【2025年最新版】ストレスチェック(ストレス診断)とは?目的、義務化、実施方法から活用ポイントまで徹底解説

最終更新日:2025年10月24日

2015年12月、労働安全衛生法の改正により、従業員50人以上の事業場においてストレスチェックの実施が義務化されました。多くの企業にとって、この制度は「また一つ、やらなければならない業務が増えた」という、どちらかといえばネガティブな受け止め方をされたかもしれません。しかし、制度開始から数年が経過し、その認識は大きく変わりつつあります。

現代のビジネス環境において、従業員のメンタルヘルスは、企業の持続的な成長を支える重要な経営基盤です。ストレスチェックは、単なる法令遵守のための「義務」ではなく、従業員の心の健康を守り、組織全体の生産性を向上させるための「戦略的投資」であるという認識が広まっています。

本記事では、人事・経営者の皆様に向けて、ストレスチェック制度の基本から、法改正の最新動向、具体的な実施方法、そして最も重要な「結果の活用法」まで、網羅的に解説します。この記事を読めば、ストレスチェックを形骸化させることなく、企業の成長エンジンへと転換させるための具体的なヒントが得られるはずです。

目次

ストレスチェック(ストレス診断)とは?制度の基本を理解する

ストレスチェック制度は、労働者のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした取り組みです。まずは、この制度が持つ3つの主要な目的と、義務化に至った背景を理解することから始めましょう。

ストレスチェックの3つの主要な目的

厚生労働省は、ストレスチェック制度の目的を大きく3つ挙げています。これらは相互に関連しあっており、一体的に取り組むことで最大の効果を発揮します。

1.一次予防
メンタルヘルス不調の未然防止 最も重要な目的は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことです。定期的に自身のストレス状態を把握し、高ストレス状態にある従業員を早期に発見することで、専門家によるケアや適切な措置に繋げ、深刻な事態に陥るのを防ぎます。

2.セルフケア
従業員自身のストレスへの気づきと対処の促進 従業員自身が自らのストレス状態に気づき、セルフケアを行うきっかけを提供することも大きな目的です。検査結果を通じて、自身のストレスの原因や心身の反応を客観的に理解し、生活習慣の改善やストレスコーピング(ストレスへの対処法)を学ぶ機会となります。

3.職場環境改善
組織全体のストレス要因の特定と改善 個人のケアだけでなく、ストレスチェックの結果を部署やチームごとに集計・分析(集団分析)することで、職場に潜むストレス要因を特定し、組織的な改善に繋げることができます。これは努力義務とされていますが、制度の成果を最大化する上で極めて重要なプロセスです。

なぜ義務化されたのか?その背景と社会的要請

ストレスチェック制度が義務化された背景には、見過ごすことのできない社会的な課題がありました。仕事による強いストレスが原因で精神障害を発症し、労災認定される件数は年々増加傾向にありました。厚生労働省の発表によると、2010年度に308件だった精神障害の労災認定件数は、制度開始直前の2014年度には497件にまで増加しています。

厚生労働省:「平成30年 労働安全衛生調査(実態調査)

また、2018年の労働安全衛生調査(実態調査)では、現在の仕事や職業生活に関することで「強いストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答した労働者の割合は58.0%にものぼり、多くの労働者が高いストレス環境下で働いている実態が浮き彫りになりました。

このような状況を受け、国は労働者のメンタルヘルス不調を個人の問題として片付けるのではなく、企業が組織として予防に取り組むべき重要な課題であると位置づけ、ストレスチェック制度の義務化に踏み切ったのです。

【人事・経営者向け】ストレスチェック制度の法的要件と企業の責任

ストレスチェック制度を適切に運用するためには、法律で定められた要件と、企業が果たすべき責任を正確に理解しておく必要があります。ここでは、人事・経営者が押さえておくべき法的ポイントを解説します。

対象となる事業所と労働者の範囲

ストレスチェックの実施義務は、事業所の規模によって異なります。

事業所の規模実施義務
常時使用する労働者が50人以上義務
常時使用する労働者が50人未満努力義務
※2025年現在

ここでいう「事業所」とは、本社、支店、工場など、場所的に独立した単位を指します。企業全体の従業員数ではない点に注意が必要です。「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく、契約期間が1年以上などの要件を満たすパートタイム労働者や派遣労働者も含まれます。

実施しない場合のリスクと罰則

義務対象の事業所がストレスチェックを実施せず、労働基準監督署への報告を怠った場合、労働安全衛生法第120条の5に基づき、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

しかし、リスクはそれだけではありません。より深刻なのは、安全配慮義務違反に問われる可能性です。労働契約法第5条では、企業は労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働させることができるよう、必要な配慮をするものと定められています。ストレスチェックの未実施が、この安全配慮義務違反と判断された場合、メンタルヘルス不調を発症した従業員から損害賠償請求訴訟を起こされるリスクも抱えることになります。

