
IPO前後の伸び悩みを突破せよ!
シリーズC・D
レイターフェーズ企業が直面する人事課題と人事戦略のすべて

シリーズC・Dのレイターフェーズに入ると、企業は事業成長の加速とともに、組織の急拡大に直面します。
「採用を増やしても組織がうまく回らない…」
「評価制度を整えたいが、スピード感と公正さのバランスが難しい…」
「管理体制を強化しなければいけないが、どこから手をつけるべきか…」
このような悩みを抱える人事責任者の方も多いのではないでしょうか。
シリーズC・D、いわゆるレイターフェーズに差しかかったスタートアップ・ベンチャー企業は、まさにIPO準備にも追われ、「急成長」と「組織の安定化」の狭間で揺れ動く時期といえます。
このフェーズでは、「どの機能を強化するべきか」を明確にし、優先順位をつけて整備することが不可欠です。
本記事では、シリーズC・D、レイターフェーズの企業が直面する「人事課題」と、その解決に役立つ具体的な施策について、実例や体験談をまじえながら詳しく解説します。
【このシリーズを読んでほしい人!】
・IPO準備を進める中で、人事の体制を強化したい人事責任者・経営者の方
・急成長する企業の人事課題に直面している方
・採用・組織開発・評価制度・労務管理の整備に悩んでいる方
【このシリーズを読むことでのベネフィット】
・シリーズC・D、レイターフェーズにおける人事の課題を網羅的に理解できる
・採用・評価・組織開発・労務の各領域で、具体的に何をすべきかが明確になる
・人事の組織化を進め、経営に貢献できる強い人事チームを作る方法が分かる
目次
シリーズC・D期に必要な人事機能とは?
シリーズC・D、レイターフェーズに突入すると、売上規模や社員数が一気に増加する一方、これまでの“属人的”な人事対応では限界が訪れます。
事業の拡大スピードに合わせて「人事機能のレベルアップ」が必須となります。これまでスタートアップ初期の段階では、採用や労務が何とか回ればよかったかもしれませんが、社員数が数十名から数百名へと急拡大するこのフェーズでは、より精緻な組織・人事の設計・運用が求められます。ここでは、現場で具体的に起こりやすい課題を交えながら、「採用」「組織開発・人材育成」「評価・報酬制度」「労務・コンプライアンス」の4つに分けて解説します。
レイターフェーズのIPO準備企業が整備すべき人事機能は、大きく以下の4つに分類できます。

1.採用・リクルーティング(Recruiting)
2.組織開発・人材育成(Organization Development & Learning)
3.評価・報酬・制度設計(Compensation & Benefits)
4.労務・コンプライアンス(HR Operations & Compliance)
それぞれの機能について、詳細に解説していきます。
採用・リクルーティング
急拡大する採用ニーズと現場の混乱
レイターフェーズでは、短期間に大量の人材を確保しなければならないケースが多くなります。例えば、シリーズCで一気に資金調達をして「開発チームを2倍に増やす」「営業を50名採用する」といった状況に陥ることも珍しくありません。しかし、現場からは「どんなスキルセットを持った人材が欲しいか明確に示されていない」「部門ごとに採用要件がバラバラ」などの声が上がりがちです。
さらに「開発部門は即戦力クラスのエンジニアを求めるのに、報酬水準が市場と合っていない」「営業部門は “未経験OK” と言いつつも、実はスキル要件が高い」など、要件が流動的で矛盾する場面が多々発生します。その結果、人事担当が採用オペレーションに忙殺され、戦略的な採用計画を立てる余裕がなくなるのです。
IPO準備にさしかかるレイターフェーズの企業では、大量採用が求められる一方で、経営陣と人事・現場の間で「採用要件のズレ」が発生しやすくなります。
結果として、必要な人材が確保できず、事業のスピードが落ちてしまいます。
必須の人事機能と打ち手のポイント

採用計画の統合管理 ★★★★★
・経営陣・事業部と連携し、「いつまでに、どの部署で、何名必要か?」を一つの計画に落とし込む。
・採用は事業成長の要と位置付け、このタイミングから経営陣・事業部との採用ミーティングの会議体自体を見直すこともおすすめ。特に今まで現場との採用ミーティングは期初にしかやらない、という会社も多いと思いますが、定例で場を設けていくことも検討。
・社員数が増えてくると部門間の連携が弱くなりがちなので、採用要件を整合性のある形で統括できる“採用責任者”を明確化する。
