静かな退職とは?企業が取る対策まとめ

近年、「静かな退職」という言葉が、職場で働く人々の間で、そして企業の人事担当者の間で注目を集めています。これは、従業員が仕事に対する熱意や意欲を失い、必要最低限の業務のみを淡々とこなす働き方を指します 。アメリカのキャリアコーチが提唱したこの概念は、SNSを通じて広まり、日本においてもその存在が認識され始めています 。さまざまな日本のビジネスや人事関連の記事でこの現象が取り上げられていることは、日本企業がこの新たな働き方に関心を寄せ、対策を検討する必要性を感じていることを示唆しています 。本稿では、「静かな退職」の定義と背景にある要因を明らかにし、日本企業がこの状況に対処するために取り得る対策について、既存の研究資料に基づいて包括的に解説します。従業員のエンゲージメントと生産性を維持するために、「静かな退職」を理解し、適切な対策を講じることの重要性は増しています。  

目次

「静かな退職」とは?定義と背景

「静かな退職」の定義

「静かな退職」とは、従業員が転職や退職を考えているわけではないものの、仕事への意欲や熱意を失い、契約上の必要最低限の業務のみを行う状態を指します 。あたかも退職が決まった従業員のように、仕事に対して心理的に距離を置いている状態と言えるでしょう 。このような働き方を選択した従業員は、積極的に新しいプロジェクトに提案したり、アイデアを出したりすることは少なく、指示された業務をミスなくこなすことに重点を置きます 。また、残業はほとんどなく、定時で退社することが一般的です 。仕事とプライベートの境界線を明確に分け、仕事に自己実現ややりがいを求めない、割り切った働き方が特徴として挙げられます 。従業員が意図的に労働時間や業務負荷を減らすわけではないため、周囲からは問題として表面化しづらい側面があります 。しかし、このような心理的な離職状態は、従来の離職とは異なり、発見や対処が遅れる可能性があります 。  

「静かな退職」が広まる背景にある要因

「静かな退職」が広まっている背景には、社会や労働環境の変化、個人の価値観の多様化など、複数の要因が複雑に絡み合っています。

社会的・文化的要因

高度成長期のような仕事に多くの時間を捧げる働き方、いわゆるハッスルカルチャーに対する反発が、「静かな退職」の広がりを後押ししています 。かつては美徳とされた長時間労働や仕事中心のライフスタイルが、ワーカホリックや燃え尽き症候群の原因となることが認識されるようになり、仕事とプライベートのバランスを重視する考え方へと変化しています 。特に、パンデミックによる働き方の変化は、この傾向を加速させた可能性があります 。経済の混乱の中で働き方が変わり、仕事と私生活の区別が曖昧になった結果、仕事への価値観や関わり方が見直されるようになったと考えられます 。また、ウェルビーイングを重視する流れを受け、キャリアアップや昇進に重きを置かないキャリア観を持つ人が増えていることも要因の一つです 。組織に依存せず、自身でキャリア形成を模索する人が増えていることも、「静かな退職」の背景にあると考えられます 。特にZ世代や若年層において、このような傾向が顕著であると言われています 。  

労働環境・制度要因

仕事に見合うインセンティブの不足も、「静かな退職」を選択する大きなきっかけとなっています 。努力しても以前のように給与が上がらない社会経済の状況も影響し、金銭的な報酬だけでなく、仕事に対するモチベーションや努力の意義が見出せない場合に、従業員は必要最低限の業務に留まる傾向があります 。さらに、日本の労働者は、仕事や職場への関与と熱意を示す「従業員エンゲージメント」指数が非常に低い状態にあります 。世界的に見ても、「静かな退職」に該当する労働者の割合は高いとされており、この低いエンゲージメントが背景にあると考えられます 。かつての日本では終身雇用制度が一般的でしたが、現代ではその制度が崩壊しつつあり、長期的なキャリアプランを描くことが難しくなっていることも、組織へのエンゲージメント低下につながり、「静かな退職」を増加させる要因となっています 。また、自身の仕事ぶりや成果が正当に評価されていないと感じる場合にも、従業員のモチベーションは低下し、「静かな退職」につながる可能性があります 。  

