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30414とは?人的資本に関するガイドライン徹底解説
近年、企業経営において「人的資本」への注目が急速に高まっています。従来の財務指標だけでは測れない企業価値の源泉として、従業員のスキル、知識、経験といった無形資産が重要視されるようになりました。この流れの中で、人的資本の情報開示に関する国際的なガイドラインとして策定されたのが「ISO 30414」です。
ISO 30414は、2018年12月に国際標準化機構(ISO)によって発表された、世界初の人的資本情報開示に関する国際規格です。この規格は、企業が内外のステークホルダーに対して人的資本に関する情報を体系的かつ透明性をもって開示するための指針を提供しています。
特に日本では、2023年3月決算以降、有価証券報告書を発行している約4,000社を対象に人的資本の情報開示が義務化されており、ISO 30414への関心はますます高まっています。本記事では、ISO 30414の基本概念から開示項目の詳細、認証取得方法、導入企業例まで、包括的に解説していきます。
ISO 30414とは何か
基本的な定義と背景
ISO 30414(正式名称:ISO 30414:2018 Human resource management — Guidelines for internal and external human capital reporting)は、国際標準化機構(ISO)が制定した人的資本の情報開示に関する世界初の国際規格です。この規格は、組織が内部および外部のステークホルダーに対して人的資本に関する報告を行う際の指針を定めています。
人的資本とは、従業員が持つ知識、技能、能力、経験などを資本として捉える概念です。従来の財務会計では、人件費は「コスト」として扱われてきましたが、人的資本の考え方では、人材への投資は将来の収益を生み出す「資本」として位置づけられます。この概念の転換により、企業は人材をより戦略的に管理し、投資対効果を測定することが可能になります。
ISO 30414が策定された背景には、グローバル化とデジタル化の進展により、企業価値の源泉が有形資産から無形資産へとシフトしていることがあります。現代の企業価値の約80%は無形資産が占めており、その中でも人的資本は最も重要な要素の一つとされています。
また、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大も大きな要因です。投資家は財務情報だけでなく、企業の持続可能性を評価する指標として人的資本の状況を重視するようになりました。このような市場の要求に応えるため、企業には人的資本に関する透明性の高い情報開示が求められるようになったのです。
策定された目的と意義
ISO 30414の主要な目的は、人的資本に関する情報開示の標準化と透明性の向上です。具体的には以下の目的があります。
第一に、組織内外のステークホルダーに対する透明性の確保です。投資家、従業員、顧客、地域社会などの様々なステークホルダーが、企業の人的資本の状況を客観的に評価できるようになります。これにより、企業への信頼性が向上し、長期的な関係構築が促進されます。
第二に、人的資本投資の効果測定と改善です。ISO 30414に基づく指標を活用することで、企業は人材への投資がどの程度の効果を生んでいるかを定量的に把握できます。これにより、より効果的な人材戦略の策定と実行が可能になります。
第三に、国際的な比較可能性の確保です。統一された基準に基づく情報開示により、異なる国や業界の企業間での人的資本の比較が可能になります。これは、グローバル企業にとって特に重要な意義を持ちます。
第四に、人材マネジメントの高度化です。ISO 30414の指標を活用することで、企業は人材マネジメントをより戦略的かつ科学的に行うことができるようになります。データに基づく意思決定により、人材の採用、育成、配置、評価などの各プロセスが最適化されます。
さらに、ISO 30414は企業の競争力向上にも寄与します。優秀な人材の獲得と定着は企業の持続的成長に不可欠ですが、透明性の高い人的資本情報の開示は、求職者にとって魅力的な企業として認知される要因となります。また、従業員エンゲージメントの向上にも効果があり、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
ISO 30414の開示11項目詳細解説

11領域58指標の全体像
ISO 30414は、人的資本に関する情報を11の領域に分類し、合計58の指標を定めています。これらの指標は、企業の人的資本の状況を多角的かつ包括的に評価するために設計されており、内部管理用と外部開示用に分けられています。外部開示が推奨される指標は24項目で、残りの指標は社内での適切な管理が行われれば十分とされています。
