【業界別】SaaS営業・不動産営業・製造業営業の採用戦略|求められるスキルと見極め方の違い
企業の成長を牽引する営業部門。その採用は、事業の未来を左右する重要な経営課題です。しかし、一口に「営業職」と言っても、業界構造やビジネスモデルが異なれば、求められるスキルや人材像も大きく異なります。特に、近年急速な変化を遂げているSaaS業界、伝統的に高い専門性が求められる不動産業界、そして技術革新の波に対応し続ける製造業界では、それぞれに特化した採用戦略が不可欠です。
本記事では、人事・経営者の皆様を対象に、SaaS、不動産、製造業の3つの業界における営業職の採用に焦点を当てます。各業界のビジネスモデルや営業プロセスの特徴を解き明かし、それぞれに求められるスキルセットと、候補者のポテンシャルを的確に見極めるためのポイントを、具体的かつ実践的に解説します。自社に最適な営業人材を獲得し、事業成長を加速させるための一助となれば幸いです。
目次
SaaS営業の採用戦略
SaaS営業の特徴と営業モデル
SaaS(Software as a Service)業界の最大の特徴は、サブスクリプション型のビジネスモデルにあります。顧客にソフトウェアを継続的に利用してもらうことで収益を上げるため、営業活動は「売り切り」ではなく、顧客との長期的な関係構築がゴールとなります。このビジネスモデルは、「The Model」に代表されるような、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスといった機能別の分業体制を生み出しました。
企業の成長フェーズによっても営業体制は異なります。スタートアップ期では、一人の営業担当者がリード獲得からクロージング、オンボーディングまで幅広く担うことが多く、販売効率とリソースの集中投下が求められます。一方、事業が拡大し成熟期に入った大手企業では、各部門が専門性を高め、連携しながら組織的に顧客獲得とLTV(顧客生涯価値)の最大化を目指します。
SaaS営業に求められるスキル
SaaS営業で成果を出すためには、従来の営業スキルに加えて、ビジネスモデルの特性に合わせた能力が求められます。
| スキル分類 | 具体的なスキル |
| 顧客課題解決 | 顧客の潜在的な課題を深くヒアリングし、自社サービスがどのように貢献できるかを論理的に説明するコンサルティングスキル。 |
| データ活用 | CRMやSFAのデータを分析し、営業プロセスや顧客アプローチを改善するデータ分析力。顧客の成功を能動的に支援するカスタマーサクセス思考。 |
| マインドセット | 市場やプロダクトの急激な変化に柔軟に対応する変化対応力。指示を待つのではなく、自ら目標設定し、達成に向けて行動する自走力。 |
SaaS営業人材の見極め方
優秀なSaaS営業人材を採用するためには、面接において以下の3つのポイントを重点的に確認することが重要です。
1.ビジョンへの共感度
SaaS企業にとって、プロダクトが解決する社会課題や目指す世界観への共感は、エンゲージメントとパフォーマンスに直結します。なぜ自社なのか、自社のビジョンにどう貢献したいのかを深く問いかけ、候補者の価値観と企業文化のマッチ度を見極めましょう。
2.論理的思考力と再現性
過去の成功体験を語る候補者は多いですが、その成功が「なぜ」もたらされたのかを論理的に説明できるかが重要です。「どのような仮説を立て、どう行動し、結果をどう分析して次のアクションに繋げたか」といった思考プロセスを確認することで、環境が変わっても成果を出し続けられる「再現性」を評価できます。
3.学習意欲と成長ポテンシャル
特に業界未経験者を採用する場合、現時点でのスキル以上に、新しい知識やスキルを積極的に学び、成長し続ける姿勢が重要です。これまでの経験から何を学び、それを今後どう活かしていきたいか、といった質問を通じて、学習意欲と成長ポテンシャルを評価しましょう。
不動産営業の採用戦略
不動産営業の特徴と市場環境
不動産営業は、人生における最大の買い物とも言える高額な商品を扱うため、顧客との信頼関係構築が何よりも重要です。一件の契約に至るまでには、顧客のライフプランや資金計画に関する深いヒアリングから、物件の選定、内覧、複雑な契約手続き、そして引き渡しまで、数ヶ月から時には一年以上を要することもあります。
