもとにディスカッションをしてみてください。意外なほど、メンバー間の意識ギャップが炙り出されるものです。
  • 「どうやって具体的な制度を作ればいいかわからない」という場合は、人事コンサルや社労士など外部専門家のサポートを得るのも手です。全部を丸投げするのではなく、あくまで“自社主体”で改革を進める姿勢を持ちつつ、必要な知見を借りると良いでしょう。

人事制度改革は決して楽な作業ではありませんが、一度仕組みを作って運用が軌道に乗ると、組織全体が驚くほど活性化する体験を得ることができます。ぜひ、未来の成長を見据えた制度づくりに挑戦してみてください。もし、お困りでしたら弊社へもお気軽にお問合せください。お打ち合わせだけでもお力になれることがあるかもしれません。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

「すごい人事」情報局運営元:株式会社Crepe
Crepeでは、「人事が変われば、組織が変わる」というコンセプトのもと、

すごい人事パートナー

⚫︎各種業界1300名の人事が在籍。工数・知見を補う「即戦力」レンタルプロ人事マッチングサービス

すごい人事採用おまかせパック

⚫︎1日2時間〜使えるマネージャークラスのレンタル採用チーム。オンライン採用代行RPOサービス

すごい人事コンサルティング

⚫︎人事にまつわる課題を解決へ導く、伴走型人事コンサルティングサービス


などのサービスを通して、人事課題を解決する支援を行っています。

サービスについてのご相談・お問い合わせはこちら
◆お打ち合わせご予約はこちら

資料ダウンロード /
ご相談・お問い合わせ