11の領域は以下の通りです。
1. コンプライアンスと倫理
2. コスト
3. ダイバーシティ
4. リーダーシップ
5. 組織文化
6. 組織の健康・安全・ウェルビーイング
7. 生産性
8. 採用・異動・離職
9. スキルと能力
10. 後継者育成
11. 労働力の可用性
これらの領域は相互に関連し合い、企業の人的資本の全体像を形成しています。各領域の指標を総合的に分析することで、企業は人材戦略の効果を測定し、改善点を特定することができます。
各項目の具体的内容
1. コンプライアンスと倫理
この領域は、組織の倫理的な行動と法的コンプライアンスの状況を測定します[12]。主要な指標には、倫理・コンプライアンス研修を受けた従業員の割合、第三者に解決を委ねられた紛争の件数、外部監査で指摘された事項の数などが含まれます。
企業の持続可能性において、倫理的な経営は基盤となる要素です。この領域の指標は、企業が社会的責任を果たし、ステークホルダーからの信頼を維持できているかを示します。特に、ハラスメントや差別に関する苦情処理の状況は、職場環境の健全性を表す重要な指標となります。
2. コスト
人的資本に関するコストの測定と管理は、経営効率の観点から重要です[13]。この領域では、総人件費、採用コスト、研修・開発費用、離職に伴うコストなどが測定されます。
単純にコストを削減するのではなく、投資対効果の観点から人的資本への投資を評価することが重要です。例えば、研修費用の増加が従業員のスキル向上と生産性の向上につながっているかを分析することで、効果的な人材投資戦略を策定できます。
3. ダイバーシティ
多様性は現代企業の競争力の源泉として認識されています[14]。この領域では、年齢、性別、民族、障害の有無などの観点から組織の多様性を測定します。管理職における女性比率、多様な背景を持つ従業員の割合、インクルージョンに関する取り組みの効果などが主要な指標となります。
ダイバーシティの推進は、イノベーションの創出、意思決定の質の向上、市場理解の深化などの効果をもたらします。また、優秀な人材の獲得と定着にも寄与し、企業の持続的成長を支える重要な要素となっています。
4. リーダーシップ
組織の成功において、効果的なリーダーシップは不可欠です[15]。この領域では、リーダーシップ開発プログラムの実施状況、リーダーの信頼度、リーダーシップの有効性などが測定されます。
リーダーシップの質は、従業員エンゲージメント、組織パフォーマンス、変革の推進力に直接的な影響を与えます。定期的なリーダーシップ評価と開発プログラムの実施により、組織全体の競争力を向上させることができます。
5. 組織文化
組織文化は企業の DNA とも言える重要な要素です[16]。この領域では、従業員エンゲージメント、組織への帰属意識、価値観の共有度、文化変革の進捗などが測定されます。
強固で健全な組織文化は、従業員のモチベーション向上、離職率の低下、顧客満足度の向上などの効果をもたらします。また、変化の激しいビジネス環境において、組織の適応力と回復力を高める重要な要因となります。
6. 組織の健康・安全・ウェルビーイング
従業員の健康と安全は、企業の社会的責任の基本であり、生産性にも直接的な影響を与えます[17]。この領域では、労働災害の発生率、病気休暇の取得状況、メンタルヘルスサポートの提供状況、ワークライフバランスの実現度などが測定されます。
特に近年は、メンタルヘルスの重要性が高まっており、ストレス管理やバーンアウト防止の取り組みが注目されています。従業員のウェルビーイングの向上は、創造性の発揮、チームワークの向上、長期的な組織コミットメントの強化につながります。
7. 生産性
人的資本の投資効果を測定する上で、生産性は最も重要な指標の一つです[18]。この領域では、従業員一人当たりの売上高、利益率、付加価値の創出、効率性の改善などが測定されます。
生産性の向上は、単純な作業効率の改善だけでなく、イノベーションの創出、プロセスの最適化、技術の活用などの多面的なアプローチが必要です。人材育成と技術投資の組み合わせにより、持続的な生産性向上を実現できます。
8. 採用・異動・離職
人材の流動性は組織の活力と成長に大きな影響を与えます[19]。この領域では、採用率、内部昇進率、離職率、定着率、採用の質などが測定されます。
適切な人材の採用と定着は、組織の競争力維持に不可欠です。特に、優秀な人材の離職は大きな損失となるため、離職の原因分析と改善策の実施が重要です。また、内部人材の育成と昇進機会の提供により、従業員のキャリア発展を支援することも重要な要素となります。