ダイレクトリクルーティング・リファラルの強化 ★★★★☆
・エージェント頼みの採用に限界を感じたら、ダイレクトリクルーティングや求人検索エンジンなど、戦術を磨き運用効率を上げることで採用に結びつく施策を取り入れる
・特にレイターフェーズの成長企業には「企業カルチャーに共感する優秀人材」を短期で獲得するのが欠かせない。リファラル施策やリクルーターの専門チームを整備し、社内外のコネクションを最大限に活用する。
採用ブランディング・候補者体験(CX)の向上 ★★★☆☆
・候補者が「この企業で働きたい」と思えるような採用体験を提供する。面接の進行が雑にならないよう、候補者体験をあげるための採用ピッチ資料の作成や面接官のトレーニングも必須で行う。
・事業モデルやミッションを鮮明に打ち出し、“レイターフェーズならではの成長ストーリー” を発信することが大切。
このタイミングでは、「人事」という統合的な機能から「採用担当」というポジションが明確に生まれることが多くあります。今まで採用していなかった層の採用が急増するタイミングなので、戦略・戦術課題も多く発生します。また人事担当が採用オペレーションに忙殺され、戦略的な採用計画を立てる余裕がなくなるのを未然に防ぐために、
・採用における責任者を立てる
・現場の責任者にも採用ミッションを与える
・採用戦略・採用戦術をハンズオンで外部の市場に詳しい採用のプロを活用する
・採用のオペレーション機能を外部に委託しながら急拡大に備える
といった「採用」における座組み改革も検討すべきです。
組織開発・人材育成(OD・L&D)
マネージャー不足とチームの混乱
社員数が100名を超えてくると、現場には「新任マネージャー」が急増します。プレイヤーとしての実績が評価され昇進したものの、マネジメントの経験やスキルがなく、部下をどう指導したらいいかわからないという状況が多発します。これにより、「マネージャーが自分の業務もこなしながらチームメンバーのフォローに追われる」「1on1やチームビルディングが形骸化する」「判断基準があいまいで、メンバーとのトラブルが増える」など、組織内で混乱が生じやすくなります。
必須の人事機能と打ち手のポイント

マネージャー育成プログラム ★★★★★
・新任マネージャーやリーダーを対象に、「リーダーシップ」「コミュニケーション」「業務の仕組み化」などの研修を体系的に提供する。
・外部コーチングや社外1on1・新人マネージャー向けのメンター制度を整え、マネージャー同士で情報交換するコミュニティを作ると効果的。
エンゲージメントサーベイの定期実施とフォローアップ ★★★★☆
・従業員エンゲージメントを定点観測(できれば四半期ごと)し、数値的に問題を把握する。
・サーベイ結果から「部門ごとに離職意向が高い」「マネジメントに対する不満が強い」などの課題が出てくるので、組織における緊急度と重要度を整理し改善に着手。
・単にデータを取るだけで終わらないよう、人事・マネージャー・経営陣が協働してアクションプランを策定することが大切。
キャリアパスの設計と共有 ★★★★☆
・レイターフェーズでは、エース社員が「成長機会が少ない」「キャリアが見えない」と感じ始めると、一気に離職が加速する。
・たとえば、「マネージャーコース」「スペシャリストコース」の2パターンを用意し、社内でのキャリアアップを可視化。
・マネージャー・メンバー間の1on1など、コミュニケーションの場を定期的に設け、個人のキャリア志向をヒアリングしながら柔軟にフォローする。また、マネージャーだけでなく横断したメンター制度・部署外1on1などもおすすめ。
まずはマネージャー陣から社外1on1をはじめて課題の抽出・その上でマネージャー育成プランを設計。並行してエンゲージメントサーベイで組織全体の課題を洗い出しながらボトムアップ型で人材開発ロードマップや社内制度の再構築を行う、などの流れで施策検討を進めるのがおすすめ。
弊社の支援先のお客様と部署外のリーダーと1on1の機会・ランチにいく制度「ナナメンター」という制度を一緒につくったり、社外の国家資格キャリアコンサルタントを活用したセルフキャリアドッグの機会をつくるなどの取り組みも有効です。
評価・報酬・制度設計(C&B)
評価の不透明さによる不満・離職
シリーズC・D、レイターフェーズに入ると、企業の事業規模が一気に拡大し、組織の成長スピードと人事制度の整備スピードのズレが大きな課題となります。
