幹部採用を「気合い」で終わらせない。スタートアップが優秀人材を採り続けるための3つの仕組み
スタートアップの成長を左右する要因として、資金調達やプロダクトだけでなく、「誰が経営を担うか」があります。CTO、COO、CROをはじめとする経営幹部の採用は、事業戦略そのものです。
しかし、多くのベンチャー企業では、幹部採用が後回しになりがちです。現場が忙しい、そもそも会いたい人が思い浮かばない、「有名企業にいる人が自社に来るはずがない」と考えてしまう――。その結果、採用活動は求人を出して待つだけになり、必要なタイミングで必要な人材を迎えられません。
一方で、CTO・COO・CRO経験者のような経営人材を継続的に迎え入れているスタートアップには、共通する特徴があります。それは、採用を担当者だけの業務にせず、経営チーム全体で再現性ある活動として運用していることです。
本稿では、採用を強化したいベンチャー経営者・人事責任者に向けて、幹部採用を前に進める3つの実践ポイントを紹介します。
1. 行動量を「仕組み」で管理する
幹部採用では、「重要だと思っているが、緊急ではない」状態が続きやすいものです。事業課題や顧客対応など、目の前の仕事に押され、候補者との面談やスカウトが後回しになるケースは珍しくありません。
だからこそ必要なのは、採用への行動量を個人の意欲に任せず、組織の仕組みとして可視化することです。
四半期ごとに、役員が採用活動を振り返る
幹部採用が機能している企業では、3カ月に1回の役員ミーティングに「幹部採用」のアジェンダを置きます。各役員が、直近3カ月で以下のような情報をリストにして持ち寄る運用です。
•どのような人材を採用したいのか
•何人の候補者と会ったのか
•誰にオファーを出したのか
•選考・口説き込みが停滞している候補者はいないか
•次の四半期に、誰へアプローチするのか
ここで重要なのは、採用担当者だけが報告する場ではないことです。経営幹部自身が採用の当事者として、行動と結果を共有します。
幹部候補の採用は、候補者の見極め、魅力づけ、口説き込みのすべてを人事だけで完結させることが難しい領域です。事業の未来を語り、入社後に任せたい役割を具体的に示せるのは、経営を担うメンバーです。採用を人事部門のKPIだけに閉じ込めず、役員の責任として扱うことが出発点になります。
「会えていない」と「採れていない」を分けて考える
採用活動がうまくいかないとき、原因を一括りにしてはいけません。まずは、候補者に会えているのかを確認する必要があります。
採用は、行動量が明確に成果に表れやすい活動です。
候補者に十分会えていないのであれば、問題は母集団形成やアプローチ量です。ターゲットリストの不足、スカウト送信数、紹介依頼、役員のネットワーク活用などを見直すべきでしょう。
一方、面談はできているのに採用につながらない場合は、別の課題が考えられます。例えば、候補者に伝えている事業の魅力、ポジションの設計、報酬・権限のバランス、選考のスピード、役員による口説き込みなどです。
「採用できない」という結果だけを見るのではなく、接点数・選考通過率・オファー率・承諾率と工程を分けて見れば、打ち手は具体的になります。
相互に見える状態が、行動を継続させる
人は、誰にも見られていない活動を継続するのが難しいものです。特に役員クラスは、自律性が高い反面、採用に割く時間を確保できているかを他者が把握しにくい立場でもあります。
定例会で活動を見せ合うことは、単なる進捗管理ではありません。「幹部採用は全員で取り組む経営課題である」というメッセージを、組織に浸透させる行為です。
人事責任者は、役員に対して「採用に協力してください」と抽象的に依頼するのではなく、面談数や紹介数などの具体的な行動を合意し、定期的に振り返る場を設計しましょう。
2. 「この人は来ないかも」で候補から外さない
幹部採用における最大の機会損失は、候補者本人に確認する前から、採用対象外だと決めてしまうことです。
知名度のある企業にいる人、上場企業で要職に就いている人、すでに他社から声がかかっていそうな人。「自社のステージでは難しいだろう」と考え、そもそも連絡をしない。この判断は一見合理的ですが、候補者との接点を失うという意味で非常に大きなコストになります。
優秀な人材に声がかかる会社は、実は限られている
幹部候補に他社からのオファー状況を聞くと、名前が挙がる企業は候補者ごとにある程度似通うといいます。つまり、継続的かつ能動的に優秀人材へアプローチしている会社は、想像するほど多くありません。
優秀な人材ほど、すでに十分なポジションや待遇を得ている可能性があります。それでも、次の挑戦を考える理由は人によって異なります。
•より大きな裁量を持ちたい
•事業づくりの初期・拡大期に深く関わりたい
•自分の専門性を、より大きな課題の解決に使いたい
•経営チームとの相性やミッションへの共感を重視したい
•現職では得にくい成長機会を求めている
外からは順調に見えるキャリアでも、本人が次の可能性を探していることはあります。こちらが「来ないだろう」と判断しても、候補者にとっては初めて具体的に検討できる選択肢になるかもしれません。
採用は「今すぐの転職意向」だけを追わない
幹部採用は、応募があった人を選考するだけでは不十分です。転職意向が明確でない人とも、長期的に関係を築く必要があります。
初回の接点で採用に至らなくても、事業課題への意見を聞く、イベントに招く、経営メンバーとの情報交換の場をつくるなど、関係性を続ける方法はあります。半年後、1年後に状況が変わることもあるためです。
そのため、人事は候補者を「応募」「選考中」「不採用」といった短期的なステータスだけで管理しない方がよいでしょう。将来の採用可能性を含め、以下のような情報を蓄積します。
•強み・実績・志向性
•関心を持つ事業テーマ