9. スキルと能力
急速に変化するビジネス環境において、従業員のスキルと能力の継続的な向上は企業の生存に関わる重要な課題です。この領域では、研修時間、スキル評価、能力開発プログラムの効果、デジタルスキルの習得状況などが測定されます。
特に、デジタル変革の時代において、従業員のデジタルリテラシーの向上は急務となっています。継続的な学習機会の提供と、個人の成長目標と組織の戦略目標の整合性を図ることが重要です。
10. 後継者育成
組織の持続性を確保するためには、効果的な後継者育成が不可欠です。この領域では、後継者計画の策定状況、キーポジションの後継者準備率、リーダーシップパイプラインの充実度などが測定されます。
特に、重要なポジションにおける後継者の準備は、事業継続性の観点から極めて重要です。計画的な人材育成と経験機会の提供により、将来のリーダーを育成することが求められます。
11. 労働力の可用性
組織が必要とする人材を適切なタイミングで確保できるかは、事業運営の基盤となります。この領域では、人材の充足率、スキルギャップの状況、労働力の柔軟性、外部人材の活用状況などが測定されます。
労働市場の変化や事業環境の変動に対応するため、内部人材の育成と外部人材の戦略的活用のバランスを取ることが重要です。また、将来の人材需要を予測し、計画的な人材確保戦略を策定することが求められます。
ISO 30414の認証取得方法
認証機関と取得プロセス
ISO 30414の認証取得は、他のISO規格とは異なる特徴を持っています。日本国内では、株式会社HCプロデュースが唯一の認証機関として機能しており、同社を通じて認証を取得する必要があります。これは、ISO 30414がガイドライン規格であり、ISO 9001やISO 14001のような認証システム規格とは性質が異なるためです。

認証取得のプロセスは以下のステップで構成されています。
ステップ1:現状把握と準備 まず、企業は自社の人的資本に関するデータの現状を把握し、ISO 30414の要求事項との差異を分析します。この段階では、必要なデータの特定、データ収集システムの評価、組織体制の確認などが行われます。多くの企業では、人事データが分散して管理されているため、統合的なデータ管理システムの構築が必要となる場合があります。
ステップ2:データ収集システムの構築 ISO 30414の58指標に対応するデータを継続的に収集・管理するためのシステムを構築します。これには、既存のHRISシステムの改修、新たなデータ収集プロセスの設計、データの品質管理体制の確立などが含まれます。データの正確性と一貫性を確保することが、認証取得の重要な要件となります。
ステップ3:人材戦略との整合性確保 ISO 30414の認証では、単にデータを収集・開示するだけでなく、それらの指標が企業の経営戦略や人材戦略と整合していることが求められます。企業は、自社の戦略目標と人的資本指標の関連性を明確にし、指標の改善が事業成果にどのように貢献するかを説明できる必要があります。
ステップ4:内部レポートの作成 収集したデータを基に、内部管理用のレポートを作成します。このレポートは、経営陣が人的資本の状況を把握し、戦略的な意思決定を行うためのツールとして機能します。レポートには、各指標の現状値、目標値、改善計画などが含まれます。
ステップ5:外部開示資料の準備 ステークホルダーに向けた外部開示用の資料を準備します。これには、ヒューマンキャピタルレポートや統合報告書の人的資本セクションなどが含まれます。外部開示では、24の推奨指標を中心に、企業の人的資本の状況と戦略を分かりやすく説明することが重要です。
ステップ6:審査の実施 HCプロデュースによる審査が実施されます。審査では、データの正確性、収集プロセスの適切性、戦略との整合性、開示内容の妥当性などが評価されます。審査は書面審査と現地審査の両方が行われ、必要に応じて追加の資料提出や改善が求められる場合があります。
ステップ7:認証の取得 審査に合格すると、ISO 30414の認証が付与されます。認証は一定期間有効であり、継続的な改善と定期的な更新審査が必要となります。
必要な準備と費用
ISO 30414の認証取得には、十分な準備期間と投資が必要です。一般的に、認証取得までには6ヶ月から1年程度の期間が必要とされています。
組織体制の整備
認証取得には、トップマネジメントの強いコミットメントが不可欠です。経営陣が人的資本経営の重要性を理解し、組織全体での取り組みを推進する必要があります。また、人事部門だけでなく、IT部門、経営企画部門、財務部門などの横断的な協力体制を構築することが重要です。