特に、「評価・報酬」「労務・コンプライアンス」に関しては、企業の透明性・公平性を担保しつつ、スピード感のある組織運営が求められます。
成長フェーズでは、組織内で職種・役職が多様化し、従来の「一律評価」では不平不満が高まります。典型的な場面として「同じように成果を出しているのに、他部署の昇給率は高い」「評価のフィードバックが抽象的で、どう成長すればいいか分からない」という声が増えがちです。こうした不透明感が社内に蔓延すると、優秀な社員が他社に流れてしまうリスクも高くなります。
シリーズC・D期によく起こりがちな人事制度課題
課題 | 発生するリスク |
評価制度が不明確 | 社員のモチベーション低下・優秀な人材の流出 |
昇給・昇進の基準が曖昧 | 「なぜあの人が昇格?」「私は評価されていない」 |
給与水準のバラつき | 給与交渉の個別対応が増え、給与体系が崩れる |
ストックオプションの不整備 | 採用競争力が低下し、エグゼクティブ採用に苦戦 |
特に、「評価の基準が不透明」という問題は深刻で、成長フェーズの企業において「人事評価が公正でない」と感じた社員は、数年以内に離職する確率が高いというデータもあります。市場競争力のある給与体系を設計し、エース社員の流出を防ぐような仕組みづくりに早急に着手することが必要です。
必須の人事機能と打ち手のポイント

評価基準の明確化・可視化 ★★★★★
・職種・役割ごとに求められる成果や行動指針を明確に定義。根気のいる作業なので、前述した「組織開発・人材育成」と同時に人材開発ポリシーを定めながら進めることを推奨。
・OKRやMBOなどの目標管理フレームワークを見直し、短期成果と長期的な組織貢献を貴社の考え・組織状況に応じて評価割合を調整しながら評価プロセスをブラッシュアップ。
・評価結果だけでなく「どのように評価したか」のプロセスをオープンにし、社員が納得できる仕組みを作る。
給与テーブル・インセンティブの設計 ★★★☆☆
・社外の給与データを活用し、業界水準や市場価値と乖離しない給与テーブルを策定。
・成長企業であるからこそ、ストックオプションやインセンティブプランを上手に活用し、「企業の将来性」と「社員の成長」を結びつける。
・報酬の考え方(例:スキルや役割に応じたグレード制、実績に応じた成果報酬制など)を明文化し、社内に説明する。
フィードバック面談の強化 ★★★★☆
・評価を一方的に通知するのではなく、1on1や評価面談を通じて本人の成長課題やキャリアパスをじっくり話し合う。
・マネージャーに対しても「フィードバックの質を高めるトレーニング」を施し、社員が納得・共感しやすい評価文化を根付かせる。
特に1,2については、すでにこのフェーズだと制度として存在しているケースも多くあると思いますが、組織規模に合わせたメンテナンスを行う意味で、見直すには最適のタイミングです。
また、組織の急拡大により、今まで組織にいなかったような新しい人材の採用も増えることでしょう。そういった際の採用活動における武器にもなり得ますし、今まで組織を支えてくれた既存メンバーと、新しい未来の仲間を繋ぐツールになります。
ぜひこのタイミングでの見直しをおすすめします。
労務・コンプライアンス
規模拡大に伴うリスク増大と現場の負担
社員数が増えると、その分だけ「労働時間管理」「社会保険手続き」「休職・復職対応」「ハラスメント防止」などの労務リスクが増大します。とくにレイターフェーズでは、IPOやM&Aに向けた監査で、労務・コンプライアンスの不備を指摘されると大きな痛手になります。現場からは、「日常業務が忙しくて勤怠の詳細管理まではフォローできない」「ルールはあるが実態が分からず、ブラックボックス化している」という声も上がりがちです。
シリーズC・D期では、社員数の増加とIPO準備が進む中で、労務管理の重要性が高まります。このフェーズで労務管理を強化しないと、以下のような問題が発生します。
課題 | 発生するリスク |
労働時間管理が甘い | 未払い残業、訴訟リスク |
社内規程の未整備 | IPO準備時に監査で指摘を受けることによるIPOスケジュールの遅延 |
ハラスメントリスク | 企業の評判悪化、採用力低下 |
内部統制の不備 | 経営陣の責任問題に発展 |
必須の人事機能と打ち手のポイント

勤怠管理・労働時間マネジメントの徹底★★★★★
・オンライン勤怠システムを導入し、打刻漏れ・過剰残業などを早期に発見・是正。
・「深夜残業や休日出勤が多い部署」のレポートを定期的に確認し、必要があれば業務フロー改善まで踏み込む。