【2025年法改正】今後の動向:50人未満の事業所も義務化へ

これまで努力義務とされてきた労働者数50人未満の事業所においても、ストレスチェックの義務化が検討されています。背景には、小規模事業場における実施率の低さや、メンタルヘルス対策の必要性の高まりがあります。最新の動向では、2025年の法改正を経て、2028年頃からの全面的な義務化が予定されています。

中小企業の経営者や人事担当者は、この動向を注視し、義務化を待つのではなく、早期から自主的にストレスチェック制度の導入準備を進めることが、従業員の健康確保と企業の持続的成長のために不可欠と言えるでしょう。

ストレスチェックの実施方法:導入から報告までの6ステップ完全ガイド

ストレスチェック制度を円滑かつ効果的に導入・運用するためには、全体の流れを体系的に理解し、各ステップでやるべきことを明確にしておくことが重要です。ここでは、導入準備から労働基準監督署への報告まで、具体的な6つのステップに沿って解説します。

Step 1:導入前の準備(方針決定・体制整備・社内周知)

何事も準備が肝心です。ストレスチェックを始める前に、まずは社内の方針を明確にし、実施体制を整える必要があります。

方針の決定と表明
まず、ストレスチェックを何のために行うのか、その目的(従業員のセルフケア促進、職場環境改善など)を明確にし、社内規定として明文化します。そして、その方針をトップメッセージとして社内外に表明することが重要です。

実施体制の整備
制度の実施には、中心的な役割を担う「実施者」と、その事務作業を補助する「実施事務従事者」の選定が必要です。

役割担当可能な者主な任務
実施者医師、保健師、または厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師・精神保健福祉士など調査票の選定、ストレス程度の評価方法の決定、高ストレス者の選定など
実施事務従事者実施者の指示に基づき、事務作業を担当する者(資格要件なし)調査票の回収・データ入力、結果の送付、面接指導の勧奨など

【注意】 人事権(解雇、昇進、異動など)を持つ者は、実施事務従事者としてストレスチェックの結果に触れる業務には従事できません。

衛生委員会での審議
実施者や実施方法、実施期間、不利益な取り扱いの防止など、具体的な実施計画について、衛生委員会(または安全衛生委員会)で十分に調査審議し、決定します。

従業員への周知
決定した方針や計画は、社内イントラネットや説明会などを通じて、全従業員に丁寧に周知します。制度の目的やプライバシー保護についてもしっかりと説明し、従業員が安心して検査を受けられる環境を整えましょう。

Step 2:ストレスチェックの実施(質問票の選定と配布)

準備が整ったら、いよいよストレスチェックの実施です。質問票は、紙またはオンライン(Web)のいずれの形式でも構いません。

質問票には、以下の3つの領域に関する項目が含まれている必要があります。

1.仕事のストレス要因
仕事の量や質、対人関係など、職場における心理的な負担の原因に関する項目

2.心身のストレス反応
ストレスによるイライラ、疲労感、不眠などの心身の自覚症状に関する項目

3.周囲のサポート
上司や同僚、家族などからの支援の状況に関する項目

どの質問票を使うべきか迷う場合は、国が標準的なものとして推奨している「職業性ストレス簡易調査票」の使用が一般的です。これには、詳細な分析が可能な57項目版と、従業員の負担を軽減できる23項目版があります。

Step 3:結果の通知とプライバシー保護の徹底

集計・評価されたストレスチェックの結果は、実施者または実施事務従事者から、直接本人にのみ通知されます。この際、第三者に結果が漏れることのないよう、封書やパスワード付きの電子メールで送付するなど、プライバシー保護に最大限の配慮が必要です。

【重要】 労働安全衛生法により、事業者が本人の同意なくストレスチェックの結果を入手することは固く禁じられています。違反した場合、守秘義務違反として罰則の対象となります。

Step 4:高ストレス者への面接指導

ストレスチェックの結果、「高ストレス者」と選定された従業員から申し出があった場合、事業者は医師による面接指導を実施しなければなりません。これは、高ストレス者が専門的な助言を受けるための重要な機会です。

高ストレス者の選定
選定基準は、衛生委員会で審議し、あらかじめ定めておきます。一般的には、前述の「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」の点数評価を用いるケースが多く、全受検者の10%~15%程度が高ストレス者として選定される傾向にあります。

面接指導の申し出
高ストレス者本人から、結果通知後おおむね1ヶ月以内に申し出があります。事業者は、申し出を理由に不利益な取り扱いをしてはなりません。

面接指導の実施と意見聴取
事業者は、申し出からおおむね1ヶ月以内に面接指導を設定します。指導後、事業者は担当した医師から、当該従業員の就業上の措置(労働時間の短縮、作業内容の転換など)に関する意見を聴取します。

記録の保存
面接指導の記録は、5年間保存する義務があります。

Step 5:集団分析と組織へのフィードバック

個人の結果とは別に、実施者は部署や課、チームといった集団ごとに結果を集計・分析します。この集団分析こそが、職場環境改善に繋げるための鍵となります。

分析結果から、「どの部署で、どのようなストレス要因が高いのか」といった組織の傾向を把握することができます。ただし、この分析は個人が特定されないよう、原則として10人以上の集団を対象とします。分析結果は、個人情報に配慮した上で、経営層や各部署の管理職にフィードバックし、職場環境改善の具体的なアクションに繋げていきます。