プロジェクトチームには、ISO 30414の専門知識を持つメンバーを含めることが推奨されます。そのため、多くの企業では外部コンサルタントの支援を受けるか、社内メンバーに専門研修を受講させています。
システム投資
データ収集と管理のためのシステム投資も重要な要素です。既存のHRISシステムの機能拡張や、新たなデータ分析ツールの導入が必要となる場合があります。システム投資の規模は企業の規模や既存システムの状況により大きく異なりますが、数百万円から数千万円の投資が必要となることが一般的です。
人材育成投資
ISO 30414の効果的な活用には、関連する人材のスキル向上が必要です。データ分析スキル、人的資本経営の知識、レポーティングスキルなどの向上に投資することで、認証取得後の継続的な改善が可能になります。
認証費用
認証機関への支払い費用は、企業の規模や複雑さにより異なりますが、一般的には数百万円程度が必要とされています。この費用には、審査費用、認証書発行費用、継続的な監査費用などが含まれます。
コンサルティング費用
多くの企業では、認証取得の効率化と成功確率の向上のため、専門コンサルタントの支援を受けています。コンサルティング費用は、支援の範囲や期間により異なりますが、数百万円から数千万円の投資が一般的です。
ROI(投資対効果)の考慮
ISO 30414の認証取得には相応の投資が必要ですが、その効果は多面的です。人材マネジメントの高度化、従業員エンゲージメントの向上、投資家からの評価向上、優秀な人材の獲得などの効果により、中長期的には投資を上回るリターンが期待できます。
特に、上場企業や海外展開を行う企業にとっては、ステークホルダーからの信頼向上や競争優位性の確保という観点から、投資価値は高いと考えられます。また、人的資本経営の推進により、組織全体のパフォーマンス向上が実現できれば、認証取得費用を大きく上回る効果を得ることが可能です。
導入企業例と成功事例
海外企業の事例
ドイツ銀行グループ(DWS)
世界で初めてISO 30414の認証を取得したのは、ドイツ銀行グループのアセットマネジメント会社であるDWSです。同社は2021年に認証を取得し、人的資本情報開示のパイオニアとしての地位を確立しました。
DWSの取り組みの特徴は、人的資本指標を投資戦略と直接的に結びつけている点です。同社は、従業員のスキルと能力が投資パフォーマンスに与える影響を定量的に分析し、人材育成投資の効果を明確に示しています。特に、ESG投資の専門性向上に向けた研修プログラムの効果測定では、研修受講者の投資成果が未受講者を上回る結果を示し、人的資本投資の価値を実証しました。
また、DWSは多様性の推進にも積極的に取り組んでおり、女性管理職比率の向上、多国籍チームの編成、インクルーシブな職場環境の構築などの取り組みを通じて、イノベーション創出力の向上を実現しています。これらの取り組みの効果は、ISO 30414の指標を通じて継続的に測定・改善されています。
サムスン電子
韓国のサムスン電子も、ISO 30414に準拠した人的資本情報の開示を行っている代表的な企業です。同社は、グローバル企業として多様な地域で事業を展開しており、地域ごとの人的資本の特性を考慮した管理を行っています。
サムスン電子の特徴的な取り組みは、技術革新と人材育成の連携です。同社は、急速に変化する技術環境に対応するため、従業員のデジタルスキル向上に大規模な投資を行っています。AI、IoT、5Gなどの先端技術に関する研修プログラムを体系的に実施し、その効果をISO 30414の指標で測定しています。
また、同社は後継者育成にも力を入れており、将来のリーダー候補を早期に特定し、計画的な育成プログラムを実施しています。これにより、組織の持続的な成長と競争力の維持を実現しています。
アリアンツグループ
ドイツの保険・金融サービス大手のアリアンツグループも、ISO 30414に基づく人的資本管理を実践している企業の一つです。同社は、保険業界特有のリスク管理の観点から、人的資本を重要な経営資源として位置づけています。
アリアンツの取り組みで注目すべきは、従業員のウェルビーイングと生産性の関係性の分析です。同社は、従業員の健康状態、ワークライフバランス、ストレスレベルなどを継続的に測定し、これらの要因が業務パフォーマンスに与える影響を分析しています。その結果、メンタルヘルスサポートの充実や柔軟な働き方の導入により、従業員満足度と生産性の両方を向上させることに成功しています。
日本企業の事例
株式会社リンクアンドモチベーション
日本で最初にISO 30414の認証を取得したのは、株式会社リンクアンドモチベーションです。同社は2022年3月に認証を取得し、日本・アジア地域では初の認証企業となりました。