ハラスメント防止・内部通報体制の整備★★★★☆
・社員数が増えると、セクハラやパワハラの発生率が高まる可能性があるため、相談窓口を設置。
・外部の弁護士や社労士と連携し、問題が起きた際の対処フローを明確にしておく。
・社員が安心して相談できる仕組みづくりが、組織の信頼感を高める。
監査・IPO準備対応★★★★☆
・上場を目指す場合、労務面の整備は監査法人や投資家から厳しくチェックされる。
・就業規則や諸規程を最新の労働法に合わせてアップデートし、不備がないかを定期的に点検する。
・内部統制の観点からも、証跡(ログなど)の管理や承認フローの見直しが重要。
レイターフェーズの企業は、「今後もさらなる成長を追求する攻めのフェーズ」であると同時に、「既存組織を安定化させ、IPO準備やグローバル展開を視野に入れる守りのフェーズ」でもあります。そのため、採用や組織開発の“攻め”に力を入れつつ、労務・コンプライアンスの“守り”もおろそかにできないのです。
この4つの人事機能をバランスよく整備することで、急拡大期の混乱を最小限に抑え、社員が安心してパフォーマンスを発揮できる環境を築くことができます。結果として、組織は「量(人数)」と「質(スキル・カルチャー・制度)」の両面でスケールアップし、シリーズC・Dというチャレンジングなフェーズを乗り越える基盤が整うのです。
次の章では、これらの人事機能を「いかに組織化し、運用していくか」について、さらに深堀りしていきます。
人事の組織化が必要な理由
シリーズC・D、レイターフェーズでは、事業の成長スピードとともに 「組織の急拡大」「マネジメント層の増加」「人事課題の多様化」 といった要素が同時に襲いかかります。これらを単なる“属人的な努力”で乗り越えるには限界があります。ここでは、「なぜ人事の組織化が不可欠なのか」を、実際に現場で起こりがちな課題から深堀りしていきます。
属人的な人事運営が引き起こす混乱
採用が“いつの間にか”現場任せに
レイターフェーズにおいて、採用は「量と質」を両立しながら高速で行う必要があります。しかし、事業部ごとに急成長の必要性が迫られると、「営業部門は営業部門の基準で採用したい」「開発部門はエンジニアにしか分からないスキル基準で進めたい」という風に、採用プロセスがバラバラになりがちです。
結果として、人事が採用の全体像を把握できず、 「あの部署はとりあえず人を取りまくっているけど、本当に必要なスキルセットなのか?」 と後から疑念を抱くケースも。属人的な採用運営のままだと、企業全体のリソース配分が不透明になり、無駄なコストとミスマッチが増加します。
評価・報酬制度が場当たり的に決まる
「優秀な社員の離職を防ぐために、急いで給与を上げる」「A部署で不満が出たから、その場しのぎで報酬体系を見直す」といった形で対応していると、“同じ会社なのに部署ごとに評価ルールが違う” といった事態が発生することも珍しくありません。社員同士で比較が起こり、「私の部署は全然昇給しないのに、あの部署は一気に給与が上がるらしい…」という不公平感が募れば、モチベーションの低下や離職につながります。
マネージャーや経営陣に“人事タスク”がのしかかる
スタートアップ初期は、CEOや現場リーダーが採用・評価・労務を兼務していても回るかもしれません。しかしレイターフェーズで社員数が100名、200名、300名と増えてくると、「採用面談に多くの時間を取られ、意思決定や事業戦略に集中できない」「労務トラブルの対応に翻弄され、マネジメントがおろそかになる」といった問題が顕在化します。経営陣やマネージャーたちが本来の職務で力を発揮できなくなるのです。
組織としての人事機能を整備するメリット
採用・配置の全体最適化が可能になる
人事が組織として機能するようになると、「経営戦略」「事業部の人材ニーズ」「現場のリアルな声」を一元的に管理し、採用計画や配置戦略を設計できます。
例えば、毎月の採用会議で経営層・事業部責任者・人事が集まり、「今後3ヶ月でエンジニアを10名増やす」「そのうち3名はインフラ系が必須」といった具体的な要件を共有。進捗や課題を可視化することで、追加リソース(採用予算やリファラル施策など)を適切なタイミングで投入できます。
このように、全社レベルで採用目標や配置方針を合意形成できるため、属人化や無駄なバラつきが大幅に減り、採用効率が向上します。
公正かつ納得感の高い評価・報酬制度を実現
人事の組織化が進むと、評価・報酬ポリシーを全社に対して明確に発信できるようになります。