Step 6:労働基準監督署への報告

一連のストレスチェックが完了したら、事業者は所轄の労働基準監督署長に「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を提出する必要があります。この報告は1年以内ごとに1回必要で、怠ると罰則の対象となります。報告書の様式は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。
※URL:厚生労働省:心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告

ストレスチェック結果の活用ポイント

ストレスチェックを「やって終わり」の形式的なイベントにしてしまうか、それとも組織変革の起爆剤とするか。その分水嶺となるのが、検査結果、特に集団分析の結果をいかに活用するかにかかっています。このセクションでは、結果を具体的なアクションに繋げ、生産性の高い職場を実現するためのポイントを解説します。

「やりっぱなし」で終わらせない!集団分析の戦略的重要性

個々の高ストレス者への対応(一次予防)が重要であることは言うまでもありません。しかし、それだけでは対症療法に過ぎず、根本的な問題解決には至りません。毎年同じように高ストレス者が発生し続ける「モグラ叩き」の状態に陥ってしまいます。

ここで戦略的に重要となるのが集団分析です。集団分析は、個人のプライバシーを保護しつつ、部署や職層ごとのストレス状況やその要因を客観的なデータとして可視化します。これにより、これまで感覚的にしか捉えられていなかった「あの部署は雰囲気が悪い」「最近、〇〇部は残業が多いようだ」といった課題を、具体的なデータとして把握し、組織全体で共有することが可能になります。

集団分析結果の読み解き方と課題発見のヒント

集団分析の結果レポートを前にして、どこから手をつければよいか分からない、という声もよく聞かれます。結果を読み解く基本的な視点は、「全国平均との比較」と「自社の経年変化」です。

多くの分析レポートでは、「仕事のストレス判定図」というものが用いられます。これは、「仕事の量的負担」や「仕事のコントロール(裁量権)」といった仕事のストレス要因と、「活気」や「イライラ感」「疲労感」といった心身のストレス反応をマッピングしたものです。

【仕事のストレス判定図の例】

仕事の量的負担仕事のコントロール上司のサポート同僚のサポート
自社平均1059598102
全国平均100100100100

(※数値は標準化したスコア。100が標準で、高いほどストレス要因が高い、またはサポートが高いことを示す)

上記の例では、全国平均に比べて「仕事の量的負担」がやや高く、「仕事のコントロール(裁量権)」と「上司のサポート」が低いことが分かります。この結果から、この組織では「業務量が多いにもかかわらず、従業員が自分のペースで仕事を進めにくく、上司からの支援も得られにくい」という仮説を立てることができます。

このように、複数の指標を組み合わせることで、より解像度の高い課題分析が可能になります。まずは自社の弱みとなっている項目を特定し、その背景にある具体的な要因を探ることから始めましょう。

職場環境改善の具体的な進め方と成功事例

課題が特定できたら、次はいよいよ具体的な改善アクションです。一方的にトップダウンで施策を押し付けるのではなく、従業員を巻き込みながら進めることが成功の鍵です。

1.結果の共有と意見交換の場づくり
まずは、個人が特定されないように配慮した上で、集団分析の結果を対象部署の従業員に共有します。そして、その結果について意見交換を行うワークショップやミーティングを開催します。「この結果を見てどう思うか」「背景に何があると思うか」といった問いを投げかけ、現場の生の声を集めることが重要です。

2.改善計画の策定と実行
ワークショップで出た意見を基に、具体的な改善計画(アクションプラン)を策定します。例えば、「上司のサポート不足」が課題であれば、「週1回の1on1ミーティングの導入」や「管理職向けのコミュニケーション研修の実施」などが考えられます。「仕事のコントロールの低さ」が課題であれば、「業務マニュアルの整備による業務の標準化」や「一定範囲での権限委譲」などが有効かもしれません。

3.効果測定と見直し(PDCAサイクル)
改善策は実行して終わりではありません。一定期間が経過した後、アンケートやヒアリングを通じてその効果を測定し、必要に応じて計画を見直します。このPDCAサイクルを回し続けることで、職場環境は着実に改善されていきます。

まとめ

本記事では、ストレスチェック制度の目的や法的要件といった基本から、具体的な実施フロー、そして最も重要な結果の活用法までを解説してきました。

ストレスチェックは、もはや単なる法令遵守のためのコストではありません。従業員一人ひとりの声に耳を傾け、組織の健康状態を可視化する貴重な「診断ツール」です。その診断結果に真摯に向き合い、集団分析を通じて職場環境の改善という「治療」を施すことで、従業員のメンタルヘルスを守るだけでなく、エンゲージメントや生産性の向上、ひいては企業全体の持続的な成長を実現することができます。

人事・経営者の皆様には、ぜひ本記事を参考に、ストレスチェックを「義務」から「戦略」へと昇華させ、従業員がいきいきと働ける、より良い組織づくりを推進していただきたいと思います。

「すごい人事」情報局運営元:株式会社Crepe
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