個人的な要因

仕事よりもプライベートを重視する価値観を持つ人が増えていることも、「静かな退職」の背景にあります 。多くの人が「できることなら働きたくない」と感じており、仕事以外のプライベートライフへの関心が高いという本音も、「静かな退職」の一因と考えられます 。特に40代〜60代のミドルシニア世代においては、職業人生の長期化やワークライフバランスの重視、家庭や子育て、介護などのライフイベントが重なる時期であることなどが、「静かな退職」の背景にあると言われています 。また、仕事や環境への不適合を感じたり、「今の職場にはやりがいがある仕事がない」と感じたりすることも、「静かな退職」のきっかけとなる場合があります 。  

企業が取る「静かな退職」への対策

「静かな退職」は、従業員のモチベーション低下や生産性の減少、職場の雰囲気の悪化など、企業全体に悪影響を及ぼす可能性があります 。そのため、企業は「静かな退職」を選択する従業員の増加に対処するための様々な対策を講じる必要があります。  

全社的な対策

従業員エンゲージメントの向上

従業員の仕事に対する満足度や組織への貢献意欲を高めることは、「静かな退職」を防ぐ上で最も重要な対策の一つです 。そのためには、定期的に従業員エンゲージメント調査を実施し、現状の満足度を把握し、改善点を見つけることが不可欠です 。日本の従業員エンゲージメントは世界的に見ても低い水準にあるという調査結果 は、改善の余地が大きいことを示唆しています。また、オープンなコミュニケーションとフィードバックの文化を育み、従業員が自分の意見や不満を安心して話せる環境を作ることも重要です 。さらに、チーム内や従業員と管理職の間で心理的な安全性と信頼感を醸成することも、エンゲージメント向上には不可欠です 。  

職務内容の明確化と目標設定

従業員が自身の役割や責任を明確に理解できるように、業務内容を具体的に記載したマニュアルを作成し、定期的に見直すことが有効です 。曖昧な職務範囲は混乱を招き、従業員の自信を損なう可能性があります。また、明確で達成可能な目標を設定することで、従業員は達成感を得やすくなり、モチベーションを維持しやすくなります 。  

公正な評価と報酬制度

従業員のモチベーションを高めるためには、公正で透明性の高い人事評価制度を導入することが重要です 。成果だけでなく、プロセスや努力も評価する仕組みを取り入れることが望ましいでしょう 。例えば、同僚や部下、上司からのフィードバックを反映させる360度評価制度の導入も有効な手段の一つです 。また、給与や福利厚生などの報酬が、従業員の貢献度に見合ったものであることも重要です 。  

ワークライフバランスの支援

柔軟な働き方を支援する制度を導入することも、「静かな退職」を防ぐ上で有効な対策となります 。テレワークやフレックスタイム制度などを導入することで、従業員は自身のライフスタイルに合わせて働き方を調整しやすくなり、仕事とプライベートの両立を図ることができます 。また、有給休暇の取得を推奨したり、育児や介護といった個人的な課題を抱える従業員へのサポート体制を整えることも重要です 。  

社内コミュニケーションの活性化

上司と部下が定期的に1on1ミーティングを実施し、従業員の意見や悩みを直接聞く機会を設けることは、コミュニケーション活性化に繋がります 。また、社内イベントなどを通じて、従業員同士の信頼関係を築くことも、チームワーク力の向上に貢献します 。職場内外でのコミュニケーション機会を増やすことで、仕事の悩みやストレスを共有したり、励まし合ったりすることができるようになります 。  

メンター制度の導入

経験豊富な社員が新人や後輩社員に対して指導やサポートを行うメンター制度は、個々の成長を促し、組織全体のパフォーマンス向上に寄与します 。特に、仕事や環境への不適合を感じている従業員に対して、メンターからのサポートは有効であると考えられます 。メンターは、メンティーの自主性を尊重し、自ら考え行動する力を引き出すサポートに徹する必要があります 。  

キャリア開発支援

従業員のスキルアップやキャリア形成を支援するための研修プログラムを提供することは、仕事への関心を高め、モチベーションを維持する上で重要です 。また、キャリアカウンセリングなどを通じて、従業員が自身のキャリア目標を明確にし、それに向けて成長していくための計画を立てるサポートも有効です 。  

年代別の対策

従業員が「静かな退職」に至る原因は年代によって異なるため、企業は年代に合わせた対策を講じる必要があります 。  

新入社員・若手社員

入社前の期待と実際の職場とのギャップを埋めるために、仕事内容や働き方について丁寧に説明し、入社後もこまめに状況を確認することが有効です 。また、新たなプロジェクトへの参加や、自己成長のための研修プログラムの提供を通じて、仕事への関心を高めることも重要です 。将来の目標を持たせるために、キャリアパスを明確に示し、具体的な昇進機会を提示することも、モチベーション維持に繋がります 。さらに、安心して働ける環境を整備するために、メンタルヘルスケアやカウンセリングの機会を提供し、ストレスを軽減することも重要です 。失敗を嫌う傾向のあるZ世代には、スモールステップで達成を見守り、都度承認の声掛けを行うことも有効です 。  