例えば、エンジニアや営業など各職種の専門性と成果を、評価軸として整理し、「どのように評価し、どのように給与に反映されるのか」を定義。社内でしっかり周知し、面談や1on1でフィードバックする仕組みを整えられます。
制度やルールに一貫性が生まれるため、社員は「この会社はどう評価して、どう報酬を決めているのか」を理解しやすくなり、モチベーションの維持・向上にもつながります。
マネジメント層の負担軽減と生産性向上
「人事機能」を専門組織として確立することで、採用や労務トラブル対応などを任せられるようになります。すると、経営陣やマネージャーは、本来の業務である“事業戦略”や“チームビルディング” に集中できます。
一方、人事部門は人材データや社内のエンゲージメント情報をもとに、具体的な「人材育成策」「離職防止策」「組織開発施策」を立案し、マネジメント層と連携しながら実行していく。こうした*分業と協業”の体制が整うことで、組織全体のパフォーマンスが高まります。
現場のリアルな声:人事組織化に踏み切った結果
事例①:急拡大するベンチャーS社
S社はシリーズCで大規模資金調達を行い、開発・営業ともに大幅な増員が必要になりました。当初は各事業部長がそれぞれ採用活動を進めていたため、候補者との面接日程がカブったり、合否基準が曖昧だったりと混乱が続出。
そこでS社は、採用担当・制度設計担当・労務担当をまとめた“人事組織”を新たに発足。各部署が欲しい人材スペックを明確化し、リクルーターが一元的に進捗管理する体制を整えました。その結果、採用のスピードと品質が向上し、経営陣は事業戦略の立案に集中できるようになった事案です。
事例②:上場準備中のテック企業T社
T社はIPO準備で監査法人のチェックを受け始めた段階で、労務リスクや社内規程の不整備を厳しく指摘されました。人事関連のドキュメントが各部署に散らばっており、就業規則やコンプライアンスマニュアルもバラバラ。
T社は急遽、労務・コンプライアンスに強い人材をリーダーとして迎え入れ、“法務+人事” の横断チームを組成。ルール整備や労務管理システムの導入を一気に進めたところ、IPO前の最終監査での指摘事項が激減し、経営陣からも高い評価を得る結果になりました。
「人事の組織化」がもたらす未来
経営と組織をつなぐ“戦略人事”への進化
人事部門が単なる「採用担当」「労務担当」ではなく、経営視点から組織の未来を描き、実行できるようになると、企業は真の意味で強固な成長軌道に乗ります。レイターフェーズの人事には、データ分析や人材ポートフォリオの設計といった“戦略的なアプローチ”が求められますが、その実行には「人事組織の確立」が不可欠です。
IPO準備も並行する場合、IPO後の人的資本活用のための下準備として今から動き出すことが求められます。
現場の声に応える“信頼される人事”として
従業員が増えれば増えるほど、組織にはさまざまな声が集まります。「給与の不満」「キャリアパスへの不安」「マネージャーとの衝突」など、人と組織がいる限り問題は尽きません。
しかし、人事部門がしっかりと組織化されていれば、「相談窓口」「研修プログラム」「評価制度の見直し」など、多面的なアクションを打てるようになります。現場からも「この会社はちゃんと人を大事にしてくれる」という信頼感が生まれ、結果として離職率の低下やエンゲージメントの向上につながるでしょう。
人事人材の選び方
シリーズC・D、レイターフェーズにおいては、企業成長の加速とともに採用規模や評価制度の複雑化、労務リスクの増大など、多岐にわたる人事課題が一気に表面化します。こうした課題に対応するためには、「単なるオペレーション担当ではなく、戦略的な視点と専門性を併せ持った人事人材」が必要です。ここでは、現場で起こりがちな場面を交えながら、「どういう人材を選ぶべきか」を深堀りして解説します。
レイターフェーズで求められる人事人材の特徴

1) 経営視点と現場視点の“両軸”を持っている
レイターフェーズの人事人材は、「経営戦略を理解し、数値やデータをもとに人事施策を設計する力」と、「現場のリアルな声を拾い、泥臭い業務もいとわず遂行する力」の両軸が求められます。
【人事人材の動き例】
採用計画を立案する際、 「いつまでに何名が必要で、それに合わせて予算やチャネルをどう組み立てるか」 を経営陣とすり合わせながら考えつつ、実際に面接やスカウトに携わって候補者と直接対話する感覚も常に必要。
2) データ分析やプロジェクト管理に強い