•転職を考える条件や時期感
•接点を持った経営メンバー
•次に連絡するタイミングと理由
候補者リストは、一度きりの採用案件のための名簿ではなく、経営チームの採用資産です。
「採れない理由」を想像で確定しない
もちろん、すべての候補者に同じ熱量で時間を使えるわけではありません。優先順位づけは必要です。ただし、その基準を「きっと来ない」という推測だけに置かないことが重要です。
候補者が求めているものと、自社が提供できる挑戦機会の重なりを仮説として持ち、まずは会って確かめる。会話を通じて初めて分かる条件や価値観があります。
採用競争が激しいほど、候補者への最初の一通、最初の面談を増やすことが、将来の採用可能性を広げます。
3. 会いたい人を具体化し、変化が起きた瞬間に連絡する
「優秀な人を採りたい」という言葉だけでは、誰も動けません。採用を加速させる会社は、会いたい人物像が驚くほど具体的です。そして、その人のキャリアに変化が起きた瞬間を逃さず、速やかに接点をつくります。
人物像を、事業課題から逆算する
まず経営チームで考えるべきは、「どんな人がほしいか」ではなく、「どんな経営課題を解く必要があるか」です。
例えば、次のように課題と役割を結びつけます。
| 時期 | 経営課題 | 求める人材の例 |
| 現在 | プロダクト開発組織を拡大したい | 複数チームを率い、開発組織を設計できるCTO・VPoE候補 |
| 半年後 | エンタープライズ営業を伸ばしたい | 大手顧客の営業戦略・組織立ち上げ経験を持つCRO候補 |
| 1年後 | 事業の多角化と管理体制を整えたい | 事業推進とオペレーション構築の両方を担えるCOO候補 |
このレベルまで具体化されると、人事は探すべき候補者像を描きやすくなります。現場や役員も「前職でこの課題を経験していたあの人」「この領域に詳しい人なら紹介できる」と、情報を持ち寄れるようになります。
人物要件は、スキルや役職名だけで終わらせないことも大切です。入社後に任せるミッション、最初の90日で期待する成果、必要な権限、既存チームとの役割分担まで整理しましょう。候補者にとっても、転職後の成功イメージが持ちやすくなります。
人材市場のシグナルを継続的に追う
良い候補者に会えるかどうかは、タイミングに左右されます。役員の異動、組織改編、資金調達、サービスのローンチ、SNS上の発信、ビジネスSNSのステータス変更などは、キャリアの変化を示すシグナルになり得ます。
候補者との新たな接点は、異動などのキャリアの節目に生まれやすいものです。人事は役員異動や業界ニュース、候補者自身の発信を継続的に確認し、変化を見つけた際には迅速に連絡できる体制を整えましょう。
ここで大切なのは、情報を集めること自体ではありません。候補者の変化を捉え、最適なタイミングで、個別性のある連絡をする運用をつくることです。
人事チームは、候補者の情報を集めるだけで満足せず、以下の流れを仕組みにすることが重要です。
1.事業計画に基づき、採用したい人物像を定義する
2.対象となる候補者をリスト化する
3.異動・発信・ネットワークなどの変化を定期的に確認する
4.シグナルを検知したら、担当者と連絡期限を明確にする
5.接点後の学びを記録し、次のアプローチにつなげる
速さと個別性を両立させる
変化が起きた直後の連絡は有効ですが、定型文を一斉送信するだけでは候補者の心には届きません。なぜその人に会いたいのか、自社のどの課題に力を貸してほしいのかを、相手の経験に触れながら具体的に伝える必要があります。
採用担当者が候補者の経歴を踏まえて下書きをつくり、役員が自身の言葉で一言を添える。あるいは、役員から最初の連絡をし、人事が日程調整と継続フォローを担う。このように役割を分けると、スピードと質を両立しやすくなります。
候補者への連絡の早さは、単なる対応速度ではありません。「あなたを本気で必要としている」というメッセージでもあります。採用広報や制度設計だけでなく、日々の候補者対応に経営の本気度は表れます。
3つの取り組みに共通するのは、「行動が起きる状態」を先につくること
ここまで紹介した3つのポイントは、いずれも特別な採用ノウハウではありません。
1.行動量を四半期ごとに可視化し、幹部同士で見せ合う
2.「来ないだろう」という推測で候補者リストを削らない
3.会いたい人を具体化し、変化に即反応する
共通しているのは、採用を気合いや個人の頑張りに委ねず、行動が自然に起きる仕組みを先に整えていることです。
幹部採用は、短期で答えが出ない活動です。だからこそ、「採れなかった」という結果だけで一喜一憂するのではなく、会うべき人に会えているか、適切なタイミングで声をかけられているか、役員が採用活動を担えているかを定期的に問い直す必要があります。
採用できていない状態は、必ずしも魅力的な人材が市場にいないことを意味しません。多くの場合、候補者に会うための行動や、会った人に選ばれるための設計に改善余地があります。
経営者と人事が同じ数字と候補者リストを見ながら、「次に誰へ、どのような価値を伝えるか」を議論する。その積み重ねが、必要な人材を必要なタイミングで迎えられる組織をつくります。
まとめ
採用競争が激しい時代において、優秀な幹部人材との出会いを偶然に任せることはできません。まずは次の3点を、次回の経営会議から始めてみてください。
•役員ごとの候補者面談数・紹介数を可視化する
•「難しそう」という先入観を外し、会いたい候補者の母集団を広げる
•事業課題から人物像を具体化し、候補者の変化へ素早く反応する
採用を「人事の仕事」に限定せず、経営の重要アジェンダとして運用すること。それが、スタートアップの成長を支える幹部採用の第一歩です。
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