中間層・壮年層

コミュニケーションを活性化させ、対話による信頼関係を築き、存在そのものを認めることが大切です 。仕事と家庭の両立を支援するために、テレワークや時短勤務などの柔軟な働き方ができるような制度整備や、育児や介護支援制度の充実を図ることも重要です 。専門知識の向上とキャリアアップを支援するために、資格取得支援やスキルアップのためのトレーニングを提供することも有効です 。また、給与やインセンティブとしての報酬を支払うことが難しい場合は、裁量権を与えたり、評価につながりやすい業務の優先度を上げることで、モチベーションを維持することも考えられます 。経営方針や組織の方向性を透明化し、安心して働ける環境を構築することも、この年代の社員にとっては重要です 。  

外部リソースの活用

自社だけで「静かな退職」への対策を講じることが難しい場合、外部のコンサルタントを活用することも有効な手段です 。コンサルタントは、従業員の満足度や働き方に関する調査や分析を行い、職場の実態を客観的に評価することができます 。また、従業員との個別面談を通じて、第三者の立場から個々の不満や課題を抽出する支援も期待できます 。現状を踏まえた上で、企業文化や組織体制の改善点を提示し、具体的な実施案を構築してくれるでしょう 。さらに、キャリアプラン、スキルアップ制度、報酬制度など、従業員がやりがいや満足感を高めるための仕組みを提案したり、社員間のコミュニケーションを活性化させるためのチームビルディングのワークショップなどを企画・実施したりすることも可能です 。組織内の業務分担や評価制度の見直し、職務環境整備についても、専門的な視点から提言を受けることができます 。外部の人材を活用する利点として、内部だけでは気づきにくい課題を明らかにできること、高度な専門知識と経験を有する専門家による客観的な分析と改善策の提案、そして、外部の人間だからこそ上司に言いづらいことも率直に意見を伝えやすくなる点が挙げられます 。  

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その他の考慮事項

「静かな採用」の概念

「静かな退職」と関連する概念として、「静かな採用」という考え方があります 。これは、企業が実際に正社員を新たに雇用せずに、既存の従業員に現在の職務内容以上の責任を与えることで新しいスキルを得るというものです 。すでにいる人材を活用することで採用コストを抑え、新たな役割に就くことで個人の成長を後押しする効果が期待できます 。しかし、適切な教育やサポート体制が整っていない場合、従業員に過度な負担がかかり、「静かな退職」につながる可能性も考慮する必要があります。  

「静かな退職」に対する様々な見解

「静かな退職」に対する企業の捉え方は一様ではありません 。中途採用担当者の中には、キャリアアップを求めない働き方も尊重すべきであり、そのような人材が必要な業務もあるとして、「静かな退職」に賛成する意見も存在します 。一方で、「他の従業員に伝播する」や「会社としては有益ではない」といった懸念の声も上がっており、その影響を注視する必要があるでしょう 。企業としては、従業員の不本意な「静かな退職」を防ぐための工夫や制度改革が求められると言えます 。  

まとめ

「静かな退職」は、従業員が仕事への熱意を失い、必要最低限の業務のみを行う状態であり、その背景には社会の変化、労働環境の課題、個人の価値観の多様化など、複合的な要因が存在します。企業がこの問題に対処するためには、従業員エンゲージメントの向上、職務内容の明確化、公正な評価制度の導入、ワークライフバランスの支援、社内コミュニケーションの活性化、メンター制度の導入、キャリア開発支援といった全社的な対策が求められます。また、従業員の年代別の特性を踏まえたきめ細やかな対策も重要です。外部の専門家の知見を活用することも、効果的な対策を講じる上で有益な選択肢となるでしょう。「静かな採用」という考え方がある一方で、「静かな退職」に対する企業の認識は様々であり、その影響を慎重に見極める必要があります。日本企業が持続的な成長を遂げるためには、「静かな退職」の現状を理解し、従業員一人ひとりが意欲を持って働ける環境づくりに積極的に取り組むことが不可欠と言えるでしょう。

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