HRBPとは?役割や仕事内容、人事との違い、必要なスキルを解説

最終更新日:2025年8月19日

現代のビジネス環境において、企業の競争優位性を決定する要因として「人的資本」の重要性がかつてないほど高まっています。グローバル化の進展、デジタル変革の加速、そして人材の流動化が進む中で、従来の人事管理手法では企業の成長を支えることが困難になってきました。このような背景から注目を集めているのが、HRBP(Human Resource Business Partner)という新しい人事の役割です。

本記事では、人事責任者や経営者の皆様に向けて、HRBPの基本概念から具体的な導入方法まで、実践的な観点から詳しく解説いたします。

目次

HRBPとは何か?

HRBPの定義と意味

HRBP(Human Resource Business Partner)とは、経営者や事業責任者の戦略的パートナーとして、人事部門の枠を越えて俯瞰的な視点から経営や事業の成長をサポートする人事のプロフェッショナルを指します。この概念は、1990年代にミシガン大学のデイブ・ウルリッヒ教授によって提唱された人事機能の4つの役割モデルの一つとして生まれました。

HRBPの最も重要な特徴は、人事業務の単なる執行者ではなく、事業戦略の立案段階から関与し、人事戦略を通じてビジネス成果の最大化を図ることにあります。特定の事業部門や事業領域を担当し、その事業の成功に向けて人材要件の定義、組織体制の最適化、人材開発の推進などを戦略的に実行します。

HRBPが注目される背景

HRBPが世界的に注目を集める背景には、現代のビジネス環境における重要な変化があります。

グローバル化の進展
企業は多様な市場環境や文化的背景を持つ人材を効果的に活用する必要性に迫られています。画一的な人事制度ではなく、事業特性に応じた柔軟で戦略的な人材マネジメントが求められます。

デジタル変革の加速
企業に求められるスキルセットが急速に変化しています。AI、データサイエンス、デジタルマーケティングなど、新しい技術領域の専門人材の確保と育成が企業の競争力を左右する状況において、従来の人事アプローチでは対応が困難になっています。

人材の流動化と働き方の多様化
従業員エンゲージメントの向上と優秀な人材の定着が重要な経営課題となっています。HRBPは、事業部門と密接に連携することで、従業員一人ひとりのキャリア開発や働きがいの向上に向けた具体的な施策を実行し、組織全体のパフォーマンス向上に貢献します。

戦略人事との関係性

HRBPを理解する上で重要なのは、「戦略人事」という概念との関係性です。戦略人事とは、企業の経営戦略の実現に向けて、人事部門が戦略的な役割を果たすアプローチを指します。HRBPは、この戦略人事を実現するための具体的な役割の一つとして位置づけられます。

戦略人事の実現には、人事部門の機能を「戦略的パートナー」「管理エキスパート」「従業員チャンピオン」「変革エージェント」の4つの役割に分化することが重要とされています。この中でHRBPは主に「戦略的パートナー」としての役割を担い、経営陣や事業責任者と密接に連携しながら、人事戦略の立案と実行を推進します。

また、HRBPは人事制度の設計や運用を担う「センター・オブ・エクセレンス(CoE)」や、日常的な人事業務を効率的に処理する「シェアードサービス」と連携することで、組織全体の人事機能を最適化します。この三層構造により、戦略性と効率性を両立した人事運営が可能になります。

従来の人事とHRBPの決定的な違い

従来の人事とHRBPの違い

役割と責任範囲の違い

従来の人事担当者とHRBPの最も根本的な違いは、その役割と責任範囲にあります。従来の人事担当者は、主に全社的な人事制度の運用、労務管理、採用業務の実行など、いわば「守りの人事」としての機能を中心に担ってきました。これに対してHRBPは、特定の事業部門や事業領域に対する「攻めの人事」として、その事業の成長と成功に直接的な責任を負います。

具体的には、従来の人事担当者が「人事制度をいかに適切に運用するか」に焦点を当てていたのに対し、HRBPは「事業目標の達成に向けて人事戦略をいかに活用するか」という視点で業務に取り組みます。また、HRBPは事業部門の業績向上に対して直接的な責任を負い、事業部門のKPIや業績指標を深く理解し、人事施策の効果を事業成果として測定することが求められます。