また、宅地建物取引業法や民法といった法律知識、住宅ローンや税金に関する専門知識が不可欠であり、常に最新の情報を学び続ける必要があります。近年では、少子高齢化による市場の変化や、テクノロジーの活用(不動産テック)といった新しい潮流への対応も求められています。有効求人倍率も高い水準で推移しており、優秀な人材の獲得競争は激化しています。
不動産営業に求められるスキル
高額で複雑な取引を成功に導く不動産営業には、高度な専門性と人間力が求められます。
| スキル分類 | 具体的なスキル |
| 顧客対応力 | 顧客の言葉の裏にある不安や期待を汲み取り、真のニーズを理解する顧客目線のコミュニケーション力。問い合わせや要望に即座に対応する迅速な行動力。 |
| 専門知識 | 法律、税務、金融に関する正確な専門知識。物件の価値を多角的に分析し、顧客に分かりやすく伝えるプレゼンテーション能力。 |
| マインドセット | 長期にわたる交渉や顧客の意思決定を辛抱強く待ち、寄り添い続ける忍耐力。一度きりの取引で終わらせず、紹介や再契約に繋げる長期的関係構築力。 |
不動産営業人材の見極め方
不動産営業の採用においては、候補者の経験やスキルを多角的に評価する必要があります。
1.専門知識と学習意欲
宅地建物取引士の資格は、基礎知識を有していることの客観的な証明になります。資格の有無だけでなく、資格取得に至る努力のプロセスや、常に新しい知識を学び続ける意欲があるかを確認しましょう。未取得者であっても、入社後の取得意欲や学習計画を具体的に聞くことが重要です。
2.誠実さと顧客志向
高額な商品を扱うからこそ、候補者の誠実な人柄や、顧客の利益を第一に考える姿勢が不可欠です。過去の経験において、困難な状況でどのように顧客と向き合ったか、利益相反の可能性がある場面でどのような判断をしたか、といった具体的なエピソードを深掘りしましょう。
3.ストレス耐性と目標達成意欲
不動産営業は、時に顧客からの厳しい要求や、成果に対する強いプレッシャーに晒されます。ストレスのかかる状況でどのように自身をコントロールし、高い目標に向かって粘り強く努力できるか、過去の経験からそのポテンシャルを見極めることが重要です。
製造業営業の採用戦略
製造業営業の特徴と営業課題
製造業の営業は、自社が製造する有形の製品を、主に法人顧客(BtoB)に対して販売します。その特徴は、製品の技術的な専門性の高さと、顧客の意思決定プロセスの複雑さにあります。営業担当者は、単に製品を売るだけでなく、顧客の生産ラインや事業全体の課題を理解し、技術的な解決策として自社製品を提案するソリューション営業が中心となります。
購買担当者だけでなく、設計、開発、品質保証、さらには経営層まで、複数の部門の担当者が意思決定に関わるため、それぞれの立場やニーズを理解し、合意形成を図っていく高度な調整能力が求められます。また、営業部門と自社の開発・生産部門との密な連携も、顧客への最適な提案と安定供給を実現する上で不可欠です。製品価値が伝わりにくい、稟議プロセスが長く決済に時間がかかる、といった課題を乗り越える戦略的なアプローチが成功の鍵となります。
製造業営業に求められるスキル
技術的な製品を扱う製造業の営業には、文系・理系の枠を超えた複合的なスキルが求められます。
| スキル分類 | 具体的なスキル |
| 技術理解力 | 自社製品の技術的な仕様や優位性を深く理解し、顧客の技術担当者と対等に会話できる技術知識。顧客の課題に対して、技術的な観点から最適な解決策を提示する提案力。 |
| 関係構築・調整力 | 顧客社内のキーパーソンを見極め、複数の部門担当者と良好な関係を築き、合意形成を主導する複数関係者の調整能力。 |
| 社内連携 | 顧客のニーズや市場の情報を正確に社内の開発・生産部門にフィードバックし、製品改善や納期調整を行う部門間連携スキル。 |
製造業営業人材の見極め方
製造業の営業人材を見極めるには、技術への理解度と複雑なビジネスプロセスへの対応能力を評価することが不可欠です。
1.技術への興味・関心と学習能力