「どの部署で離職が多いのか」「エンゲージメントサーベイの結果がどう推移しているか」「採用コストはどれくらいか」といった情報を定量的に分析し、その結果を経営陣にわかりやすく説明できる能力が重要になります。
【人事人材の動き例】
採用KPI(応募数、面談数、内定数、内定承諾率など)をダッシュボード化し、週次・月次で全社に共有。これにより、意思決定のスピードが格段に上がり、部門ごとのズレやミスマッチを早期に発見できる。
3) 高いコミュニケーション能力と利害調整スキル
シリーズC・D期になると、組織は30~50名規模から一気に100~300名以上に拡大し、関係者やステークホルダーも激増します。各部門や経営層の意見をすり合わせ、納得感を得ながら施策を進めるためには、合意形成とファシリテーション能力が必須です。
【人事人材の動き例】
評価制度を刷新するプロジェクトで、経営陣・各部門長・現場リーダーなど多彩なメンバーを巻き込み、ワークショップ形式で要件をまとめあげていく。反発や不安が出た際には、丁寧なヒアリングとデータを交えた説明で説得し、合意を取り付ける。
強化すべき人事機能の把握と人事人材の検討のポイント
ポジションとスキル要件の明確化

まずは自社の組織フェーズや優先課題を洗い出し、「採用リーダー(TA:Talent Acquisition)」「組織開発リーダー(OD:Organization Development)」「評価報酬設計(C&B:Compensation&Benefit)」「労務コンプライアンス強化(HR Ops:Human Resource Operations)」など、どの専門領域で人材を補強すべきかを明確にしましょう。
【検討例】
・直近ではエンジニア採用を大量に進めたい → 中途採用市場に詳しい・強い人材が最優先
・IPO準備に向けた、労務・ガバナンスに強い人材を早期に確保することが優先
など、最終的に複数名の人事ポジションが必要になるケースもあります。
レイターフェーズの企業にとって、人事組織を支える人材の質は、そのまま 「組織全体の成長スピードと質」 に直結します。採用や労務など急務のオペレーションを回しつつ、経営視点で組織全体をデザインできる人事人材をどう確保し、どう育成するかが鍵になります。
人事チームは“単なるサポート部門”を超えて 「企業の成長エンジン」 へと進化するポテンシャルをはらんでいるのです。次に続く章では、さらに 外部サービスの活用方法 について詳しく見ていきましょう。
外部サービスの活用
シリーズC・D、レイターフェーズでは、「すべてを内製で賄うには人事リソースが足りない」「より専門的なノウハウやネットワークが必要」といった状況が一気に顕在化します。採用・組織開発・労務など、人事領域は幅広く、かつ深い専門性を要する業務が多いため、適切な外部サービスを活用することが成長を加速するカギになります。ここでは、現場で起こりがちな課題を交えながら、具体的な外部サービスの利用シーンと活用ポイントを深掘りして解説します。
なぜこのタイミングで、外部サービスの活用が重要なのか
内製リソース不足と業務過多
シリーズC・Dの企業が直面する人事課題は、「採用人数を数倍に増やす」「評価制度を早期に再設計する」「IPOや監査対応で労務周りの整備を急ぐ」など、短期間に同時並行で多数のプロジェクトを走らせるケースが多いです。しかし、人事部門の人数は限られており、既存メンバーだけでは各領域を網羅しきれないという声がよく聞かれます。
【よくあるケース】
「50名の大量採用面接、給与テーブルの見直し、労務トラブル対応」が同時期に重なり、マネージャーは毎日終電…。社員のケアもままならず、さらなる離職リスクを生み出してしまう。
専門性と経験値の不足
レイターフェーズ特有の課題(ハイレイヤー採用、グローバル展開、ストックオプション制度設計、監査対応など)は、ベンチャー経験が浅い人事メンバーや少人数の内製チームではノウハウが追いつかない場合があります。
【よくあるケース】
評価制度刷新にあたり、エンジニアの職種別レベル設計や報酬レンジの設定が必要になったが、過去にその経験を持つ社内メンバーがいないため、制度検討が一向に進まない。
スピード感と競争力の確保
資金調達のニュースが出た瞬間から、業界内の優秀な人材の獲得競争はさらに激化します。スピードを落としている余裕がない中で、外部の知見やネットワークを駆使して、短期的に成果を出す必要があるのです。
活用できる外部サービスの種類とシーン
下記に外部サービスの一例をまとめます。