業務内容の違い

従来の人事担当者の主要業務は、採用プロセスの管理、人事制度の運用、労務管理、研修の企画・実施など、比較的定型化された業務が中心でした。一方、HRBPの業務は、事業戦略の立案段階から参画し、人材面での戦略策定を行うことから始まります。

具体的には、事業計画に基づいた人材要件の定義、組織設計の最適化、重要ポジションの後継者計画、事業変革に伴う組織開発など、より戦略的で創造的な業務が中心となります。さらに、事業部門のマネジメント層との定期的な戦略会議への参加、事業課題の分析と人事的解決策の提案、組織診断の実施と改善計画の策定など、コンサルティング的な要素の強い業務も担います。

組織内での位置づけの違い

従来の人事担当者は、人事部門という機能部門の一員として、主に人事部長や人事担当役員に対して報告を行い、全社的な人事方針に基づいて業務を遂行していました。これに対してHRBPは、担当する事業部門の経営陣や事業責任者の「ビジネスパートナー」として位置づけられます。

HRBPは人事部門と事業部門の両方に対して責任を負う「マトリックス組織」の一員として機能します。人事部門に対しては専門性の向上と全社的な人事方針との整合性を保つ責任があり、事業部門に対しては事業目標の達成に向けた人事戦略の実行責任があります。

成果指標の違い

従来の人事担当者の成果指標は、主に人事業務の効率性や正確性に関するものが中心でした。例えば、採用プロセスの期間短縮、研修の実施回数、労務トラブルの発生件数などが主要な評価指標とされていました。

一方、HRBPの成果指標は、事業成果に直結するものが中心となります。具体的には、担当事業部門の売上成長率、利益率の改善、従業員エンゲージメントスコア、重要人材の定着率、組織能力の向上度合いなど、事業の成功に直接的に貢献する指標が重視されます。また、次世代リーダーの育成状況、組織の変革対応力、イノベーション創出能力の向上など、長期的な組織能力の構築に対する責任も負います。

HRBPに求められる5つの主要な役割

経営戦略と人事戦略の連携

HRBPの最も重要な役割の一つは、経営戦略と人事戦略を密接に連携させることです。多くの企業において、経営戦略と人事戦略が別々に策定され、両者の整合性が十分に取れていないという課題があります。HRBPは、この課題を解決するために、経営戦略の立案段階から参画し、人事的観点からの戦略提案を行います。

具体的には、事業計画の策定プロセスにおいて、市場環境の変化や競合状況の分析と並行して、必要な人材要件や組織能力の分析を行います。また、経営戦略の変更や修正に応じて、人事戦略も柔軟に調整する役割を担います。このような戦略的な連携により、企業は変化の激しいビジネス環境において競争優位性を維持することが可能になります。

事業部門のビジネスパートナー

HRBPは、担当する事業部門の真のビジネスパートナーとして機能することが求められます。そのためには、担当事業部門のビジネスモデル、競合環境、顧客ニーズ、技術動向などを深く理解し、事業責任者と同じレベルで事業について議論できる知識と洞察力が必要です。

実際の業務においては、事業部門の定期的な戦略会議に参加し、人事的観点からの意見や提案を積極的に行います。また、事業部門の中長期的な成長戦略に対して、必要な組織能力の構築、重要ポジションの人材確保、既存メンバーのスキル向上など、人材面での戦略的な準備を計画的に進めます。

組織開発と人材開発の推進

組織開発と人材開発の推進は、HRBPの中核的な役割の一つです。HRBPは担当事業部門の特性や課題に応じたカスタマイズされた組織開発・人材開発施策を設計し、実行します。

組織開発の観点では、事業目標の達成に向けて最適な組織構造や業務プロセスの設計を行います。人材開発については、事業戦略に直結するスキル開発プログラムの設計と実行を担い、個人のキャリア目標と事業ニーズを両立させる長期的な育成計画を策定します。

データ分析による意思決定支援

現代のHRBPには、データ分析能力を活用した意思決定支援が強く求められています。従業員エンゲージメント調査、組織診断、パフォーマンス分析、離職率分析などの各種データを収集・分析し、組織の現状と課題を客観的に把握します。

これらの分析結果に基づいて、事業部門の管理職に対して具体的な改善提案を行い、施策の実行後は効果測定を通じて継続的な改善を図ります。また、予測分析の手法を活用して、将来の人材ニーズや組織課題を先取りし、戦略的な取り組みを行います。