必ずしも理系出身である必要はありませんが、技術や製品の仕組みに対して強い興味・関心を持っていることが大前提です。面接では、自社製品や業界の技術動向についてどの程度理解しているか、また、未知の技術情報をどのように学習し、自身の言葉で説明できるかを確認しましょう。
2.複雑な成功体験の構造化能力
過去の営業経験において、どのような顧客の、どの部門の、誰に対して、どのような提案を行い、どのようなプロセスを経て契約に至ったのかを具体的に説明してもらいましょう。関与した人物の多さや、意思決定プロセスの複雑さを乗り越えた経験は、製造業の営業として活躍する上で重要な指標となります。
3.チームでの成果創出経験
個人としての営業成績だけでなく、他部署のメンバーとどのように連携し、チームとして成果を上げた経験があるかを確認することも重要です。「報・連・相」のレベルに留まらず、対立意見を調整したり、他者を巻き込んで目標を達成したりした経験は、社内外で多くのステークホルダーと関わる製造業営業において高く評価できます。
3業界の採用戦略の比較表
これまで見てきた3つの業界の営業採用戦略の違いを、以下の表にまとめます。
| 項目 | SaaS営業 | 不動産営業 | 製造業営業 |
| ビジネスモデル | サブスクリプション | プロジェクト(売り切り) | プロジェクト(継続取引) |
| 顧客との関係 | 長期的・継続的 | 短期〜長期的 | 長期的・パートナーシップ |
| 重視されるスキル | コンサルティング、データ分析、カスタマーサクセス | 信頼関係構築、専門知識(法律・金融)、忍耐力 | 技術理解力、ソリューション提案力、複数関係者調整力 |
| 採用時の見極めポイント | 論理的思考力、再現性、ビジョンへの共感 | 誠実さ、顧客志向、ストレス耐性 | 技術への興味、複雑なプロセスの構造化能力、チームでの成果創出経験 |
| 活躍する人材像 | 変化に強く、自走できる課題解決のプロ | 顧客に寄り添い、信頼される人生のパートナー | 技術とビジネスを繋ぐ、頼れるソリューションのプロ |
業界別採用成功のポイント
共通する重要スキル
業界ごとの違いは大きいものの、優れた営業人材に共通する foundational なスキルも存在します。それは、コミュニケーション能力と提案力・問題解決力です。どのような業界であれ、顧客の課題を正確に理解し、その解決策を分かりやすく提示し、相手の納得と行動を引き出す能力は、営業職の根幹をなすスキルと言えるでしょう。
業界特有の採用戦略
採用を成功させるためには、共通スキルを土台としつつ、各業界の特性に合わせた戦略的なアプローチが求められます。
企業文化とのマッチング
特にSaaS業界や、変革期にある企業では、スキルフィット以上にカルチャーフィットが重視される傾向にあります。自社のビジョン、ミッション、バリューを明確に言語化し、それに共感する人材を惹きつける採用ブランディングが重要です。
成長ポテンシャルの評価
完成された即戦力人材の獲得が困難な現代において、未経験者やポテンシャル層の採用・育成は重要な戦略です。現時点でのスキルだけでなく、学習意欲、素直さ、ストレス耐性といったポテンシャルを見極めるための独自の評価基準を設けることが、将来のトップセールス候補を発掘する鍵となります。
まとめ
本記事では、SaaS、不動産、製造業という3つの異なる業界における営業職の採用戦略について、求められるスキルと見極め方の違いを中心に解説しました。
SaaS営業では、顧客の成功にコミットし、データに基づいた論理的なアプローチができる課題解決のプロフェッショナルが求められます。
不動産営業では、高額な商品を扱うに足る誠実さと専門知識を持ち、顧客の人生に長期的に寄り添える信頼のパートナーが求められます。
製造業営業では、複雑な技術を理解し、社内外の多くの関係者を巻き込みながらソリューションを提供する技術とビジネスの架け橋が求められます。
人事・経営者の皆様には、これらの違いを深く理解した上で、自社の事業戦略と営業組織の現状に即した採用要件を定義し、候補者一人ひとりのポテンシャルを的確に見極める採用活動を実践していただくことを期待します。適切な人材の採用は、間違いなく企業の持続的な成長の礎となるでしょう。

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