同社の特徴は、人材開発とコンサルティング事業を展開する企業として、自社の人的資本管理を実践例として活用している点です。従業員エンゲージメントの測定と改善、組織文化の可視化、リーダーシップ開発の効果測定などを通じて、人的資本経営のベストプラクティスを構築しています。
特に注目すべきは、同社独自の「モチベーションエンジニアリング」の手法をISO 30414の枠組みと統合している点です。従業員の動機や価値観を科学的に分析し、個人と組織の最適なマッチングを実現することで、高いパフォーマンスを維持しています。
豊田通商株式会社
豊田通商株式会社は、2022年10月にISO 30414の認証を取得した日本企業の一つです。同社は、グローバルに事業を展開する商社として、多様な地域・文化における人材マネジメントの課題に取り組んでいます。
豊田通商の取り組みで特徴的なのは、グローバル人材の育成と配置の最適化です。同社は、世界各地の拠点で働く従業員のスキル、経験、文化的背景などを詳細に把握し、プロジェクトや地域のニーズに応じた最適な人材配置を行っています。これにより、事業の効率性と従業員の成長機会の両方を最大化しています。
また、同社は持続可能な事業展開の観点から、現地人材の育成にも力を入れています。各地域での人材育成プログラムの効果をISO 30414の指標で測定し、継続的な改善を行っています。
シスメックス株式会社
医療機器メーカーのシスメックス株式会社は、2023年10月にISO 30414の認証を取得しました。同社は、「ヘルスケアの進歩を支える」という使命の下、高度な専門性を持つ人材の育成と活用に取り組んでいます。
シスメックスの特徴的な取り組みは、研究開発人材の専門性向上と多様性の推進です。同社は、医療技術の急速な進歩に対応するため、研究者の継続的な学習機会を提供し、その効果をISO 30414の指標で測定しています。また、多様な背景を持つ研究者の協働により、イノベーション創出力の向上を実現しています。
さらに、同社は従業員の健康とウェルビーイングにも注力しており、医療機器メーカーとしての専門知識を活用した健康管理プログラムを実施しています。これにより、従業員の健康維持と生産性向上の両立を図っています。
日立建機株式会社
建設機械メーカーの日立建機株式会社は、2023年11月に機械メーカーとして世界で初めてISO 30414の認証を取得しました。同社は、グローバルな建設機械市場での競争力強化を目的として、人的資本経営の推進に取り組んでいます。
日立建機の取り組みで注目すべきは、製造業特有の技能継承の課題への対応です。同社は、熟練技能者の知識と技術を若手従業員に効果的に継承するためのプログラムを開発し、その効果をISO 30414の指標で測定しています。デジタル技術を活用した技能の可視化や、メンタリング制度の充実により、技能継承の効率化を実現しています。
また、同社は安全性の向上にも力を入れており、労働災害の防止と従業員の安全意識向上のための取り組みを継続的に実施しています。これらの取り組みの効果は、労働災害発生率の低下や安全研修の効果測定を通じて確認されています。
新東工業株式会社
鋳造機械メーカーの新東工業株式会社は、2024年に国内12社目のISO 30414認証企業となりました。同社は、ニッチな技術分野での競争力維持のため、高度な専門性を持つ人材の育成と定着に取り組んでいます。
新東工業の特徴的な取り組みは、技術者のキャリア開発支援です。同社は、従業員の技術的専門性と管理能力の両方を向上させるためのキャリアパスを明確化し、個人の成長目標と会社の戦略目標の整合を図っています。これにより、優秀な技術者の定着率向上と組織全体の技術力向上を実現しています。
これらの日本企業の事例から、ISO 30414の認証取得は単なる情報開示の手段ではなく、人的資本経営の高度化と競争力強化のためのツールとして活用されていることが分かります。各企業は、自社の事業特性や戦略に応じてISO 30414の枠組みを活用し、持続的な成長を実現しています。
まとめ
ISO 30414は、人的資本の情報開示に関する世界初の国際規格として、企業の人材マネジメントに革新をもたらしています。11領域58指標という包括的な枠組みにより、企業は人的資本の状況を客観的かつ体系的に把握し、戦略的な人材投資を行うことが可能になりました。
企業が持続的な成長を実現するためには、人的資本を戦略的に管理し、その価値を最大化することが不可欠です。ISO 30414は、そのための強力なツールとして、今後ますます重要性を増していくでしょう。企業は、単なる認証取得にとどまらず、ISO 30414を活用した人的資本経営の高度化により、競争優位性の確保と持続的な成長の実現を目指すべきです。

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