変革推進とチェンジマネジメント

企業が持続的な成長を実現するためには、継続的な変革が不可欠です。HRBPは、事業部門における変革の推進とチェンジマネジメントにおいて中心的な役割を担います。

変革推進においてHRBPが果たす役割は多岐にわたります。変革の必要性と方向性について事業責任者と密接に連携しながら戦略を策定し、変革に対する従業員の理解と協力を得るためのコミュニケーション戦略を設計・実行します。特に重要なのは、変革を推進するリーダーシップの育成と支援です。

HRBPに必要な7つの重要スキル

HRBPに必要な7つの重要スキル

戦略的思考力

HRBPにとって最も重要なスキルの一つが戦略的思考力です。これは、短期的な課題解決にとどまらず、中長期的な視点で組織と事業の発展を考える能力を指します。戦略的思考力の具体的な要素には、環境分析能力、将来予測能力、システム思考、そして優先順位設定能力が含まれます。

高度なコミュニケーション能力

HRBPは、経営陣、事業部門の管理職、一般従業員など、様々な階層の人々と効果的にコミュニケーションを取る必要があります。このコミュニケーション能力には、傾聴力、説明力、交渉力、プレゼンテーション能力などの複数の側面があります。

ビジネス・経営知識

HRBPが事業部門の真のパートナーとして機能するためには、人事の専門知識だけでなく、幅広いビジネス・経営知識が必要です。これには、財務・会計、マーケティング、オペレーション、戦略論、組織論などの基礎的な経営知識が含まれます。

人事専門知識と実務経験

HRBPには、人事領域における深い専門知識と豊富な実務経験が求められます。労働法規、人事制度設計、組織開発、人材開発、労使関係などの幅広い領域の専門知識を実務経験と組み合わせることで、説得力のある提案と確実な実行を実現できます。

課題解決・分析能力

HRBPは、事業部門が直面する様々な人事的課題に対して、効果的な解決策を提案し、実行する能力が求められます。課題の本質を正確に把握し、根本原因を分析し、実行可能な解決策を設計する課題解決・分析能力が不可欠です。

データ活用スキル

現代のHRBPには、データを活用した意思決定と施策立案のスキルが強く求められています。データリテラシー、統計分析スキル、データ可視化スキル、予測分析能力などを活用することで、より科学的で説得力のある提案を行うことができます。

リーダーシップとファシリテーション

HRBPは、直接的な部下を持たない場合でも、様々なプロジェクトやイニシアチブをリードし、関係者を巻き込んで成果を創出する必要があります。権限に依存しないリーダーシップとファシリテーション能力が重要なスキルとなります。

HRBP導入の具体的なステップと方法

導入前の準備と現状分析

HRBP導入を成功させるためには、十分な準備と現状分析が不可欠です。自社の事業戦略、組織構造、人事制度、企業文化などの現状を客観的に把握し、HRBPが果たすべき役割と期待される成果を明確化する必要があります。

現状分析では、事業戦略、組織、人事制度、企業文化の観点から複数の評価を行い、HRBPが最も効果を発揮できる領域や事業部門を特定し、導入の優先順位を決定します。

人事戦略の策定と方向性の決定

現状分析の結果を踏まえて、HRBP導入の目的と期待成果を明確化し、それに基づいた人事戦略を策定します。長期的なビジョンを設定し、HRBPが担当する事業部門や機能領域を決定し、それぞれの領域でのHRBPの役割と責任を定義します。

実行体制の構築

人事戦略の策定後は、HRBP導入のための実行体制を構築します。HRBPの人材確保、組織体制の設計、業務プロセスの整備、システム・ツールの準備などが含まれます。内部登用と外部採用の両方を検討し、最適な人材調達戦略を決定することが重要です。

パイロット運用と効果検証

実行体制の構築後は、限定的な範囲でのパイロット運用を実施し、HRBP導入の効果を検証します。1つまたは2つの事業部門を対象として、実際にHRBPを配置し、一定期間の運用を行い、その結果に基づいて本格運用に向けた改善策を策定します。

本格運用と継続的改善

パイロット運用での検証結果を踏まえて、HRBP導入の本格運用を開始します。段階的に対象事業部門を拡大し、継続的改善のメカニズムを確立し、定期的な効果測定と改善活動を実施します。