なお、どの課題が重たいのかを整理してから検討を進めるとスムーズです。
・戦略課題が重たい(自社に戦略人事がいない)
・戦術課題が重たい(やるべきことは見えているもののどのように進めればいいかノウハウがない)
・リソース課題が重たい(本来は戦略人事として牽引できる人材がいるが考える余白がない・戦術は指示が出せる)
優先度をつけるとしたら、どの課題解決ににお金をかけるべきか?ということを念頭に、読み進めていただけると良いと思います。
1) 採用領域(RPO、エージェント、ダイレクトリクルーティング支援など)
◾️RPO(Recruitment Process Outsourcing)
シーン①戦略課題「採用目標・手法があっているかわからない」
採用戦略も見直しが必要だが、実務も止められないので戦略基軸でフォローアップしてくれるコンサルティングバックグラウンドのRPO(採用代行)に戦略から実務まで支援してほしい
シーン②戦術課題「チャネルがうまく活用できているかわからない」
組織成長ドライバーとなる採用活動において、変化する市場をいち早くキャッチアップし採用活用を進化させるための外部パートナーとしての採用代行(RPO)会社に、最新情報の提供とそれを反映した戦術起案をしてほしい
シーン③リソース課題「手が足りない」
大量採用が必要だが、社内の採用担当が不足。面接日程調整や候補者とのやり取りに忙殺されているのでオペレーションを着実にまわしたい。
活用メリット
・戦略策定から実務までの一貫した支援が可能
・最新の市場情報に基づいた採用戦略・戦術の提案ができる
・面接日程調整や候補者対応などの業務効率化
注意点
・自社の企業文化や採用要件をRPO企業と十分に共有する必要がある
・RPO企業の過去の実績や得意とする業界を確認する必要がある
◾️ハイクラス特化型エージェント
シーン
経営幹部やCxOクラス、スペシャリストの採用で市場に出回っていない優秀人材を探す必要がある
活用メリット
独自のネットワークを持つエージェントが、潜在候補者へダイレクトにアプローチ。短期間で候補者リストを拡充できる
注意点
成功報酬が高額になりがちなので、採用したいポジションや役割を明確にし、料金体系をきちんと理解しておく
◾️ダイレクトリクルーティング支援
シーン
LinkedInやSNSを使って自社で候補者にアプローチしたいが、ノウハウや工数が足りない
活用メリット
スカウト文章のテンプレ作成やターゲット選定をプロに任せることで、反応率を高める。社内リソースを最小限に抑えつつ、採用チャンネルを拡大できる
2) 組織開発・人材育成領域(コーチング、研修、コンサルティングなど)
◾️マネージャーコーチングサービス
シーン
新任マネージャーが増え、1on1スキルやチームビルディングのノウハウが不足。現場での指導が追いつかない
活用メリット
外部コーチがリーダーやマネージャーと定期的に対話し、具体的な課題に合わせたアドバイスやフィードバックを行う。結果として、マネジメント力が底上げされ、チームの生産性が向上
注意点
コーチの質や相性が大きく影響するため、事前にトライアルや実績確認を行う
◾️エンゲージメントサーベイ+コンサルティング
シーン
社員数が増え、部署間の温度差や離職リスクが高まっているが、どこに問題があるか分からない
活用メリット
定量データ(サーベイ結果)と定性情報(ヒアリング)を組み合わせ、組織課題を可視化・分析。外部の客観的視点から改善策を提案してもらえる
注意点
サーベイ結果を見て終わりにせず、社内でアクションプランを設計・実行する体制づくりが重要
3) 評価・報酬制度領域(C&Bコンサルティング、給与データベンチマークなど)
◾️評価・報酬制度コンサルティング
シーン
フェーズが進み、既存の評価基準や給与テーブルがバラバラ。社員から不満の声が増え始めた
活用メリット
給与レンジ設計やインセンティブプラン、ストックオプション制度の導入など、専門家のノウハウを取り入れてスピード感を持って整備できる
注意点
社内に合わない制度をそのまま導入すると混乱を招くため、カスタマイズと社内浸透施策をセットで考える必要がある
◾️市場給与データの取得
シーン
ハイクラス採用や競合他社との給与比較に苦戦。適正な報酬水準を知りたいが、情報が断片的
活用メリット
外部サービス(MercerやLazuliなど)から市場データを取得し、自社の報酬水準と比較することで、人材流出リスクを把握できる。報酬設計の説得材料としても有用
注意点