日本企業におけるHRBP導入の現状と課題

国内企業の導入状況

日本企業におけるHRBP導入の現状は、欧米企業と比較してまだ発展途上の段階にあります。2024年の調査によると、HRBPが「いる」と回答した企業は16.6%にとどまっており、依然として低い水準にあります。

導入が進んでいる企業の特徴を見ると、外資系企業、IT・テクノロジー企業、グローバル展開を積極的に行っている企業が多い傾向があります。一方、製造業や伝統的な日本企業では、導入が遅れている傾向が見られます。

導入における主要な課題

日本企業がHRBP導入において直面する主要な課題は、適切な人材の確保と育成、組織文化との適合性、データ活用基盤の整備などです。HRBPには高度なビジネス知識と人事専門性の両方が求められるため、そのような人材は市場において希少であり、確保が困難な状況にあります。

成功企業の事例分析

HRBP導入に成功している日本企業の事例を分析すると、経営トップの強いコミットメントと明確なビジョンの設定、段階的な導入アプローチなどの共通する成功要因が見えてきます。

失敗要因と対策

HRBP導入に失敗した企業の事例を分析すると、HRBPの役割と期待成果が不明確であること、既存の人事制度や組織構造との整合性が取れていないこと、事業部門との連携不足などの共通する失敗要因が明らかになります。

経営者・人事責任者が今すぐ取るべきアクション

HRBP導入の判断基準

HRBP導入を検討している経営者や人事責任者は、事業環境の変化の激しさ、組織の規模と複雑性、人材の重要性、経営陣の戦略人事に対する理解とコミットメントなどの要素を総合的に評価し、導入の適切性とタイミングを判断することが重要です。

人材育成と採用戦略

HRBP導入において最も重要な要素の一つが、適切な人材の確保と育成です。内部育成と外部採用の両面から戦略的なアプローチを取り、体系的な育成プログラムの提供や多様なバックグラウンドを持つ人材の採用を検討することが重要です。

組織体制の見直しポイント

HRBP導入に合わせて、人事部門全体の組織体制を見直すことが成功の重要な要素となります。人事機能の三層構造の導入、HRBPの報告ラインと権限の明確化、評価制度と報酬体系の見直しなどが必要です。

成功に向けた具体的な第一歩

HRBP導入を成功させるために、経営者と人事責任者が今すぐ取るべき具体的なアクションは以下の通りです。

①経営陣の合意形成と戦略的方向性の明確化
CEO、事業部門長、人事担当役員が参加する戦略会議を開催し、HRBP導入の目的、期待成果、投資計画について合意を形成します。

②パイロットプロジェクトの企画と実行
全社的な導入の前に、限定的な範囲でのパイロットプロジェクトを実施し、HRBP導入の効果を検証します。

③人材開発プログラムの設計と開始
内部育成対象者の選定と育成プログラムの設計、外部採用の要件定義と採用活動の開始を並行して進めます。

④データ基盤とシステム環境の整備
人事データの収集・分析・活用のためのシステム導入を検討し、データ品質の向上とデータガバナンスの確立を図ります。

これらのアクションを段階的かつ継続的に実行することで、HRBP導入の成功確率を大幅に向上させることができます。重要なのは、短期的な成果を求めすぎず、中長期的な視点で組織変革に取り組むことです。

まとめ

HRBPは、現代の企業経営において人的資本の価値を最大化し、持続的な競争優位性を構築するための重要な機能です。従来の人事管理から戦略人事への転換を実現し、事業成果に直接貢献する人事のプロフェッショナルとして、その重要性は今後ますます高まっていくことが予想されます。

日本企業においても、グローバル化の進展、デジタル変革の加速、人材流動化の進行により、HRBP導入の必要性が急速に高まっています。成功のためには、経営陣の強いコミットメント、適切な人材の確保と育成、組織体制の最適化、そして継続的な改善の仕組みが不可欠です。

経営者と人事責任者の皆様には、本記事で紹介した知見を参考に、自社の状況に応じたHRBP導入戦略を検討し、人的資本経営時代における競争優位性の確立に向けて積極的に取り組んでいただければと思います。

「すごい人事」情報局運営元:株式会社Crepe
Crepeでは、「人事が変われば、組織が変わる」というコンセプトのもと、

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