取得したデータをどう分析・活用するかがカギ。単に数字を並べるだけでなく、社内の等級やスキル要件に合わせて解釈する必要がある
4) 労務・コンプライアンス(社労士、労務管理システム、IPO支援コンサルなど)
◾️社労士・労務顧問サービス
シーン
社員数の増加に伴い、給与計算・社会保険手続き・労基法対応にリソースが割かれすぎている
活用メリット
専門家にアウトソースすることで、正確かつ効率的に手続きを進められる。労務トラブルが起こった際に相談できる体制を築ける
注意点
自社の組織・就業規則をしっかり理解してもらうために、契約開始時のすり合わせが重要
◾️労務管理システム(SmartHR、ジョブカンなど)
シーン
勤怠管理や有給管理がアナログで、未払い残業リスクや監査リスクが増大。上場準備を見据えると早急に整備したい
活用メリット
勤怠データや人事情報を一元管理し、月次や四半期ごとに労働時間をモニタリングできる。エンジニアとのAPI連携で追加機能も拡張可能
注意点
システム導入しても、現場で運用が定着しなければ意味がない。従業員への教育や運用ルールの明確化も同時に行う
◾️IPO支援コンサルティング
シーン
IPO監査で労務や内部統制が不十分と指摘を受けて困っている
活用メリット
監査法人とのやり取りやガバナンス体制の整備など、レイターフェーズ特有の課題に精通しているコンサルタントに任せることで、経営陣の負担を減らし、短期的に問題を解消できる
注意点
対策ばかりに目が行き、長期的な運用や社内の自走力育成がおろそかになると、上場後に再びトラブルが起こる可能性がある
外部サービス導入の際のポイント
さまざまなサービスがあるので、導入するために検討すべきことを整理しておくことをお勧めします。
目的を明確化する
「採用効率を高めるためか?」「制度設計の専門知識を取り入れるためか?」「短期的にリソースを補うためか?」など、外部サービスを活用する目的と期待成果を社内で共有する。
パートナーとしての信頼関係を構築
「単なる外注」ではなく、“自社の課題を理解し、一緒に解決してくれるパートナー” として位置づける。定期的なミーティングや進捗管理を行い、柔軟に対応できる連携体制を築く。
社内メンバーへの情報展開とナレッジ共有
外部が得た情報やノウハウを、社内に蓄積・共有する仕組みを作る。プロジェクトが終わって外部サービスが撤退したあとも、社内の人事チームが成果を引き継げることが重要。
費用対効果の検証とアップデート
外部サービスにかかるコストは決して安くはない。導入後、KPIや目標を定義し、定期的に費用対効果を振り返ることで、必要に応じて別のサービスへの切り替えや、内製化への移行を検討する。
まとめ
レイターフェーズの人事責任者は、「社内に足りないピースをいかに素早く外部で補い、組織としての成長スピードを落とさないか」 という観点を常に意識する必要があります。

弊社は「組織フェーズごとに応じた人事機能のハンズオン支援」とそのために活用すべき世の中の人事サービス選定に強みがあります。
・プロ人事人材:1500名を超える人事人材とのネットワーク
・RPO会社:100社を超えるRPO会社とのパイプ
・求人媒体:20以上の媒体社とのパイプ
・エージェント:1200以上のエージェントとのパイプ
を保持しており、自社で「すごい人事コンサルティング」を提供しながらハンズオンで成長組織の人事課題の支援を行っております。
大切なのは、外部サービスに頼りきりにならず、社内にノウハウと体制を蓄積する仕組みを同時につくることです。弊社では、外部と協業しながら自社の人事組織を強化し、人事チームが自走できる状態へと進化させることを目指すご支援が可能です。
「そもそも何から着手すべきかわからない」「今の組織において必要な人事機能がわからない」「最適な人事サービスがわからない」といったお悩みを業界10年以上のコンサルタントが共に解決しますので、もしお困りでしたらお気軽にまずは無料相談からお問合せください。
「すごい人事」情報局運営元:株式会社Crepe
Crepeでは、「人事が変われば、組織が変わる」というコンセプトのもと、⚫︎各種業界1300名の人事が在籍。工数・知見を補う「即戦力」レンタルプロ人事マッチングサービス
⚫︎1日2時間〜使えるマネージャークラスのレンタル採用チーム。オンライン採用代行RPOサービス
⚫︎人事にまつわる課題を解決へ導く、伴走型人事コンサルティングサービス
などのサービスを通して、人事課題を解決する支援を行っています。